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24話 『共喰』 (1999年3月20日 2日目)

「ふぁぁーー、ねむ」


『きゅい』


 東側の窓に掛かる遮光カーテンの端、そこから洩れる日の光が顔を直撃し、眩しさで目が覚めた。

 寝袋をそのままに身体を起こして眼を擦ると、スライムの存在が目に映った。

 こいつは確か、芹沢の枕になっていた筈だが抜け出して来たのだろうか。

 あまり働かない頭で周囲を見渡すと、右の隅にナズナ、左の中央辺りにカナタさん、右奥と左奥にミフユと片岡の寝姿が見えるが、中央奥に居た筈の芹沢の姿が見えない。


「……あ、ハヤト、先輩。おはよう、ございます」


 居ないと思った芹沢だが、別の方向から声が掛かった。

 右側の中央――南向きの窓のある方向で、遮光カーテンの隙間から芹沢は顔を覗かせている。


「何をしてるんだ?」


「え? えと……」


 と言っても、恐らく外の様子を観察していたのだろう。

 元々ハーピィが飛び交っていたし、今日はその中を通り抜ける必要がある。

 気になって仕方がないことだろう。


 俺は寝袋から這い出ると、身体を起こして窓際へと向かう。

 そして芹沢が居たカーテンを捲って外を見ると、芹沢が言い淀んだ理由が判った。


 別に大きく光景が変わっているわけではない。

 相変わらずハーピィは飛び交っているし、遠くではドラゴンが寝そべっている。

 違っているのは、ハーピィの姿だ。

 例えば一番近くにいるハーピィは翼が4枚になっているし、奥の方に見えるハーピィは脚が3本になっている。


「上位個体か? …………いや、バグか」


 バグと判断したのには理由がある。

 芹沢の身長はミフユのように小さいので見えていなかったのだろうが、視線の端で芹沢にはとても見せられない光景が繰り広げられている。

 渡り廊下の屋上に生えている大岩の横、そこには倒れたハーピィがおり、それに覆い被さる形で別のハーピィが居る。

 見せられないと言っても、あっち方向ではなくグロ方向だ。

 つまり、モンスター同士の戦い――倒れたハーピィは明らかに致命傷を受けており、もう1体がその片翼を噛み千切っている。


 ゲームの中では、モンスター同士が戦うなんて仕様はほとんど聞いたことがない。

 将来的にはモンスターの生活まで考慮したゲームも出てくるのかもしれないが、今の技術ではリソースの無駄だ。

 とは言え、そのゲームの様な仕様を無理やり現実世界に持ってきたとして、モンスター同士が仲良しこよしという訳にもいかないだろう。

 何かの切っ掛けで殺し合いが発生し、何かの切っ掛けで共喰いも発生したのだろう。


「あー、やっぱりな。他のモンスターを取り込んだ結果であの姿じゃ、想定外のバグとしか考えられない」


 視界の端に入っていたハーピィ――そいつが補食を終えて飛び上がって来たが、どうにもふらふらしている。

 それも当然、3枚の翼では飛びづらいだろう。

 別のハーピィの翼を補食した事で1枚翼が増えたのだろうが、この強化は明らかに失敗している。


「どうやらポンコツな神様が居るみたいだな」


「神様……ポンコツ……」


 ただ世界に穴が空いただけとはとても考えられない。

 ここには何らかの人為的な作用が発生している。

 ゲームの世界で例えるなら運営とか管理者や開発者、それをこの世界で表すなら神様だ。


「神様ね。私としてはシミュレータ説が濃厚だと思っていたのだけれど」


「あぁ、ナズナ、起きたのか。おはよう」


「そりゃこんな近くでバタバタされたらね」


 芹沢や俺が居た窓は部屋の中央であり、丁度ナズナの頭のすぐ上だ。

 少々慌ただしかったかもしれない。


「えと、ごめんなさい」


「いえ、良いのよ。昨日遅くまで頑張り過ぎたのがいけなかったわ」


 ナズナは毛布を寄せて立ち上がると、「んー」という掛け声と共に両手を上に挙げながら伸びをした。

 この光景は珍しい。

 ナズナは俺より朝に強く、大抵知らないうちに起きている。

 そんなナズナの珍しい姿が見れた原因はステータスボードによるものだ。

 夜遅くまで解析を続けていたらしい。


「それで、何か判ったのか?」


「そうね。とりあえず、これ返すわ」


「あぁ、もういいのか」


 ナズナが机の上から取り、俺に向けてきたのは俺のステータスボードだ。

 浮かせたままでも良かったが、自由に扱えた方が解析に楽だろうと判断して普通に持てるようにしていた。

 ある程度の解析は終わったようなので、ナズナに捕まれているステータスボードをそのまま消滅させる。


「……はぁー。全く貴方は非常識ね。まぁいいわ。とにかく、これは予想通りステータスを表示しているものとみてほぼ間違いないわね」


「ん? まさか読めたのか? この文字」


 今度はステータスボードを目の前に表示させてみるが、未知の文字でありとても読めそうには思えない。


「読めてはいないわよ。ただ、これをステータスとして仮定してみれば、判る部分があるでしょ」


「あぁ、体力とか攻撃力とか素早さとか……とすると、これは数字か?」


 そう言われて見れば、文字の形状のパターンには直線状のもの、かくばっているもの、丸みを帯びているものと、凡そ3種類に分類できる。


「えぇ、多分10進数ね。そして1番上の文字は別として、他は漢字に対応しているわね」


「漢字に対応している?」


 漢字とは、1文字でありながら色々な意味を持つ特殊な文字形態だ。

 その分、全体の文字の種類は膨大な数に及ぶわけだが、異世界の文字も同じ構造なのだろうか。

 いや、ナズナの言葉からはそうは聞こえない。

 つまり、一言一句、文字数までもが一致していないと対応しているとは言えないだろう。

 そうだとするならば、まるでパズルの様な暗号、もしくは――――、


「えぇ、それは異世界の文字なんかじゃ無いわ。只の文字化けよ」

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