15話 『悪魔』
ナズナと暫く会話をしていたが、引きこもりを止めて行動することにした。
その行動の理由は強い意志を持って動いた訳ではなく、単に生理現象をどうにかしたいというものでしかなかったが。
とにかく、なんとしても階段を守る悪魔を突破し、階下に降りなければならない。
「全く動かないな」
「役割は門番っていうところかしらね」
とりあえず、再び悪魔の様子を確認したわけだが、悪魔は再び攻撃して来ることはなく仁王立ちしたままだ。
「門番か……じゃあ、少し実験してみるかな」
「え? 危ないわよ」
ナズナは注意喚起してくるが、先程のナズナとの会話から類推すると多分大丈夫だろう。
そう考え、1段だけ階段を降りる。
『クライア ド ワ? アヤモ クアネ ド ワ』
すると悪魔は最初と同じ言葉を放つ。
そして、予想通り攻撃はしてこない。
「なるほどな。多分、『ここを通りたければ我を倒していけ』とか、そんな感じじゃないか」
多分、もう1歩踏み出すと攻撃してくるだろうから、一応1段上がり踊り場に戻る。
「定型文ってやつ? 流石に信じ難いわね」
「ん? ナズナが言ったんだろ? この世界はゲームみたいだって」
「そんな事言ってないわよ」
確かに直接的な言葉は違うかもしれない。
だが、俺はそう理解した。
少なくともゲームの様にバグるのであれば、それなりの回避方法、そして利用方法がある筈だ。
とりあえず、それを確認する為にもう1度1段降りてみる。
『クライア ド ワ? アヤモ クアネ ド ワ』
やはり予想通りだ。
であるならば、今度は何度も登り降りしてみる。
『クライア ド ワ? アヤモ―――――』『クライア ド―――――』『クライア―――――』『クライア ド ワ!? アヤモ クアネ ド ワ!!』
「ちょっと、意地が悪いわよ」
「どうやら、モンスター側もシステムに縛られているみたいだな」
同じ台詞を何度も繰り返す可能性については想定していたが、そこに怒りの様な感情が乗ってくるのは予想外だった。
モンスターもシステムの一部かと思っていたが、どうやらそうではなく、より上位の仕組みに依存しているらしい。
であるならば、システムを理解すればこの悪魔にも対応できそうだ。
「なぁ、さっきの電気魔法、そこからあいつに撃てるか?」
「え? 出来るとは思うけど、ちょっとピリッとする程度よ?」
先程、電気魔法のスキルを入手したとナズナから聞いたがその威力はお察しだった。
雷どころかスタンガン程の威力もなく、精々静電気が走った程度の効果しかなかった。
ただし、唯一優れていたのはその射程だ。
少なくとも部屋の隅までは届いていたので3メートル程の距離は優に届く。
言わば、遠隔地に静電気を起こすだけのスキルではあるが、威力不足なのは単にレベル不足とか熟練度不足といったものではないだろうか。
「あぁ、問題ない。多分効果はあると思うが、もし失敗しても水が減る程度しかデメリットがないし」
「ふーん。どんな意図があるのか判らないけれど、どの程度使えるか検証したいところだったもの。確かに、丁度良い的ね」
ナズナが得た魔法――実際は飴玉の様なアイテムを使用する――は、正にその名前の様にMPやらSPといったものを消費するようだ。
その消費をどう感じるかというと、使用する度に段々と喉が渇いていき、水を飲むと呆気なく改善するらしい。
恐らく、食べ物がHP回復、飲み物がMP回復なんて仕様がシステムに採用されているのだろう。
「じゃあ、いくわよ。『電光』、『電光』、『電光』」
ナズナが悪魔に対して銃を模した様に人差し指を向けて魔法を唱えると、指先から紫色の雷光が伸び悪魔へ命中する。
このエフェクトはなんとも魔法らしいが、その威力が静電気程度だというのは詐欺の様な気がする。
「その名前で良いのか?」
「あまり変な名前でも恥ずかしいしね。これくらいが丁度良いわ。――『電光』、『電光』」
ナズナが指を構えて魔法の詠唱をしているが、実際は指を構える必要も詠唱する必要もなく、ただ念じるだけで使用出来るようだ。
俺としては無反動、無詠唱である方が咄嗟の時に都合が良いと感じるが、ナズナに取ってはどうにも気持ち悪いらしい。
そのため検証した結果としては、自分の中で魔法を制御するためのトリガーを決めておくのが都合が良いとの結論で件の動作となっている。
尚、ナズナの持っていた光る珠を借りることで俺も電気魔法を使用することは可能だった。
ただし、その上での違いは2つ。
1つ目は珠を消すことが出来るかという点、もう1つは魔法への理解だ。
ナズナは珠を得た時に使い方を漠然と理解したようだが、俺はナズナから聞いた内容しか知らない。
そのせいか発動自体は出来るものの、命中精度等はお察しだ。
ナズナの魔法を見てみると、指先から出た電光は雷の様な軌跡を辿り、その全てが悪魔に着弾している。
悪魔に取っては大した事が無いと感じているのか、その着弾には無頓着で仁王立ちしたままだ。
どこかで変化があるものだと思われるが、それも数十分は掛かるだろう。
とりあえず、今の俺の役割は魔力回復用の水の用意だ。




