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37話 『属性』

「気づいてはいなさそうだな」


 研修棟の玄関から左を向くと、広場の中央に居るトレントの幹が見える。

 距離的には微妙なところだが、変化がないところをみると大丈夫だと思う。


「じゃ、先行くっすよー」


 ルートは玄関から右に行き、建物を回り込む様に敷地内を時計回りだ。

 建物の裏側は通路としては想定していないので荒れ放題ではあるが、通るのには特別支障はない。

 前衛はミフユ――とスライム、中衛がナズナで、後衛――と言うより、トレントとの矢面に立っているのが俺だ。

 最悪、トレントが反応して何かを射出してきてもステータスボードで弾く程度の自信はある。


『きゅいい!』


「ん? どうしたんスラボウ」


 ミフユが荒れ地に踏み込もうとした瞬間、スライムからの声によりミフユの足が止まる。

 だが、それが幸いした様だ。


「う、うわ、うわわわわ」


 ミフユの足元から鋭く尖った木が突き出し、ミフユに襲い掛かるが、辛うじてミフユは全ての木を回避している。


「残念ながら気付かれていたみたいね。一度戻るわよ」


 襲い掛かってきたのが木である以上、その大本はあのトレントだろう。

 まさか地中の根を使って攻撃してくるとは思わなかった。

 ナズナの提案通り研修棟に戻ろうとするが、地面の異変に気づいた。


「待てナズナ。とりあえずこっちだ」


「え? きゃっ」


 俺を追い越すように走り込もうとするナズナを左手を横に延ばして静止させ、立ち止まったナズナの手を引いて逆側の建物へ向かう。

 一瞬驚いていたナズナだが、研修棟の方をチラリと見て気づいたらしい。

 研修棟の逆側の建物は資料館だ。

 各種重要な資料が保管されているようだが、1階のフロアには学校の全体像のミニチュア模型やら、歴史を示すパネルなり展示されており、そのフロアは誰でも入場可能だ。

 そのためなのか案の定鍵は掛かっておらず、無事に逃げ込む事ができた。


「せ、先輩。逃げ込むならあっちじゃないんすか?」


『きゅきゅーい』


 先程の根っこの攻撃への回避劇を演じたミフユとスライムだが、俺達に続いて無事に資料館へと逃げ込んできた。


「ほら、あれ見てみろよ」


 資料館のガラス越しに俺が指差したのは、研修棟の玄関の基礎部にある石だ。


「あれって、特に何も――――って、うわっ」


 ミフユは気付かなかったようだが、その石には先程無かったひびが入っていた。

 そのひびが突如割れて根っこが飛び出し、そいつが俺達を捜すように右や左に向いた後諦めたのか地面に引っ込んだ。


「罠を張られていたみたいね。でも、やっぱり建物の中は見えないようだから一先ずは安心して良いと思うわ」


 とりあえず引きこもっている上では安全だが、如何せんこちらの建物に食糧は無いので、長い時間は無理だ。

 時間が経ってトレントの警戒が薄れた際に、一気に研修棟へ駆け込むのが無難な気がするが、それだと何のために出てきたのか判らない。


「一度、どれくらい通用するか試してみるか?」


 トレントという種族は、身体だけは大きいが本来そんな強いモンスターではない。

 広場では一際目立っていたが、元より水棲モンスターがこの付近には多かった。

 つまり、水属性に対してトレントが木属性とすれば、たまたま相性の都合で優位に働いていた可能性もある。


「そうね。ただ、雷が木に通用するイメージが無いのだけれど。前のゴーレムみたく無効であれば多分私には手だては無いわね」


 一般的には木は電気を通さない。

 しかし、ゲームシステムの属性的な観点ではその考えは地面タイプとの相性の方に使われ、木と電気の関係は考慮されない方が多い。


「多分、そこは等倍で通る。問題は倒しきれるかという点だけど」


 今ある戦力を考える。

 主力と言うより唯一通用しそうな攻撃は当然ナズナの雷魔法くらいだ。

 ただ、トレントの大きさ等を考えると持久戦になり、その時間を稼ぐのがミフユと俺の役割になるだろう。


 ミフユが呑み込んでしまったが、今までの経緯上ミフユの『修正パッチ』の能力は、回避に補正が掛かる、もしくはシンプルに運が良くなると言った方向であることは間違いない。

 ただこれは囮としては申し分ないが、直接誰かを守る点では有用ではない。


 となると、俺がステータスボードのバグで対処する必要があるが、地面からの攻撃まで考慮するのはだいぶ厳しい。

 後は、ヒットアンドウェイに徹するか、スライムの能力に期待するかになるのだが。


「あれ? あれなんすかね? 何か光っているような」


 ミフユが指差したのは、このフロアの片隅だ。

 学校の説明パネルの裏にひっそりと置かれている。

 ミフユがその存在に気づいたのは、その物体が虹色の光を発していたためだ。


「そうか。重要なマップ上なのに、構造上人がまず立ち入らない建物、そんなところに何の仕掛けも用意されていないなんてあり得ないよな」


「先輩はあれが何か判るんすか?」


 判るも何も見たままだ。

 1メートル程の幅の木製であり、丸みを帯びた蓋が付いて、金属で意匠が施された箱。

 つまり、それは――――、


「宝箱さ。それもレアアイテムが入っているやつだ」

 

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