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45話 『魔術』

「あれ? 魔法使いと魔術師って何が違うんですか?」


 片岡が疑問を口にしたが、一般的には違いはない。

 ゲームの世界観によってどちらが使われるかが変わる程度でしかない。

 メタ的なところでは送り仮名の『い』の有無による文字数の都合なんて話もある。


「わざわざ使い分けるのであれば、魔術は論理的な現象、魔法は超常的な現象と言った分野の違いね。簡単に言えば科学とオカルトの違いね」


 整理するとそんな感じか。

 魔術師の方が堅苦しい学者の様なイメージで、魔法使いは自由奔放で才能が基になるイメージがある。

 強さ的には制約が無い分、魔法使いの方が上位だろうか。


「あぁ、あれっすか? マジシャンとウィッチの違いと言うか」


 ミフユの例えは、某ボードゲームに依るものだろう。

 マジシャンがプレイヤーとなり、ウィッチが棲む森に仕掛けた罠を潜り抜けていくゲームだ。

 基本周回を前提とするするゲームで、1度クリアすると、クリア時に使用した魔術が次の周回の罠になる仕様となっている。

 この際、マジシャンは新米の魔術師の設定で、ウィッチは熟練の魔法使いという設定になっている。


「残念ながら、そのどちらも魔術師とも魔法使いとも訳されるわね。他にもメイジとか、ウィザード、ソーサラーやウォーロックなんて言葉もあるけれど、そのどれもが魔術師であり魔法使いね」


「あー、どれも同じなんすね」


 どれも同じと言うには語弊がある。

 一瞬、ナズナの目が光った気がしたが、強ち気のせいという訳でもないだろう。


「微妙なニュアンスの違いはあるわよ。マジシャンはそのまま、未知の現象を起こす者。メイジは同じ語源なのだけれど、研究者寄りで手品師や奇術師が弾かれるわ。ウィッチは一般的に女性の魔法使いと思われているようだけど、中性の魔女狩り――悪魔崇拝をしているとされた女性の処刑のイメージが強いわね。そう考えると、悪魔を倒して力を手に入れた私は魔女になるのかしら?」


 こうなったナズナは、ある程度会話に乗ってやらないと、結構がっかり(・・・・)する。

 ミフユには対応は少々厳しいだろうし、テンションが低いナズナは今後の行動するにあたって面倒なので助け船を出してやる。


「補足するなら、ウォーロックは魔女のイメージの強いウィッチの男版。ソーサラーやらソーサレスは呪いの様な黒魔術やらを使う者の総称だな。ウィザードは魔術やら魔法やらを極めた上位者として扱われる事が多い」


 後は、使用する術のジャンルとして、治癒術ならヒーラー、付与術ならエンチャンタラー、召喚術ならサモナー、死霊術ならネクロマンサー等々、他にも色々区分けがあるが、どれも魔術師であり魔法使いでもある。

 この辺りの話まで広げてみるかとナズナの様子を確認しようとしたが、その行動は突如中断された。


「それだ!」


 俺達の会話で何かに思い至ったのか、ヤスタカが声を上げている。


「それとは?」


「ウィザードだよ、ウィザード。技術者のお門を簡単に奪っていく現代の魔術師――ウィザードなんかお前の代名詞みたいなもんだろ」


「んな大袈裟な」


 ウィザードとは魔法的な意味合い以外にも、あらゆるシステムに容易に侵入する特級のハッカーにも与えられる称号だ。

 確かにバグの発見率は高めだし、その利用法なんてものも割りとすぐ思い付いたりするが、精々その程度だ。

 専門知識ではヤスタカの方が上だし、一般知識でもナズナの方が上だ。


「いえ、一理あるわね。モンスターを倒していないのにシステムにハッキングしてステータスボードを使えるようにしたり、自由に操作できるようにしたって訳ね」


 うーむ。

 先に『魔術師』の職業を得ていてその補正で取得するのであれば可能性はありそうにも思うが、それなら順番が逆だ。

 だとすると、異世界のシステムを瞬時に理解し、自力でハッキングしたことになる。

 無理だろそれ。


「凄いっすね、先輩」


「……すごい」


 ほぼ状況を見守っていた芹沢まで俺を称賛の眼差しで見てくる。

 否定したい気持ちは多々あるが、どうやら今の状況を覆す事は厳しそうだ。



  ◇  ◇  ◇



「じゃあ開けるぞ」


 開けるのは、昇降口から入って右側の隔壁だ。

 事務室やら職員室に通じる通路であるが、その先に体育館がある。

 時間的には修了式は終わっていた筈だが、元々人が多く集まっていたのはそこだ。

 生存者を助けるにせよ、元凶の神様を捜すにせよ、取り敢えず向かう方向としては妥当だろう。


 ヤスタカが隔壁の横にある黒いパネルに手を翳すと、ピッという反応音が鳴った。

 その後、裏で何かの機械が動き出すような音が鳴り始める。


「おぉ! 学校でこんな大掛かりな仕組みがあるなんて不思議っすね」


「一応、ここには何もいない筈だが、なんか来たら頼むぜ」


 ヤスタカは、隔壁が開き始めるとミフユの後ろに隠れるように回り込んだ。


「えー、そこは俺に付いて来いくらい言ってくれないんすか?」


「仕方ないだろ。レベルが違うんだからな。数値は嘘を付かないもんだ」


「でも、あたしの防御力は紙なんすよね」


「そん時はそん時だ。どうしようもなければ壁にでもなってやるさ」


「ほんとっすか? 期待してるっすよ」


 未知のエリアに進む緊張感は何のその、目の前ではミフユとヤスタカが掛け合いを楽しんでいる。

 なんだかんだこれまで面識はなかった筈だが、案外相性は良いのかもしれない。

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