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34話 『道具』

 シャワーから戻ると、皆が集まりながらも場が騒然としていた。


「ん? なにかあったか?」


「あ、先輩。成功したんすよ。最後まで」


 何がとまでは聞かない。

 それは、シャワーに行く前に取り掛かっていた事でもあるし、カナタさんの手にある物でも判る。


 カナタさんの手にあるのは黒い包丁(・・)だ。

 精錬すると銀色になるので、黒いのは最後まで過剰精錬しきった結果だろう。


「7回で最大らしい。だが、効果は結局よく判らんな」


 カナタさんはしげしげと包丁を回し見ると、解析についてはお手上げとばかりに長机へと包丁を置く。


 その長机の上には様々な物が置かれており、カナタさんの左右で2つに分けられている。

 向かって左側は鍋や食器等の台所用品、茶室のインテリアとして飾られていた模造刀、ハサミやカッターナイフ等の文具、等々、研修棟で集めた金属製品だ。

 そのどれもが銀色に光輝いている。

 一方向かって右側には、フライパンの取っ手、ドライバーの柄、ホチキスの外枠といった部分が置かれており、金属製の部分は全く無い。


 つまり、安全圏まで精錬した素材と過剰精錬失敗の残骸となる。

 何度も繰り返し精錬した証拠に、後ろの長机には中身が空になった丼が8つ程重ねられて置かれていたりする。


「そうね。確かに数値にはなんの変化も無いわね」


 ナズナも机に置かれた黒く染まった包丁を手に取ると、包丁には見向きもせず別の物を見てカナタさんに同意した。


 ナズナが見ているのはステータスボードだ。

 文字化けしているとはいえ、装備の有無でパラメータが変化するのは神銀バールや神銀パイプの時点で確認している。

 

「特殊効果でも付いたんじゃないですか?」


 片岡もいつもより積極的に議論に参加してくる。

 それは自分用の武器になるかもしれない為だろう。

 とにかく1体でもモンスターを倒す事がステータスボードを得る条件、言わば生存の助けになる以上、何かしらの強化がされた武器は魅力的だろう。


「その可能性もあるのだけれど、精錬した時点で変化が無かったからあまり期待できないわね」


「ん? 最大までの効果じゃなくて最初から効果が無かったのか?」


 今までは、精錬する事で何かしらのパラメータ補正がされていた。

 それは俺のアミュレットも同じだ。

 しかし、こと包丁に至っては何の効果もなかったらしい。


「えぇ。因みにその包丁だけが例外じゃないわよ。ここにあるほぼ全て、逆に効果があったのはその4つだけよ」

 

 ナズナが示したのは、長机の左側の素材の山だ。

 だが、良く見ると4つの道具のみ山から少し離れて置かれていた。


「模造刀、お鍋の蓋、トレイ、後はヘアピンっすね」


「えぇ、共通点があれば良かったのだけれど」


 ナズナの言葉で皆再び黙り込んでしまった。

 そりゃあ、このラインナップで共通点を見出だすのは厳しいだろう。

 だが、俺にはピンと来てしまった。

 我ながら馬鹿馬鹿しいとは思うものの、こんなゲームをそのまま取り込んだ様な世界ならありそうだと思う。


「カナタさん、一つ試して貰いたい素材があるんですが良いですか?」


「お、おぉ。何か思い付いたか? 何でもいいぜ」


 一応、口で推論を説明しても良いが、実証した方が説得力があるだろう。

 とりあえず思い付いた方法を行うには材料を集めなくてはいけない。

 その材料は全て調理場にあった筈だ。


 皆が食堂の方から見守る中調理場に入り、そのまま調理場の隅の大きめのロッカーを開ける。

 ロッカーの中身は掃除用具だ。

 その中からヘッドが交換可能なモップを取り出し、ヘッドを外す。

 そして、調理場に残っている包丁の中で比較的尖っているものを選び、モップの先に取り付けて壁際の机の上に置かれているテープでぐるぐる巻きにして固定する。

 完成したそれを持って、食堂に戻りカナタさんへ手渡す。


「これをお願いします」


「これって……槍か? しかし、こんな包丁を付けただけじゃさっきとなんも変わんねぇんじゃねぇか?」


 まぁ、カナタさんの言うように変わらない可能性も当然ある。

 だが、多分これで十分だという変な確信は持っている。


「それならそれで振り出しに戻るだけですね。とりあえず、カナタさんの言ったように、これは槍です。『手製の槍』という物だという認識でお願いします」


「槍ねぇ。ま、なんでも良いけどよ。じゃ早速『精錬』。――――お! 上手くいったんじゃねぇか?」


 カナタさんは持った感触から補正が掛かっていると既に認識したようだ。

 続いて刃先が銀色になった手製の槍をブンブンと振り回して試した後、ナズナに槍を手渡した。


「確かに補正が掛かっているわね。いったいどういう理屈?」


 ナズナはステータスボードの変化を見て成功していると確認すると、じっと俺の方を向いて尋ねてきた。


「簡単な話でアイテムのジャンルの問題だな。その槍や模造刀は『武器』になるんだ。ヘアピンは『装飾品』、鍋の蓋やトレイはネタ枠だが『盾』に分類されがちだ」


 つまり、ゲームとして見た場合、それがどういう分類になるかという話だ。

 基準は神様の匙加減一つなのでなんとも言えないが、割りかし俺の感覚に近いらしい。


「それだと包丁は武器にならないんすか?」


「あぁ。まぁ、無くはないんだが意外とゲームに登場しない。寧ろ登場しても他の用途の方がまだ採用率が高い感じだ」


 神様のゲーム知識が偏っているのか、平均を取っているのかは不明だが、現実に包丁に武器補正が掛かっていないのがその証拠でもある。


「別の用途?」


「料理システムさ。つまり、料理の成功率や性能を向上させる調理用具――分類では『道具』だな」

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