怪物
その日、怪物が地に堕ちた。
彼は全てを巻き込み、全てを吞み込んだ。
彼は血肉に飢えていたわけではなかった。
この地は彼が生きるに足り得る器ではなかったのだ。
全てが彼の色に染まったとき、世界は「退化」した。
怪物は役目を全うし、その姿を消した。
『世界レベルⅠ』
何者かが意を示す。
この瞬間、その意志とともに一つの世界が再創出された。
彼が思い描いたままに、瞬く間に自然が芽生え、歴史が作られ、社会が構築され、おおよその概念が確立された。
彼は暫くして手を止めた。
創造者にはその世界のレベルに応じて一定の権限が付与される。
だが、破壊によりレベル1となった世界においては、与えられる権限は少ない。
そして、一定限度を超えた干渉を行うと、創造者としての権限を剝奪される。
しかし、怪物により破壊された世界は損傷が大きく非常に脆弱だ。
権限内の行使のみでは、僅かな歪により滅びの結末を迎えてしまうだろう。
彼は、決断を迫られた。
「はぁ、せっかく大出世したっていうのに、こんなどうしようもない世界の管理を任せられるとは、ついてないなぁ。」
深く息を吐く。
誕生してまもない世界であっても、3~6程度のレベルが振り分けられているものだ。
レベル1。
それは、いかなる創造者であっても絶望する数値だ。
いわゆる吹けば飛ぶような世界。
天を見上げ、まだ不完全な世界を眺める。
やむを得ない・・・・か。
『超越行動―世界レベル上昇の強制』
時を巻く。
世界は成長を遂げる。
『世界レベル3』
彼はもう創造者として世界に干渉することはできない。
創造者のいない世界は、レベルの低い世界よりはまだ可能性があるものの、外側からの修正ができず、非常に危うい状態となる。
ならば、残された道は一つ。
内側から世界に変革をもたらし、レベルを上げる。
彼に迷いはない。
創造者が自己の世界に直接干渉することは基本的に想定されていない事項であり、その代償は大きい。
記憶の全て。
そして能力の大幅な低下。
「新たな世界の始まりだ。さあ見せてくれ、私がまだ知らぬ世界の姿を!そして未来の私よ、この世界の理を暴き、レベルの昇華を成し遂げてみせよ。では、さようなら。そしてまた会おう、我が世界よ。」
彼の意識はそこで途切れた。
異変がおきる。
膨大な力の渦。
世界が呑み込まれる。
抗うことはできない。
彼の者の前では全てが意味をなさない。
彼は再びやってきた。
怪物の咆哮。
崩れゆく音。
理は滅びる。
空白があった。
二度目はない。
世界には核がある。
レベル3の世界において、核は一つ。
世界の中心にただ一つ。
耐えられるはずがない。
一度目は干渉、二度目は破壊。
ほんの一瞬。
消えゆく世界とともに、怪物もまた、姿を消した。