104話 『放出』
『何故こうなった』
既に暴食スライムは壊れたガチャのように、無数の魔核を放出し続けている。
そして段々とその身体のサイズも縮んでいっている。
「暴食スライム、そして青のコアは他者を喰らう事によってそいつの能力を得るんだろ? で、アルの能力って何さ?」
『我の能力だと? 前にも言ったであろう。外から与えられた能力なんてものは神が造り出したものであって我には無関係である。強いて言うのであれば……。――――なるほど、そうなるのか?』
そう、神族と同格である竜種の能力とは、神の造った能力を受け付けない能力とも言えると前にアルが言っていた。
そして、神族や竜種にしても未知で上位の物質がコアだ。
そのコアの効果で竜種を取り込んだのであれば、竜種固有の能力でさえも取り込めてしまうだろう。
この場合、ただ能力を集めるだけならどちらの能力も共存もできたかもしれないが、実際は捕食すると肉体が変化するようなバグも起きている。
ここまでいくと2種類の能力は完全に相容れないだろう。
「あぁ。バグる能力とバグらない能力が競合する。そして、どちらが勝つかという話だけど、それはより美味しい方だろうな」
神と同格な竜の肉体。
これはたった1つであるが、これを切り捨てる事はそう簡単にできないだろう。
かといって残り全てをいきなり切り捨てる事もなかなかできそうにはないだろう。
そうなれば、とりあえず1個無関係なものを切り捨ててみようかなんて発想になるだろう。
だが、それを1回してしまえばもう止まらない。
天秤は徐々に傾き始め、そして加速していく。
それが今暴食スライムに起きている現状だ。
『ぎゅお、ぎゅお、ぎゅい、きゅお、きゅおお』
ポンポンポンと魔核を吐き出し続けるに連れて、段々と暴食スライム自身の意識の様なものが鳴き声に混ざり出してきている。
大きさも2メートル程度にまで縮まっているので、もうすぐ全てを吐き出し終わるだろう。
そうなれば話し合いもできるだろうし、仮にできなくても戦闘で負ける事もない。
これで完全に詰んでいる。
『――――きゅ。きゅわわ。…………きゅ、きゅきゅきゅい!』
これは投了の宣言だ。
だが、その内容は予想した終局図とはやや異なる展開となった。
『何故、その様な話となる。そこまで意識が保てるならばさっさと我の身体を返すがよい』
アルが暴食スライムの言葉に疑問を呈するが、それは同じ意見だ。
前と同じ様に意志疎通はできるようになったが、暴食スライムはこう言っている。
そのまま倒してくれ、と。
『きゅっ。きゅああ』
真意を問いただそうとしたところで、暴食スライムが苦しげに呻いたので、その理由に推測がついた。
恐らく、今暴食スライムの中に残っている物の存在は3つだ。
1つ目は先程捕食したアルの肉体、2つ目は大きなエネルギー源である青のコア、そして3つ目がアルの前に捕食したレッドスライムだ。
恐らくそのレッドスライムが暴食スライムの中で抵抗している。
元々、暴食スライムが捕食するのはモンスターが魔核になった後であったが、レッドスライムだけは丸呑みしていた。
つまり、これまで放出してきた魔核と違い、レッドスライムを放出すると、レッドスライムとの再戦になるだろう。
それを暴食スライムが懸念していると思われる。
「その程度なら俺が…………いや、違うのか……」
今の俺はレッドスライムと戦った時より更にレベルが上がっている。
それは、この方舟で戦ったモンスターの分という訳ではなく今さっき、アルを再封印した時だ。
肉体はそのまま残した訳だが、アルの精神を封印した時点で再び大幅に経験値が入った。
この仕様であれば、解放と再封印を繰り返すだけで無限にレベルアップできてしまうバグがありそうだが、とにかくレッドスライムに遅れを取る感覚ではない。
だが、それは自然に放出されればの話だ。
恐らくレッドスライムは暴食スライムの持つ青のコアも狙っている。
前は青のコアの取り合いで、相性の良い暴食スライムが勝ったが、今はその時の力である魔核も放出してしまい力不足だ。
そして、何故レッドスライムの色は赤いのか。
恐らく、カグラの赤い光を受けた後の変化でそのエネルギーを取り込んだものと思われるが、とにかくレッドスライムの属性はカグラと同じだ。
青のコアとは属性が違うわけだが、青のコアは現在カグラのコアからエネルギーを大きく吸い取った直後であるため、カグラの属性の効果も色濃く残っている可能性がある。
となると、青のコアの綱引きで暴食スライムが負ける可能性はだいぶ高い。
「わかった。望み通りにしてやる。一旦魔核になり産まれ直してこい」
本来、詰んだ局面というのは、その時点でゲーム終了だ。
だが、本来のゲームのルールとしては王を捕獲する事で決着となる。
その本来しない筈の一手をここで実施する。
込める力は全力だ。
それが暴食スライムに対する敬意であり、餞にもなる。
身体の麻痺が残りながらも身体全体を使用して拳を振り切る。
その拳は間違いなく暴食スライムに命中し、余り余った衝撃が方舟全体を揺り動かした。




