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33話 『精錬』

「できるとは思うが、いいのか?」


「何回かは壊れないんですよね?」


 精錬しているカナタさんの感覚では、最初の1回以外の過剰精錬は4回までは安全でそれ以上は壊れる可能性がありそうだという話だった。


「感覚的にはそうだが、それはオリジナルだしな。俺も壊れたら泣くぜ?」


「まぁ、そこはカナタさんの感覚を信用します。命が掛かるところなので妥協はしないでいきましょう」


 そう言って首からアミュレットを外し、そのままカナタさんへと差し出す。

 アミュレットと言う位なのだから、多少現実的な加護があっても良いだろう。

 カナタさんはアミュレットを受け取ると、肉うどんを横に寄せた。

 どうやら今すぐに実施してくれるらしい。


「よし、じゃあ、早速いくぞ。『精錬』!」


 カナタさんが『精錬』を行うと、昨日と同じ光景が広がる。

 初回の精錬の場合は金属が神銀に変化するが、2回目以降は神銀自体が白い光を放ち、直ぐに元に戻る。

 だが、どうも様子がおかしい。

 光が昨日より強く、消えない。


「うお! なんだこれ」


 精錬を使っているカナタさん自身もよく判っていないらしい。

 既に肉うどんを食べ始めていたナズナもうどんを口に咥えたまま止まっているし、俺とカナタさんがテーブルに来た時からタオルでガシガシ髪を強く拭きだしていたミフユも、アミュレットを見て硬直している。

 だが、その異変もすぐに収まった。


「せ、成功しました?」


 カナタさんも驚いていたので、もしかしたら判らないかもしれない。

 だが、少なくとも壊れて消えているわけではないので成功しているものと信じたい。


「今の光、何ですか?」


 カナタさんからの返答を貰う前に背後から声が掛かった。

 背後に振り返ると、そこに居たのはミフユと同じ様に頭にタオルを被った片岡と芹沢が居た。

 芹沢の抱いているスライムの頭にもちょこんとタオルが乗っている。


「いや、カナタさんにアミュレット精錬して貰ったんだが……」


「そ、そうなん、ですね」


 俺が片岡に説明しようとしたら、片岡は何故か顔を少し赤らめ、身を隠すような行動を取った。

 ミフユも似たような行動をしていたが、何か俺に変なところでもあっただろうか。


「ちょっ! カナタ先輩大丈夫っすか!?」


 今度はミフユから驚きの声が上がったので再度そちらに振り返ると、カナタさんが机に突っ伏していた。


「いや、問題ない。さっきの質問だが、成功はしている。多分、素材の純度の都合じゃねーか? エネルギーを根こそぎ持っていきやがった。せめて食ってからやるべきだったな」


 話ながらのっそりと起き上がってきたカナタさんは、話し終わると猛烈な勢いで横に置いていた肉うどんを掻き込み始めた。

 恐らくアミュレットのレアリティの様なものがバールや鉄パイプに比べて格段に高かったのだろう。

 その結果、大量のSPを消費することになった。

 ナズナも魔法を使い続けると喉が渇くと言っていたので、カナタさんの場合はいっきに空腹になったと言うことだろう。


「カナタさん。俺の分も食べて下さい。俺は別に作ってきます」



  ◇  ◇  ◇



 上から降り注ぐ温かい湯が気持ち良い。

 昨日からの慌ただしい出来事が落ち着いて、やっとゆっくりシャワーを浴びる事ができている。

 できれば風呂にでもとでも言いたいところだが、流石にそれは贅沢すぎると言うものだ。


 この浴室自体はそれなりに広いが、浴槽は無い。

 壁の両側にシャワーがそれぞれ3つずつ並んでおり、隣のシャワーとは衝立て状の壁がある程度で特別な隔たりは無い。

 本来の合宿等で利用時は顔見知り程度の人とも裸の付き合いをすることになるので、少々気恥ずかしさを覚えそうなものだが、今は一人で独占しているのでその辺りを気にする必要性は無い。

 皆既に浴び終えている上に、カナタさん以外は皆女子なので、そもそも満員になる事自体があり得ないのだが。


「さて、そろそろ戻るか」


 十分満足したのでシャワーを止め、そのまま浴室から脱衣場へ出る。

 ここのシャワー室は脱衣場と浴室の2室構造になっているが、特別男女の区別はなかった。

 脱衣所の方に鍵が付いているので、本格的に使う場合は時間を区切って入れ換え制にでもしているのだろう。


 幸いにしてタオルは脱衣所の棚に大量に積まれていたので困ることはない。

 そこから1枚取り、適当に身体を拭うとそのまま横の洗濯機へと放り投げる。


 元々宿泊した後のシーツでも洗うためだろう。

 このシャワー室には洗濯機と乾燥機のセットが3つ程備え付けられていた。

 その内、手前の洗濯機の1つだけ蓋が空いており、その上の乾燥機のみゴウンゴウンと動いている。

 手前の洗濯機には既にタオルが詰まっているが、それは先に入ったナズナが使ったものだろう。


「あー。これは洗うか」


 改めて一度脱いだ服を着ようと思ったが、流石に下着位は洗っておいた方が良いだろうと思い直した。

 あえて洗濯機を使う程でもないので、洗面台でジャブジャブと水で洗い、適当に絞って乾燥機へ――――。


「はぁー。なるほどな。またナズナにデリカシーが無いなんて言われかねないところだった」


 昼飯の時のミフユや片岡の行動の違和感、そして俺がシャワー室に入る前にも慌ただしくしていた事に得心がいった。

 違和感をそのまま問いたださずにしておいて良かった。

 そういえばナズナは今さっきシャワーに入った訳だから……いや、これも考えるのを止めよう。

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