103話 『一手』
「『封印』!」
『な!?』
その一言により、今触れているモンスター――つまり、アルがアミュレットへと再封印される。
アルは暴食スライムと直接戦闘するつもりだったようだが、出鼻を挫くようで申し訳なく感じる。
いや、実際はそんなことよりももっと申し訳ない事があるが。
『――――おい、ハヤトよ。お主、再封印なぞしおってどうするつもりなのだ。元に戻したところで、その麻痺は容易に消えぬぞ』
アルを封印したアミュレットの効果としては、状態異常にならないというものがあった。
但し、コアを使用した攻撃ではその限りではないのは経験済だ。
一応効果はあるようで全く動けなかった状態からはだいぶ回復しているが、完全快復とは程遠い。
アルの言う通り、仕切り直しを目的にした行動だとしたら悪手もいいところだろう。
「言ったろ。もう詰んでいるって。一手詰みさ。できれば竜王を犠牲にしない手順を考えていたけど無理だったみたいだ」
『竜王を犠牲に……? な!? こ、これはなんだ! どうなっておる』
アルが背後にある存在に気づいて驚いている。
それもそうだろう。
アルには全く理解し難いものが背後に居るのだから。
「だからすまないって。文句は後にしてくれ」
背後に居るのは、紫色の鱗に翼、牙が生え揃った尖った口元に、鋭く尖った角がある生物だ。
要するにドラゴン――更に言うならばアルの肉体だ。
そもそも、アミュレットの中ではアルの肉体と意識は別のところに封印されていた。
であるならば、片方だけ封印したり解放することもできて当然だろう。
そして、暴食スライムにはこの肉体が効果的だ。
『ぬぅ。言いたい事は山ほどあるが、とにかく今は逃げよ。破裂するぞ』
アルの指摘の対象はアルの肉体の上に浮かんでいる紫色の光球の様だ。
そいつがバチバチと小さな雷を放出し始めている。
どうやらアルがずっと制御していたが、アルの意識を封印してしまったがため制御が外れてしまったらしい。
これは完全に予想外であったが、逃げるのは容易だ。
光球の崩壊でどれだけエネルギーが放出されるかは不明だが、それを防ぐ物体は目の前にある。
未だ痺れる身体に鞭を打って、その物体――アルの肉体の陰に隠れる。
『ぎゅ! き、きゅわわわ』
次の瞬間、光球が弾けた。
アルの肉体は耐性があるのか無傷、暴食スライムは残った青い触手で防壁の様なものを展開しており、その被害は方舟の床や壁、天井に向かう。
カグラはその暴食スライムの防壁の延長線上に居たのは、たまたま運が良かったのか、暴食スライムに残った僅かな理性がそうさせたのかは判らないが、予想外の出来事だったのでそこは幸いだった。
尚、予想外ではあったが、この出来事は一手詰めの結果に影響は生じていない。
実際、光球の衝撃が収まった後、暴食スライムはカグラの方には戻らず、アルの肉体の方に近づいている。
『きゅおおお!』
そして、暴食スライムはアルの肉体を一口で呑み込んだ。
その結果、暴食スライムは10メートルを超える超巨大なサイズまで膨張している。
『なぁ、ハヤトよ……。これがお主が狙っていた結果か?』
自分の肉体が喰われた事で再度アルが驚くものと考えていたが、ここに至ってアルは冷静だった。
まぁ、冷静と言うよりは予想外の事が起こりすぎて驚くのにも疲れているだけかもしれないが。
「あぁ。これで合っている。目の前にエネルギーの塊があれば喰わずにはいられないのが今の暴食スライムだ」
カグラから漏れ続けるエネルギーを吸い続けるのも良いが、目の前にドラゴンステーキがあれば食いつきたくもなるだろう。
そのドラゴンステーキにどんな仕掛けが仕掛けられていようともだ。
『それで、コアを複数抱えて制御できず暴走した小娘の如く、過剰エネルギーで崩壊でも期待しておるのであればそれは筋違いであるぞ。何せコアはまだ我が管理しておる』
コアは魂に結び付くという事だろう。
これも初耳ではあるが、しかしがらそれは無関係だ。
そして、肥大化したゴーレムのように自重で崩壊する様な事も期待していない。
ただ、アルの肉体を捕食したという事実だけがここでは重要になってくる。
「まぁ、見てなよ。今に変化が始まるさ」
アルを捕食した暴食スライムは、その直後から動きを止めている。
だが、その静止状態も長くは続かず、プルプルと震え始める。
『ぎ、ぎ、ぎ、ぎゅお!』
その暴食スライムの震えは段々と大きくなり、何かに耐えられなくなった様に、暴食スライムの頭頂部からポーンと何かが射出された。
それはテンテンテンと床を弾みながら丁度目の前に転がってくる。
『魔核、だと?』
そう、魔核だ。
色としては紫。
大きさは普通のモンスターのものより大きいので、上位のモンスターのものだろう。
例えば、一番最初に出会った悪魔の様な。
『ぎ、ぎゅお!』
そして、再び魔核を射出。
今度の色は黒だ。
黒と言えば、例えばニ番目に遭遇したドッペルゲンガーがその代表だ。
この現象はまだ続くだろう。
もはや例える必要もない。
暴食スライムが射出しているのは、俺達がこれまで遭遇し、討伐してきた順のモンスターの魔核に違いない。




