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22話 『合宿』

「何か、合宿みたいじゃないこれ?」


「う、うん、そうだね」


 部屋の隅で片岡と芹沢が寝る準備をしている。

 準備と言っても寝袋や毛布を並べる程度ではある。

 ナズナが元々目指していた天文部部室に置いてあった物だ。

 部活で天体観測をすることもあるので、キャンプグッズ相当のものは備品として用意してあるらしい。

 しかし、テントを張るようなスペースはここには存在しない。

 6畳もないこの空間は屋上横の倉庫だ。

 今日はここで一夜を越すことになる。


「とりあえず、明日はどういう行動をするかね」


「やっぱ、帰ることは無理っすかね」


「あの竜の横を通る勇気があれば行けるんじゃねぇか?」


 入口のドアに近いこちら側では椅子を互い向かいに並べて明日の行動の相談をしている。

 椅子自体は一番近い部屋から拝借し、更に机等で申し訳程度に簡易的なバリケードまで構築してきた。

 今のところこの旧校舎の中には、ドッペルゲンガー以外のモンスターは居なかった。

 となると、当面は食糧をいかに確保するかが課題になる。

 この部屋にあった備蓄は先程消費し、残っているのは各準備室に残っていたコーヒーや紅茶といった飲み物くらいだ。


「学食に向かうしかないんじゃないか?」


 学食は、旧校舎でも新校舎でもなく別棟にある。

 終業のチャイムと共に玄関から全速力で向かう光景は日常茶飯事だ。

 旧校舎の玄関の方が新校舎の玄関より学食に近いのが、数少ない1年生のメリットでもある。

 問題は、玄関から出る必要があるため、モンスター蔓延る外を通らないといけない点だ。


「そうね。多分保存が効く食糧は残っているでしょう。無理してでも行く価値はあるわね」


 食材は普通必要な分だけ確保しておくものだが、流石に冷凍庫までが空ということは無いだろう。

 修了式の直前まで学食は開いていたし、世界の終わりにわざわざ在庫の廃棄等もしない筈だ。


「そうっすね。シャワーも浴びたいっすよ」


「ん? シャワーなんてあるのか?」


 そういえば、学食と言いつつ件の建物に足を踏み入れたことがあるのは1階の半分程を占める学食、後は2階の階段横にある茶道室くらいだ。

 その他の敷地に何があるのか把握していない。


「あら、知らなかった? 皆、学食って呼んでいるけれど、あの建物は研修棟って名前で、遠くから研修目的で来た先生方が宿泊できる設備になっているのよ。部活のイベント等で学校に宿泊したい場合も申請すれば使えるわね」


 なるほど。

 天文部は天体観測用に学校に宿泊することもあるが、その時に使用していたらしい。

 また、もしかすると学校側もそういった施設が提供できないといけない等の規定のようなものもあるのかもしれない。


 俺は納得して無言で頷く。

 左右を見てみるが、ミフユもカナタさんも学食に向かうことへ異議があるようには見えない。


「さて、目標は決まったなら、後は手段ね。……じゃあ、カナタ先輩、見せて貰えます?」


「あぁ、つっても直接的な戦力にはならねぇけどな」


 カナタさんはそう言うと、ドッペルゲンガーを倒した際に使用したバールを床から持ち上げた。

 持ち手の方が濃い緑色、2叉の突起側が朱色に別れている一般的なものだが、その先端だけが銀色に輝いている。


「じゃあ、いくぜ。『精錬(せいれん)』!」


 カナタさんがナズナを真似てスキルの詠唱を行うと、一瞬にして変化が訪れた。

 変化したのは手に持ったバールだ。

 特別形が変わったわけではないが、明らかな変化がある。


「うわぁ、綺麗っすね」


 ミフユの言うように、バールという工具にはそぐわない輝きを放つようになっている。

 元々先端だけあった銀色の部分が全体に拡がっている。

 そうして拡がった状態で見ると、銀色どころか更に光輝いて見える。


「綺麗どころじゃねぇな。くそ軽くなった。そのくせ、多分かなり硬い」


「神銀とか魔銀とか、そういった類いのものじゃないかしら」


 未知の金属は、しばしばゲームでも登場する。

 オリハルコンやアダマンタイト等が有名であるが、そこまでいくと最上級素材すぎてスキルで容易に手に入るとなるとは思えない。

 一応、銀製の武器であれば破魔の力が宿ったりするので、ドッペルゲンガーを倒せたのもこいつのお蔭かもしれない。


「神の作った銀ってことか? まぁ、確かに輝きは銀そのものなんだが……。神銀、神銀か、そりゃあ調べても出てこねぇよな」


 カナタさんは、何故かちらりとこちらに目を向けると、何かに納得したように頷いている。


「その神銀を作る能力、使っているのはこれでしょうか?」


 ナズナがこれと言って見せたのは、雷魔法の宝玉だ。


「あぁ、それと同じもので違いない。ま、作るというより、変化させる技術を得たという感じだが」


「うぉ、凄いっす。手品っすか?」


 カナタさんもナズナと同じ様な宝玉を手の上に出現させた。

 見た目はほぼ同じ、強いて言えば光の揺らめき方が少し異なる程度か。

 出現方法もいきなり何もないところに現れるため、初見のミフユは驚いている。


「最初はよく判らなかったが、あの黒い妖怪を倒した時に理解した。しかし、気持ち悪いもんだな。努力して修得したもの以外の技術がいきなり身に付くなんてよ」


 カナタさんがドッペルゲンガーを倒した際、ナズナと同じ様にステータスボードが現れていた。

 それを切っ掛けにスキルの性能が大幅に上がったのだろう。

 となると、ナズナの雷魔法の威力が劇的に上がったのもステータスボードの取得が原因だろう。

 つまるところ、今後この世界を生き抜く為には、どうにかしてスキルの宝玉を入手した上で、なんとかモンスターを1体倒すことが求められてくるだろう。


「そのスキルはどうやって手に入れたんですか?」


「あぁ、それはそいつだな。こんなことが起きた後でそいつを見た時に手の中に発生した」


 そう言うと、カナタさんは俺に向けてバールの先端を向けてきた。

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