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29話 『根拠』

「あ、そういえばさっきのあれ、あたしにも出たんすよ。ほらほら」


 学食に向けて歩き始めたところで、ミフユが見せてきたのは、先程話題に上げていたステータスボードだ。


「は? なんでだ?」


「んー、良く判らないっす」


 ナズナやカナタさんがステータスボードを得た経緯から、モンスターを討伐するのがそのトリガーかと考えていた。

 だが、今のゴーレムでは共闘こそしているが、止めは刺していない。

 それに、共闘で入手できるのであれば、ドッペルゲンガーの討伐の際に入手できている気がする。


「あら、じゃあやっぱり私の魔法は無効だったみたいね。となると、別の対処が欲しいところだけれど」


 ゴーレムはナズナの雷魔法にちっとも怯んでいなかった。

 それは最初に遭遇した悪魔のように実力差が有りすぎて恐らく1ダメージしか与えられていないのとは違い、完全に0ダメージであった為だろう。


 つまり、良くある属性の相性の様なものだ。

 一般的に弱点や半減の属性相性があるものだが、大抵雷属性は地面属性には無効になっている。

 雷魔法がゴーレムに直撃する音と光は凄まじかったが、全く効果が無かったとなると拍子抜けだ。

 下手したらゴーレムは攻撃に気づいていなかった可能性すらある。


「え? ナズナ先輩の攻撃の効果が無かったとしてもそれで説明が付くんですか? ミフユも攻撃していた様には見えなかったし、倒したのはハヤテ先輩ですよね」


 あー、なるほど。

 片岡が客観的に状況を整理してくれて理由が判った。

 確かにゴーレムを討伐するのに最も貢献した(・・・・)のはミフユで間違いない。


「いや、ミフユは最初に一撃だけ攻撃している」


 ミフユが転んだ際に地面に突き立てた神銀パイプがそれだ。

 意図した攻撃ではないにせよ、攻撃としては命中していた筈だ。


「え? それでも、倒したのは……」


 片岡は同じ言葉は口にせず、その対象である俺へ視線を向けてくるが、その認識は間違いだ。


「いや、俺は倒していないよ。あれはゴーレム自体の自滅だ。俺は1回も攻撃をしていない」


「え? まぁ? 確かに?」


 片岡は首をかしげて納得していない顔を見せるが、これはゲームで割りとよくある仕様だ。

 主にネットゲーム――MMORPGで採用される仕様で、討伐した際に敵の体力に与えたダメージの比率で経験値が分散される仕組みだ。

 この際、毒の様な状態異常や敵の自爆攻撃によって敵の体力が減った場合、その減った体力分は経験値計算とは無関係になる。

 つまり、ほんの1ダメージだったとしても他に攻撃した人物がいない場合、討伐の貢献度は100パーセントとなる。


「解決したか? 俺には難しい話はよくわからんが、今はこっちの方が重要になるんじゃねぇか?」


 カナタさんが示したのは学食の建物の玄関の扉だ。

 目的の建物ではあるが、学食として入る入り口とは異なるので学食と呼ぶのは少し違和感が生じる。


「研、修、棟……?」


 芹沢が1文字ずつ区切るように読んだのは、ガラス張りのドアの横に付いている金属プレートだろう。

 研修棟――確か、昨日ナズナもその単語を言っていたので、それがこの建物の正式名称だろう。


「鍵は……掛かってねぇな」


 カナタさんは徐に扉を引いて開けると中に入っていった。

 鍵が掛かっていないのは無用心だとは思うが、この地域ではそんなにおかしなことではない。

 自宅にこそ鍵は掛けてはいるものの、例えばヤスタカの家では常に鍵は開いていたように思う。


 カナタさんに続いて入ると、そこは大きな玄関フロアになっている。

 右側に行くと学食があり、左側にある階段を登った後の直ぐ左側の部屋が畳張りの茶道室になっている事くらいしか判らない。


「左に行くとシャワー室、2階にベッドがあって、3階は会議室っすね」


「そしてそこが調理場、こっちにはランドリールームもあるわね」


 ミフユもナズナも天文部の合宿で学校に宿泊することがあるので研修棟の設備については詳しいようだ。

 先んじて建物に入っていく2人に俺も続く。

 過去に1度入った時にはあまり意識していなかったが、玄関フロアには靴置きのような物が無いので元々土足可な建物だったらしい。

 上履きは少々土で汚れているので、土足禁止のエリアだった場合、そのまま上がるのは忍びなかっただろう。


「とりあえず、安全を確認しましょ。多分、何も居ないのでは思うのだけれど」


「ん? なんでそんな風に思うんだ?」


 ナズナが推測を口にする際は、必ず何かしらの根拠がある。

 あくまでも推測であるために外れることもあるが、それでも8割程は遠からず当たっていたりする。

 モンスターのエンカウントに関係する推測であるならば、例え間違いだったとしても聞いておくに越したことはない。


「2つあるわね」


 ナズナが学食の調理場の方に向かいながら右手で2本指を立てる。

 最初に調理場に向かうのは、ここに来た目的である食糧があるか確認するためだろう。

 仮に何も無かった場合、研修棟全ての安全を確認するより別の行動を取った方が良い可能性も出てくるので、妥当な選択である。


「モンスターは何処から来たか。そして、何処に向かうか、この2つね」

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