100話 『暴食』
『ぎゅおお?』
暴食スライムに近づくと、俺達に気づいた様で暴食スライムから反応がある。
但し、いつもの能天気な反応ではなく、どこか野生的な反応だ。
『ふむ。その状態でありながら、未だ喰い足りぬと見える。我のコアなぞを欲しても仕方がないと言うのに』
赤のコアからのエネルギーが食べ放題ではあるが、そのエネルギーは方舟の方にも向かっている。
その分も欲しているのか、元々の暴食スライム自身のグルメなところが別の味を欲しているのかはしれないが、俺達に向かって触手が伸びてきている。
「アルのコアはどんな物なんだ? 色としては紫色だと思うが」
色の判別はアルのドラゴンとしての体表が紫色だったからだ。
この世界のガードロボを除いたモンスターにおいて、恐らく外見の色はそのまま属性を表しているものと思われる。
そして、モンスターの属性の色と一致しているコアが相性が良いのだろう。
それが暴食スライムがレッドスライムから青のコアを奪えた理由でもある。
アルもコアを完全に掌握している事より、アルの所持しているコアは紫のコアだと推測できる。
『我のコアは、エネルギーが減らぬ事に特化しておる。爆発的な効果は無いにせよ、元手が減らぬところが強みであるな』
つまり、アルの様に元からエネルギーを持っている存在であれば、エネルギーが無尽蔵であるだけで十分過ぎる恩恵がある。
例えば、あのブレスが撃ち放題という事だけで他者を圧倒できる。
逆に暴食スライムがそのコアを得たところで、他者から得るエネルギーは皆無だ。
減る事より増えることを求めている
――言い換えれば食欲は満たされない。
そうなると、なるほど確かに暴食スライムには無用の長物であるように思われる。
『まぁ、そんなところも判らなくなっておるようだが。――――さて、来るぞ。出来るだけ躱していけ』
アルの言葉が終わるとも言えないタイミング、そこで構えられた触手が動き出した。
数にして6本。
まだまだ無数に増えるのだろうが、最初は様子見といったところか。
左右から来た2本を身体を引いて躱す。
直後に来た右上と左上の2本は、前進して潜り抜けるように躱す。
どうにも、触手の動きが鈍い。
だがそれは、俺とのステータスの差と言うよりも暴食スライム自身の衝動に依るものが大きいものと思われる。
何故ならば、その触手の動きは俺を叩き潰そうとする攻撃ではなく、掴み取ろうとする動きの為だ。
アルの言うように、俺達を敵ではなく食料か何かと勘違いしているらしい。
こうなると、一度殴って目を覚まして貰うのが良いだろう。
丁度前方に回避したわけだし、そのまま走り込んで距離を詰める。
残った2本の触手は真っ直ぐ俺に向かってくるが、それはいつも通りステータスボードで防いでそのまま前進して――――、
『避けろと言うただろうに!』
突如ステータスボードは俺の制御を外れ、独りでに動きだした。
その動きは極わずかなもので、正面から来る触手に対して角度を付けて受けるものだ。
当然、アルが割り込んできたものである。
「ぐっ! ――――あぁ、そういう事か。ありがとうアル。次からは考慮する」
何があったかはシンプルだ。
ステータスボードが触手に押され、ステータスボード越しに俺の身体を弾き飛ばされた。
アルが斜めに受ける様に介入したため、その衝撃が幾分か相殺されている。
これまで完全防御をしていたステータスボードがこれまでと違う動きをした訳だが、これは別に今回が初めてでもない。
レッドスライムの攻撃がステータスボードを越えてきた様に、コアを利用した攻撃であれば、コアのエネルギーから生じた産物であるステータスボードのロジックを越えてくるのは当然だろう。
『で、どうするのだ? 殴り掛かろうとしておった様だが、然程意味はあるまい』
これまで上手く利用してきたステータスボードも、ステータスそのものも、それらを生み出したコアに対しては効果が薄いのはその通りだ。
仮にダメージが入ってもカグラのコアから吸収しているエネルギーによって即座に回復してしまうのも目に見えている。
「そうだな。とりあえずカグラと分断するか。その為の策はある」
攻略に使用するアイテムは制服の左ポケットに入れてある。
方舟に来る前にショウゾウ先生から分けて貰ったものだが、恐らく暴食スライムに通用する。
カグラと分断するのはそれで可能だと思われる。
そして、カグラと分断してエネルギー源を絶った後だが、そこからは素早く対応する必要があるだろう。
時間を掛ければ再びカグラを取り込んで元の状態になってしまう。
「なぁ、アル。準備して貰いたい事があるんだが……。多分それさえすればどう転んでも上手くいくと思う。ただ、アルには迷惑をかけそうなところが申し訳ない」
『ふむ。とりあえず聞いてやろう。判断するのはそれからだ』
エネルギー源を絶ち、力を削ぎ、圧倒的な力で殲滅する。
それが暴食スライムの攻略法だ。
その為には、これまで何度か検討しながら、なかなか機会が回って来なかったあの方法が良いだろう。
「アルを解放する。そこでブレスでも撃ってくれ」




