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18話 『廊下』

 3階から2階に降り立つが、ここまでモンスターの気配は無かった。

 懸念点としては、窓の外を飛び交っているハーピィの数が増えているくらいだろう。

 今であればナズナの魔法でなんとかなるであろうが、これ以上増えていくようであれば、満足に外も歩けなくなるだろう。


「あー、完全に塞がれているわね」


 着いたのは2階の渡り廊下だ。

 旧校舎と新校舎を繋ぐ唯一の通路であるが、そこにあるのは岩肌による壁である。


「ここは流石に通れそうにないな。にしても、どういう構造なんだか」


 手で触れてみるが、その手触りは岩そのものであり特別熱くも痒くない。

 問題は岩と建造物の境い目だ。

 普通であれば校舎が崩れていそうなものだが、屋上から見えたように窓ガラス1つ割れていない。

 明らかに岩がガラスを貫通しているわけだが。


「一体化しているようにしか見えないわね。初めからこうなっていたかの様な。断面を見てみたいところだけども」


 重なっている箇所がガラスなのか岩なのか、はたまた混合物なのかというところだろう。

 ゲームであればポリゴンの重なりによる仕様の様だが、ここまで現実離れしているとナズナが言っていた世界シミュレータ説が濃厚なのだろうか。


「――――――――ぁ」


 どうしようも無いのでその場から離れようかと思った時にふと耳に何かが聞こえた。


「なぁ、ナズナ。何か聞こえなかったか?」


「何かっていったい何――――」


「とにかく速く登れ! 支えてやっから!」


 今度はハッキリ聞こえた。

 遠くに聞こえたと思った声が今度は比較的近い位置から聞こえる。


「っしょ。なんとか、通れそう。ユカもミナミも早く登って。岡部君も早く」


 聞こえて来るのは大岩の壁、その左上の方だ。

 良く見ると岩が斜めに突き刺さっているせいか、人がギリギリ通れる程度の隙間があるようだ。


「あそこね。何か緊急事態のようだけど、手伝ってあげられない?」


「どうだろう。なんとか行けるか」


 岩の隙間は天井付近で直接手は届かないが、岩を手を掛けて窓枠に足を乗せれば覗き込むことは出来そうに思える。


「おい、大丈夫か! ほら、手を延ばせ」


 緊急事態といえば、当然思い付くのはモンスターだ。

 状況を考えれば、向こう側の袋小路に追い詰められたという可能性が高そうな気がする。

 そうであるならば、一刻も早くこちらへ連れてくる必要がある。


「誰かいるんすかー。って、先輩じゃないっすか! ヘルプっすー!」


 どこか聞き覚えのある声や名前だと思っていたが、囲碁・将棋・その他部――通称ボドゲ部の後輩のミフユだった。

 他にも部活でミフユと一緒に居る2人や、別の誰か1人も一緒にいるらしい。


「うひゃ」


 とにかくミフユが延ばしてきた手を強く引っ張り身体を引っ張り出すと、少々乱暴に地面へと降ろす。

 ナズナがフォローしてくれたようだが、まだ3人居る筈なので、ここは勘弁して貰いたいところだ。


「ほら、次。手を延ばせ」


「あ、うー。お、お願いします」


 次に来たのは、芹沢(せりざわ)――ミフユがユカと読んでいた後輩だ。

 3人の中ではおっとりしている方なので、勇猛果敢なミフユに続いて2番目に押し込まれるのは理解できる。

 早々に引っ張り出してナズナとミフユに任せると、次の準備をする。


「さ、次だ。早くしろ」


「今、行きます! ほら、もう足が掛かったから岡部も――危ない! 避けて! ――――――ひぃっ」


 何か向こうの様子がおかしい。

 途中までこっちに来ようとしていた動きが完全に止まっている。

 その様子から何か不味いことが起きたのは類推するが、黙っていれば悪化する一途だろう。


「……おいっ、片岡、どうした?」


 天井と岩の隙間へこちらから身体を差し込み、手を延ばして彼女――片岡(かたおか)ミナミの腕を掴む。

 

「ぇ、ぁ、あぁ、すみません……お願いします」


 腕を掴んだ感触で、初めて呼び掛けに気づいたようにやっと動き出した。

 力を込めて一気に引っ張り出し、最後に残っているであろう最後の1人に声を掛ける。


「おい、聞こえるか? 聞こえるなら返事を――――うわっ! っぐ、痛ってぇ……」


 再び身体を差し込もうとした天井の隙間から、突然別の物が延びてきたので、咄嗟に身を引いてそれを躱した。

 その反動で脚を滑らせて廊下へと落ちる羽目になった。

 但し、その結果は幸いだったのだろう。


 天井の隙間からは腕が生えていた。

 だが、その腕は人の腰程の太さがあり、指先には尖った爪が延びている。

 そして何より黄緑色だ。

 とても人間の腕ではない。


 その腕は、暫く岩や天井を漁っていたが、何も掴めないと判ったのか引っ込んでいった。


「あの様子だと残念だけど絶望的ね。ほら、きついだろうけどしっかり立ちなさい」


 ナズナは状況を冷静に分析して次の行動をしようと動き出していた。

 俺は少しゲームみたいだと浮かれていた部分があったが、きっとそれは間違いだ。

 世界の仕様がどうであれ、実感としてはここは現実だ。

 モンスターがいれば当然それは脅威であり、負けることもあるというよりも普通は勝てないだろう。

 勝てなければ、ゲームの様にロードやリセットが出来ない以上、そこに待っている1つしかない。


「い、いえ、た、多分、大丈夫です。別に死んだとは限らないので……」

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