入り口を出て
ここは穏やかだ。
そして美しい。
私がこの地に生まれ落ちたのは幸運だろう。
格が低い世界においては、生誕まもなく命の危険に晒されることも少なくない。
いや、格が高くても、世界システムや誕生した場所によっては同様に危険だ。
この世界の創造者の配慮か、それとも単なる偶然か。
定かではないが、この幸運に感謝しよう。
さて、こうしていても時間が過ぎるばかりだ。
この世界は私にとって完全なる未知であり、全てが新鮮だ。
ならば、この世界のことを知り、糧にしたい。
私が再び創造者になることはおよそ不可能であろうが、万が一もある。
それに、創造者になれなくても、この世界の住人として、できることは多くあるはずだ。
過去を振り返っても悔やむことしかないのであれば、ひとまず前を向くしかない。
足に力を入れ立ち上がる。
足に伝わる硬い感触。
何の素材から作られているのかも分からないが、水のように風景を反射して映し出し、周囲に漂う幻想的な雰囲気を一層際立たせている。
一歩足を進めるたびに、地面と接触する一点から波紋状に音が広がる。
このどうしようもないほどに心地の良い音が、世界に私一人しかいないと思わせるような圧倒的な支配感を湧きだたせる。
理想郷と言われても納得がいくほどに完成された空間。
永遠に続くかと思われたその空間は、進めた歩みのいくつめかによって、突如として終わりが告げられた。
空間が歪む。
ほんの一瞬、なめらかに景色が変わる。
鮮やかな赤。
先ほどとは打って変わって強烈な威圧感を感じる張りつめた空間。
なんだ、何か、何かが来る。
殺気、いや、違う。
これは、単なるそれではない。
もっと別の、違う何か。
(来る!!)
大きく一歩後ろに退く。
強烈な熱風。
右からか、左からか。
右からだ。
視線を向ける。
黒い角、白い獣、赤い目。
小柄だが濃密な存在感。
熱風の発生源だと思われる突き出された手から、白い気体が上がっている。
そして再び放たれる。
突風。
瞬時に避ける。
さらにもう一度。
連発。
(まずい、当たる!)
爆風。
羽織っていた衣服と突風がぶつかった。
前が見えない。
真っ白。
体に損傷はない。
「どこだ!?」
声が響いた。