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【人魚姫】魚鱗の姫に足はいらない

「あなたが何でも願いを叶えてくれるという魔女なの?」


 海底で眠る沈没船。その最奥の船室にいた女性に、人魚姫は声をかけます。


「ああ、そうだよ」


 魔女は意味深に笑いました。


「お前が何故ここに来たのか、わたしはちゃんと知っている。人魚姫、お前は人間の王子と時々会っているね。彼に恋をしているんだろう?」


「そうよ。私はどうしてもその恋を叶えたいの」


「ふふふ……。いいだろう」


 魔女は棚から変わった色の水薬を取り出しました。


「これをお飲み。お前に立派な足を生やしてくれるよ。ただし、その代償として……」


「足? いらないわ、そんなもの」


 魔女は不気味な声で説明をしましたが、人魚姫は眉をひそめます。魔女は驚きました。


「いらないだって? お前、人間になりたくないのかい?」


「ええ。そういうのは興味ないの。私がここへ来たのは、病気になりたかったからよ」


「病気? 何の病気だい?」


「王子様がかかっているのと同じ病気よ」


 人魚姫は力強く言いました。


「王子様はいつも私にこう言っているの。『貴様は数多の命を育みし大海の底に眠る者。わだつみのたまよ、貴様に我が呪われた言霊を解することはできるのか?』」


「……つまり?」


「『こんにちは、人魚さん。せっかく来てもらったのに悪いんだけど、僕は病気だから君とは一緒に遊べないんだ』ってことよ!」


 人魚姫は事もなげに王子の言葉を翻訳します。


「分かったでしょう? このままだと私、王子様と一緒にいられなくなってしまうわ! だから彼と同じになりたいの! お願い、どうにかしてちょうだい! お代ならいくらでも払うから!」


 姫は本気のようです。魔女は「最近の若いもんにはついてけないね……」と言いながら、棚から別の水薬を出しました。


「こいつを持っていきな。お代はいらないよ。作ったはいいが誰も欲しがらなくて、処分に困っていた品なんだ。置いといたって、商売あがったりになるだけさ」


 人魚姫は魔女の気前の良さに感激しつつ、薬を一息で飲み干します。


 するとどうでしょう。体の中からみるみる力が湧いてくるではありませんか。


わらわは魚鱗の姫……。絶望と死のみを友とする……」


「おや、早速効いてきたようだね」


「ぐっ……こうしてはいられない! 妾の内側に巣くう破滅が、世界を暗黒に導こうとしている! 光を宿す者よ! どうか妾に力を貸したまえ!」


 人魚姫はものすごい速さで沈没船を抜け出し、海辺に建つ王宮の地下水路へとやって来ました。


「わだつみの珠か。今日も来たのだな」


 水路では王子が待っていました。彼は人魚姫を見ると「む……?」と首を傾げます。


「貴様、何やら昨日までとは顔つきが違うではないか」

「当然だ。今の妾は使命を帯びているのだからな」


 姫は王子の後ろの何もない空間を指差して顔を歪めました。


「光を宿す者、奴らだ! 武器を取れ! でなければ、待つのは永久とこしえの闇だぞ!」


「貴様……まさか禁忌の秘技に手を出し、言霊の力を得たのか!? 何と忌まわしき運命さだめなのだ!」


 そう言いつつも、仲間が出来て王子は嬉しそうです。二人は存在しない敵に対し、必殺技を放ち始めました。


「謹聴せよ! 絶海の葬送曲レクイエム!」


「なっ……!? 奴をたったの一撃で!? こちらも負けてられんな! うなれ、太刀風! 敵を水底に沈めるんだ!」


 その後、人魚姫たちは戦いに勝利します。そして、見えない敵から王子を救った功績をたたえられた姫は、彼との結婚を許されたそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  種族の壁という、見えない敵を打ち倒す力こそが、ふたりの手に入れたものだったのですね。  愛する者のために、みずからも闇に堕ちて、ともに生きることを選ぶ。  悲しくも、美しい愛の物語で…
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