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16話 『仕様』

『グ、ギ、ギギ』


「お、来たか?」


 ナズナが魔法を撃ち始めてから凡そ30分、見当外れかと疑い始めていたところで漸く変化が訪れた。

 悪魔が溢したのは謎の言語というよりは呻き声に近い。


「ねぇ、結局効果があったのだとは思うのだけれど、どういう理屈なのかしら?」


 ナズナは電光を続けて放ちながらそう尋ねてくる。

 そこに呪文の詠唱は既にない。

 そりゃあ数百回近く同じ言葉を繰り返すのは苦痛であるし、それだけ繰り返していれば慣れてもくるというものだ。

 別の魔法を覚えれば別かも知れないが、ことこの『電光(ライトニング)』に関しては自由に操れることだろう。

 実際にパラメータがあるのかは不明だが、熟練度が上がったと考えても良いだろう。


「ナズナはゲーム知識がそんなあるわけじゃないから知らないかもしれないが、大抵のゲームでは最低ダメージ保証があるんだ。つまり、1ダメージだな」


 体力が4桁あったり、自動回復が付いていればアウトだったが、どうやら上手くいったようだ。

 悪魔の様子が変わったのも残り体力が1割を切ったとかそういった合図だろう。

 尚、悪魔自体から反応があったが、悪魔は相変わらず仁王立ちしたままだ。

 そりゃあ、先頭前(・・・)に体力が減るなんて想定されていないだろうから別の行動パターンに移り変わることもないだろう。


「貴方まさか、そんな憶測だけでこれをやらせたの?」


「でも、上手くいっただろ?」


 ナズナは呆れたとでも言いそうな目をこちらに向けてくるが、この辺りはレベル上げをしないでクリアする裏技のようなものだ。

 言わばシステムの裏を突く方法なので、ナズナの理論的な思想とは真逆の考え方だ。


「後もう少しだから頑張ってくれ。早めに止めを打ってくれると助かる」


「まだ何かあるの? 判ったわ。いっきにいくわね」


 ナズナは左手で持っていたペットボトルから残り少ない水を一気に呷ると、『電光(ライトニング)』を連射していく。



  ◇  ◇  ◇



『グガガガ。クライリ ド ワ――――――ガザニ ドッ!!…………』


 時間にして2分程だろうか。

 悪魔は謎の捨て台詞を放つと、その姿を崩すかの様に消えていった。


「倒した、のね。この後どうす――――」


「すまん。後にしてくれ!」


 ナズナの言葉を途中で遮り、急いで階段を降りる。

 今はとにかく、先にしなければいけないことがある。

 一目散に踊り場から先程まで悪魔が居たところに駆け寄る。

 そして、その場を無視してその先の廊下を左へと回る。

 そこには、変わらず目的の設備があった。

 日常的にお世話になっている設備――そう、男子トイレだ。

 俺は慌ててそこへ駆け込んだ。



  ◇ ◇ ◇



「そんな限界だったの?」


 トイレから出ると、ナズナは3階まで降りて待ってきてくれた。


「すまん。と言うよりも元々厳しそうだと感じたから倒そうと思ったわけだろ? そこから30分以上堪えたわけだし」


 こればかりは勘弁して欲しい。

 と、言うよりもナズナが問題無さそうにしていることの方が疑問だ。


「ナズナの方はどうなんだ? あれだけ追加で水を飲んだっていうのに」


 デリカシーがない質問だが、女子トイレは1階下にあるため行くなら危険があるし、そもそも一緒に生活しているので今更でもある。


「それが、全く問題ないのよ。多分、魔法を使うのに消費されるのだと思うわ」


 ナズナが魔法を連続で使用する為に口にしたペットボトルは、500ミリリットル入りで6本にもなる。

 備品の箱には10本入っていたので、これ以上消費するのは失敗した時の飲料水を鑑みると厳しいかと思っていたところだ。


「物理法則は無視か。まぁ、仕様から考えれば当然かもしれないが」


 ゲームの攻略では、回復ポーションのがぶ飲みは極自然だ。

 満腹度なんてパラメータがあるものもあるが、満腹で飲めないなんて仕様はあまりない。


「ところで、ドロップアイテムなんて落ちてなかったか?」


 急いでいたので見ていなかったが、モンスターを倒したのだからアイテムやお金が落ちていても不思議ではない筈だ。


「それはその子に聞いて頂戴。私は見てないわね」


 ナズナが目を向けた先は、悪魔が佇んでいた場所だ。

 そこでは、スライムが踊っていた。


『きゅい?』


 俺の視線に気づいたのか、スライムが弾みながら近寄ってくる。

 スライムが移動した場所には何も無く、及びスライム自身も特別何かを持っている訳でもない。

 元々ドロップしなかったのか、あるいは――――、


「まさか、食べた訳じゃないよな?」


『きゅきゅい?』


 スライムの暴食っぷりには目を見張るものがある。

 今のスライムの様子からは何か悪さをしたような様子は見受けられないが、そもそもモンスターの思考を読むというのも難しい話だ。

 いずれにせよドロップ品が手元に無いことには違いない。


「はぁー。何か役に立つ物でもと思ったけどこればかりは仕方がないな」


 今回のモンスターは偶々動かず、嵌め技が効いたからなんとかなった様なものだ。

 例えば、窓の外を悠々と飛んでいるハーピィ。

 あの一匹でも本格的に襲い掛かってくるようであれば対策は難しいだろう。


「あら。ドロップ品は無かったけれど、得たものはあったわよ」

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