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42話 『職業』

「職業? ジョブってことか。そんなものが判るのか」


 ヤスタカが言う職業とはRPG等における職のことだろう。

 勇者とか戦士とかそういった職によって、覚えるスキルやパラメータの上がり方が変わったりする類のやつだ。


「判るも何もこれに書いてあるだろ? 持ってないのか?」


 そう言ってヤスタカが出したのはステータスボードだ。

 ここまで生き延びているならば持っていて当然とも言えるだろう。


「あるわね。もしかして貴方これが読めるの?」


「お、おう。つうか読めるのかって、そんなの当然……じゃ、ないのか?」


 ステータスボードは文字化けしている。

 それが読めるのあれば、ヤスタカが持っているだろう『修正パッチ』が関係しているに違いない。

 だがしかし、今この場においては別の問い掛けの方が的を射た回答が得られる気がする。


「なぁ、ヤスタカ。ちなみにお前の場合は、その職業って何になるんだ?」


「ん? あぁ、俺は『技術者』だな」



  ◇  ◇  ◇



「なんだこれ。クソ旨いな」 


 これまで2日間ラスクしか食べていなかった上に、芹沢が精錬された調理器具で作った豚丼(・・)だ。

 実際かなり旨い。

 食材がかなり限られていると言うのに、調味料の使い方でここまでバリエーションを用意してしまうのは流石としか言いようがない。


 一度研修棟に戻って来たのはヤスタカに食事やシャワーを提供することの意味もあるが、購買にあった商品の価値が高かったのも大きい。

 ヤスタカは丸2日売店のフロアに潜伏していた訳だが、その割りには身綺麗な格好をしていた。

 その理由は主に購買には学校指定の体操着、そして下着やウェットティッシュ等の日用品まで置いてあった為だ。

 見掛け上は小さな窓口に過ぎず、文具の購入で1、2度使った程度しかなかったが不測の事態用の物はある程度用意されていたらしい。


「それで、ステータスボードがあるって事はモンスターを倒したって事だよな」


「あぁー、それな……」


 当然の質問をしたつもりだったが、俺の質問を皮切りにヤスタカからは重苦しい空気が流れる。

 ヤスタカは集中して話す為か、残り少ない豚丼を無言で食べ進め、「ご馳走さま」と箸を置いた。


「多分ガードロボか何かだろう。俺らの前に現れたそいつをなんとか皆で倒したんだ。俺が倒した事になったのは偶々だな」


 留めの一撃がヤスタカだったということだろう。

 一応ヤスタカは偶々だと言っているが、相手が機械系のモンスターであったのであれば、そういった物に詳しいヤスタカの攻撃が、他のメンバーの攻撃より効果的だった可能性は大いにある。


「じゃあ、やっぱりその時に犠牲が……」


 ヤスタカの説明に反応したのは、既に同じ様な経験をした片岡だ。

 ヤスタカの雰囲気から、討伐時に犠牲が多く出ているものと推定したようだ。


「いや、そこまでは皆無事だった。大小の怪我位はあったがな。問題はその後だ。思い出すのも恐ろしいが、教室を出た所に緑色の肌の魔物が現れて――――」


「あ、それって私達が追いかけられたのと同じ……」


「あぁ、あの時の腕の持ち主ね」


 ナズナが同意するが、そいつは俺も記憶がある。

 ミフユ達を渡り廊下で、大岩と天井の隙間から助ける際、その隙間から伸びてきたモンスターの太い腕のことだろう。


「なんだ、知っていたか。じゃあ、そいつの説明は省くが、そいつに一人、二人とやられていってな……加藤も、原口も、その他皆消えてしまった……。俺が逃げられたのは、先にこのステータスボードってやつで身体能力が上がっていたからだろうな……」


 よっぽど恐ろしい光景だったのだろう。

 話すに連れて思い出したのか、言葉の節々で話が途切れ途切れになっている。

 加藤と原口はヤスタカの中学時代からの友人であり、俺も良好に接していた。

 この分だと恐らく、2年で教室に残ったクラスメイトは全滅してしまったのだろう。


「でもそこから生きながらえたってことは、『修正パッチ』もあるって事っすよね」


「修正パッチ? ……あぁ、これのことか?」


 ヤスタカは前にナズナやカナタさんが見せてくれた様な光る宝玉を手の中に出現させた。

 その形状や出現方法から『修正パッチ』で間違い無い。


「それはどの様な状況で手に入れたのかしら? これまでの検証から世界のバグの様なものに起因するのは判っているのだけれど」


「あぁ……。そういう理屈なのか。なぁ、ハヤト。お前ならこいつも知ってるか? 俺は初めお前らが向かった旧校舎に逃げていったんだ。そしたら渡り廊下が塞がれていてな」


 それは当然知っている。

 渡り廊下が巨大な岩で通れなかったのもあって、外回りで新校舎に入ることになった様なものだ。


「あの異常な大岩のことだな」


「あぁ。あれなんだが、俺には物質が重なっている様に見えた。非常識だがな。そしてあのガードロボット。ああいうロボットは普通何かの施設の警備で使用されるものだ。となると、この学校に重なっているのは何か異世界の施設か何かじゃないかと思ったわけだ」


 なるほど。

 あの大岩は明らかにバグっていた。

 にも関わらず『修正パッチ』が手に入らないのは不思議だとは思っていた。

 その理由が既にヤスタカによって『修正パッチ』が得られていたのであれば納得がいく。


「異世界の施設……。つまり、あの昇降口にあった特殊な隔壁はその施設の物ってことかしら?」


「あぁ、その『修正パッチ』を使って隔壁を閉めながら逃げ回った結果が、俺があそこに居た理由だな」

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