48話 『歓喜』
「お。レベル上がってんな」
「そうか」
最後にモンスターを食材扱いで討伐しているので、経験値は入らない可能性もあったが、そこは普通に判別されるらしい。
つまり、モンスターが食材になった訳ではなく、包丁がモンスターを食材と見なしただけであり、システム側としてはモンスターが誰に倒されたかのみが考慮されるのだろう。
「で、どんな感じだ?」
「24だな。不思議な事に全てのパラメータまでもが24だ。ハヤト、お前やっぱりなんかやってんだろ」
レベルが24ならば、カナタさんやヤスタカより上、ミフユより下だ。
転じて、グリフォンはドッペルゲンガーより上、ゴーレムより下の強さということか。
正直ドッペルゲンガーの方が厄介だった気がするが、それはグリフォンが本領発揮する前に討伐できたからかもしれない。
パラメータが全部同じなのは、レベルアップ時の乱数等余計な仕組みを排除して効率化してあるとすれば説明もつきはする。
だが、ヤスタカ言うように俺が操作したとするならば、俺は全てのパラメータを最大まで振っているだろう。
なので、偶々そうなっただけか、何かしらのバグに過ぎないのではと考えている。
「しかし、あまり実感はないな。気持ち動きやすくなった気はするけども」
数値が1から24になったからと言って、力が24倍になった訳でもない。
24パーセントアップ位であれば理解できるが、システム的な数値が相対値というのも変な話だ。
まぁ、計算式の解析は俺の分野ではないので、レベルが上がれば強くなる程度の漠然とした理解のみで大丈夫だろう。
「さて、ここから本番だな」
「そうね。ここを通れば中央広場に出られるのだけれど、流石にそこに出れば気付かれるでしょうね。無視して突っ切るのが妥当じゃないかしら」
図書室前の廊下を通り抜けるとそこは2年3年の教室エリアとなるが、そのエリアは中央に吹き抜け状の広場があり、それを囲う様に教室が配置されている。
つまり、中央広場に出れば何処からも視認可能である上に広場であるために隔壁も無い。
モンスターが蔓延っている状況であれば確実に気付かれる。
それならば、全てのモンスターを討伐する勢いで戦うか、階段エリアまで一気に駆け抜けてしまうかの2択だろう。
「階段まで行ってしまえば隔壁を降ろせる、か」
チラリとヤスタカの反応を見ると、頷きで返してきた。
どうやら認識は正しい様だが、今の頷きで方向性の統一の意味も生じている。
「今のところ近くにはあまり居ないっすね。多分一気に行けるんじゃないっすかね」
通路の端から中央広場を覗き見ると、中央広場には金属光沢のある巨大なアルマジロや空中を漂う宝玉、3階の廊下には白い翼を生やした2足歩行の何かが見えるが、ここから確認できるモンスターはその程度だ。
ミフユ達やヤスタカの話では、全体としてはもっと沢山居たと聞いている。
俺の予測では、屋内に居るモンスターは誰か――神様を探す意図で人間の近くに召喚されているので、恐らく教室への待機組と同じ人数で全体としては20体くらい居るものと思っている。
それが近くに3匹しか確認できないのは不穏であるが、確かにチャンスでもある。
「じゃあ、321で行こう。並びはさっきと同じ。…………3……2……1……ゴー」
俺の掛け声と共にミフユが駆け出し、それを追い掛ける様にヤスタカが飛び出す。
遅れてミフユと俺が続く。
スライムは俺の後からポヨポヨ跳ねながら付いてくるが、特別遅れているわけでもない。
この調子であれば階段にたどり着くのは一瞬だ。
だが、その試みは失敗した。
1階の職員室前へ繋がる階段。
そこには4本の腕を組み、階段の手摺に腰掛ける、緑色の肌のモンスターが居た。
立ち上がれば恐らく階段フロアの天井に届く程、手を広げれば端から端まで届くだろう。
ミフユ達を追い掛け、ヤスタカが恐怖したモンスターで間違いない。
そいつからは強者の貫禄が感じられるが、その強さはその姿から連想される名前からも明らかだ。
「オーガー……いいえ、ここはもっとシンプルに鬼。と言った方が正しいわね」
そう、鬼だ。
瞑想している様に閉じた両眼の上、そのコメカミからは鋭く尖った角が生えている。
そいつがギロリと眼を開け、こちらを睨んできた。
流石に気付かれているとは思っていたが、この様子からは逃がしてもくれないだろう。
「まさか、あいつ……私達を待ってたんすかね」
「いいえ、多分違うわ。恐らくあの教室、そこに誰かが居るんじゃないかしら」
ナズナが示す教室、それは階段の正面にあるが、まるで授業中であるかの様にピッシリと扉が閉められている。
その扉からは隔壁の様な頑丈さは見えず、鬼が1撃でも拳で殴ろう物なら消し飛びそうな様相すら感じられる。
それがそのまま放置されているのは、恐らくシステム的な都合だ。
隣のエリアにモンスターは移動できない。
モンスターが内側にポップアップするまでだが、ミフユ達も暫くはその仕様により籠城できていた。
但し、鬼はそれで諦めることはせず、じっと標的が巣穴から出てくるのをじっと待っていたのだろう。
そんな硬直状態の中、俺達がやってきた。
久方ぶりに見つけた獲物に歓喜したのか、鋭い牙が突き出ている口元はニヤリと笑みを浮かべ、そして口を開いた。
『クロソレ ワ! クラクエ ドル ワ』




