102話 『防御』
凡そ30秒。
その程度の時間が確保できれば、アルがブレスを放つ準備は十分だろう。
とにかく、第一に回避。
暴食スライムから来る触手の攻撃を躱し続ける。
触手の数は先程と比べると格段に少ないが、反面その攻撃は格段に鋭くなっている。
攻撃が鋭くなった理由は諸々考えられる。
1つ目――エネルギー源であるアルを解放してしまったがため、暴食スライムが俺をわざわざ掴まえる必要がなくなった点。
2つ目――アルを放置すると生命に関わる脅威であること。
3つ目――折角のおやつ時間を邪魔されている点だ。
『ぎゅおお』
だが、ここで暴食スライムの行動が変わった。
俺を狙っていた触手の動きがピタリと止まり、その先端がアルの方に向き始める。
それもそうだ。
ミフユの様に回避時に上手く挑発を交える事はできていないし、暴食スライム自身の知能も他のモンスターより高い。
そうなると、俺に対処する意味は皆無であり、アルに攻撃を集中した方が暴食スライムにとって最善になる。
アル自身もブレスの準備中とはいえ、ある程度の対処はできるだろう。
だが、邪魔が入った際にどうなるか判らない。
であるならば、俺のする事は1つだ。
「せい!」
アルに向かった触手に接近し、全力で殴り飛ばす。
回避は止めだ。
ここからは、全ての触手を防ぎ通す。
1本、2本、3本、4、5、6と迫ってくる触手を弾き飛ばし、場合によってはアルがしていたようにステータスボードに角度をつけて弾く。
『それを続けよ。もうじきだ』
アルの顎が開かれ、そこに紫色の光球が生み出されている。
それがアルの口内を満たされた時、それが放たれる合図だ。
『ぎょおおお!』
しかし、ここで暴食スライムの動きが変わった。
これまで1本ずつ個別に攻撃してきた触手であったが、それらが複数本まとめあげられドリルの様な形状になっている。
それらが6本。
更にそれぞれに、青、緑、紫、茶、黒、白と色が付いているところをみるとスキルを使ってきた。
それぞれに属性が乗っているとみて良いだろう。
つまり、俺がこれらを弾ききれればアルのブレスによるエンドを迎えられる。
1本目――黒。
そいつは床を経由していきなり目の前に現れたが、ステータスボードにて妨害する。
但し、それだけだと力負けするため、ステータスボードの裏側を更に殴り付けて止める。
2本目――茶。
黒い触手に隠れてやって来ていたそいつは、俺を無視してアルに向かおうとしていたので、横から殴り付ける。
だが、硬い。
俺の攻撃をものともせず更にアルへ接近しようとしてくるが、嘗められては困る。
茶色い触手に両腕を回し、身体全体を使って放り投げる。
3本目――緑。
こいつには気づかなかった。
暴食スライムの本体から分離し、茶色い触手の裏に隠れていた。
そいつはアルには向かわず俺の全身に巻き付く。
冷静に考えればアルに向かわないのは当然だ。
緑――『木』属性の攻撃は『風』属性のアルには無効になる。
4本目――紫。
緑の触手をステータス任せに引きちぎるが、行動が遅れた。
ステータスボードで防ぐのは間に合ったが、角度の調整が疎かになった。
威力こそ減じることはできたものの、その触手の攻撃を腕に受けた。
5本目――白。
身体が動かない。
恐らく紫の触手から麻痺を食らった。
この状態で動かせるのはステータスボードくらいだ。
今度は角度を計算し、なんとかそれだけで弾く様にする。
6本目――――――――、
「――――――――ぐ。ぐぁっ!」
吹き飛ばされた。
何が合ったかは判る。
白い触手の直撃を食らった。
ステータスの角度を誤ったわけでも、逸れたわけでもない。
貫かれた。
正確には、大した抵抗もなく透過したという方が正しいか。
何故それが起こったかも考えれば明白だ。
白い触手の属性――それは『光』だ。
ステータスボードはもとより半透明だった。
光を通して当然だろう。
『さて、肝心の1本が残っておる。やはりここは力押しするしかあるまいな』
アルの声は直ぐ後ろから聞こえた。
どうやら、弾き飛ばされたところをアルが受け止めてくれたらしい。
そして、ブレスの準備は未だ未完成のようで、紫色の光球はアルの頭上に浮いている。
というよりは、俺を受け止める為に中断でもしたのだろう。
光球の成長は止まっており、なんとか時間を稼げば間に合うという状態でもなくなっている。
『ぎゅお』
暴食スライムの構える残りの1本の色は青だ。
コアと同色であり、暴食スライムの属性とも一致している。
当然、その威力は先程の触手達より強力であるだろう。
一応、こちらの手札としては未完成ながらブレスの基となる紫色の光球となる。
この2つが衝突した時どちらが勝つのか不明だが、仮に相殺となった場合、アルの言うように暴食スライムとアルの一騎討ちになるに違いない。
元の能力的にはドラゴンたるアルの方が俄然優勢であるが、今の暴食スライムはおびただしい数のモンスターを吸収し、カグラのコアの力まで吸収し、あり得ないレベルで強化されている。
どちらかと言えば、暴食スライムの方に軍配が上がるものと思われる。
しかし、そんなものは机上の空論だ。
その結果はやってみなければ判らないが、そもそもそれ以前の話だ。
「いや、その必要はないんだ。もう詰んでいるからね。――――ただ、アル。すまない」
『む?』
アルの疑問の声を尻目に、最後の1手となる言葉を呟いた。




