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5話 『報道』 (1999年2月26日)

『――皆様、落ち着いて行動してください。未だ希望は残っています。小惑星アルマゲドンの迎撃の為に打ち上げられた5機のロケット。また、臨機応変に対応するために志願した4人の宇宙飛行士達の乗るスペースシャトルもまもなく打ち上げられるところで――』


 テレビを付けた途端流れ始めた現在の状況を尻目に、再びリモコンを操作してチャンネルを変える。


 ナズナの予想は当たっていた。

 小惑星は地球への直撃軌道を通っていることが発表され、それを追うように迎撃用のミサイルが打ち上げも発表されている。

 どう考えても水面下で準備していたのは丸判りだが、その後の混乱を考えれば仕方の無い対応だろう。

 実際、全世界的には略奪等の犯罪が蔓延し、治安が大幅に悪化している。


「しかしこうしてみると、日本は不思議な国だよな。色々不便になっているが、インフラも機能しているし、身の危険まで感じることが無い」


 世界滅亡の危機とあって、資本主義がほぼ機能しなくなっている。

 資本を稼ぐための大半の業務は放棄され、逆に溜め込んだ資本を使いきろうと動く人々が数少ない売り場に殺到している。

 但し、日本に限って言えば企業的な活動は停止しているものの、商社や飲食店といった最低限生活に必要な分野は辛うじて機能している。


「民度が違う、なんて絶賛する報道もあるけれど、裏を返せば、日常を放棄するのを恐れているだけとも言えるわね。今までと違う行動を取るのって労力がいるもの」


 現状、国から出ている指示は外出の自粛(・・)の要請といった矛盾した対応のみだ。

 但し、不思議なことにこれで上手くいっている。

 企業は会社自体を休暇とし、会社員はそれに従っている図式となっている。

 学校も同じであり、暫くは自宅待機との指示となっている。


 そんな状況でありながら、ナズナは我が家のリビングのソファーで本を捲りながら寛いでいる。

 だが、別におかしなところは1つもない。

 これが、俺らの日常である。


 災害孤児独立支援プログラム。

 形式的には行政プログラムの一つであるが、決して表に出てくるようなものではない。

 両親を事故等で失なった場合、残された児童は一般的には施設に入るようなイメージを持たれているらしいが、実際はこのプログラムを選択することが可能だった。

 このプログラムの内容は名前の通り孤児の独立を支援するものだが、実態はそんな綺麗なものではなく、便宜的な保護者のみが設定された後は自由に放置されるというものだ。

 行政的には問題さえ起こさなければ費用の削減になり丁度良いという裏事情によるものらしい。

 俺の場合は両親が事故に合い一人となったが、それなりの資産を残しており、諸々のしがらみが煩わしかったのでこれ幸いと手を挙げた。

 但し、このプログラムには1つだけ制約が付く。


 それが、対象児童同士による共同生活だ。

 対象者は何かしらのデータを基に相性の良さそうな人物が勝手に指定されるが、何故か男女で組まされる。

 問題を協力して解決させるためか、問題を起こさないようにお互いを監視させるためか知らないが、これがどうして上手くいっているらしい。

 共同生活させることで住宅は1つで良い分生活に余裕ができるし、相手が異性であるがために適度な配慮が生まれ生活にメリハリが付く。

 少なくとも俺はナズナには全く不満がない。


「さてと、じゃあやるか。今日こそ世界を救わねば」


 テレビを付けた理由がこれだ。

 電源スイッチを押すとキュルキュルと中のディスクが回りだし、その直後にロゴが画面に映る。

 コントローラを持ち上げ、流れ始めるムービーをボタンを押してスキップすると、タイトル画面が表示された。


 世界の終末を迎え、何をするか考えた末行き着いた先は娯楽であり、ゲームだった。

 今起動しているのは昨年末に発売された大作RPGであり、嘗てない名作と聞き及んでいたが、時間が取れず積みゲー状態となっていたものだ。


「うるさくなるが大丈夫か?」


 ナズナがしているのは読書だ。

 革製のブックカバーに包まれた漫画より薄く、何やら文字が多い本を開いている。

 俺と同じで終末に自分の趣味を選択しているが、活字による知識探求の方に心残りがあるらしい。


「問題ないわ。そっちの話も気になるもの。丁度こっちの話とも似た設定だし」


 今始めようとしているゲームは、ファンタジー世界ではなく学園もので、複数の主人公視点で物語を体験することで、最終的に大きな謎が明らかになるというものだ。

 つまり、ナズナが読んでいる堅苦しそうな本の内容にそぐわない。

 ナズナがどの辺りが似ていると判断したのか気になり、聞いてみることにする。


「似た設定ってどの辺りだ?」


「どの辺りってそのままよ? 現実に即していて、それでいて核心に迫っていくところ?」


 おや?

 何か違和感がある。

 どうにも話が噛み合っていない。


「ナズナ、それって何を読んでたんだ?」


 今まで自分には無関係と思い、放置してきた本の内容を初めて聞いてみた。


「あ、これ? 去年大賞を取ったやつなのだけれど、これ迄の大賞作品とも一線を画すわね。もし今後も世界が続くなら、こういう方向に向かっていくのではと思う程よ。興味が出たなら読んでみる?」


 気になって一時的にその本を受け取って確認してみると、内容が気になるタイトルと会話主体の文字列、数10ページに1枚ほど入る挿し絵があった。

 つまり、難しい本ではなく小説――より正しく言えばライトノベルがそこにあった。

 ナズナは普段から同じサイズの本を開いていたので、日頃から読み漁っていたのだろう。

 今更ながら、ナズナにそんな親しみやすい趣味があったなんて驚きだ。




 尚、実際読んでみるとクソ面白かった。

 他にもオススメを何冊か薦められたが、ナズナのチョイスに間違いはないだろう。

 終末まで間に合うか不安だ。

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