【みにくいアヒルの子】美しきドラゴンの末裔
「オレ様は世界で一番美しい種族、ドラゴンの末裔だ!」
それがアヒル一家の末っ子の口癖でした。
その言葉を聞く度、きょうだいや両親は笑います。
「何をバカなことを言っているの」
「お前は間違いなくアヒルだよ」
そんなやり取りを何回も重ねる内に末っ子アヒルは腹を立て、ついには家出を決意します。
「オレ様は本当の家族のところへ行くんだ! それで幸せになってやる!」
巣を飛び出した末っ子アヒルはドラゴンの住処を探すため、長く苦しい旅に出ます。道中、色々な生き物に会いました。
「オレ様は世界で一番美しい種族、ドラゴンの末裔だ! その尾は地を薙ぎ、叫び声は天を割るんだぞ!」
末っ子アヒルはクマに向かって言いました。
クマは首を振って否定します。
「そんなバカな」
プリプリ怒って、末っ子アヒルはクマの元を離れました。
「オレ様は世界で一番美しい種族、ドラゴンの末裔だ! その尾は地を薙ぎ、叫び声は天を割るんだぞ! 闇色の鱗は夜のしじまに溶け込むんだ!」
末っ子アヒルはウサギに向かって言いました。
ウサギは口をポカンと開けます。
「へー」
ガッカリして、末っ子アヒルはウサギと別れました。
「オレ様は世界で一番美しい種族、ドラゴンの末裔だ! その尾は地を薙ぎ、叫び声は天を割るんだぞ! 闇色の鱗は夜のしじまに溶け込むんだ! 一度火を噴けば、生きとし生けるもの全てが焼き尽くされる!」
末っ子アヒルはフクロウに向かって言いました。
フクロウは眠たそうに目をしょぼつかせます。
「ふぅん」
遣る瀬なくなって、末っ子アヒルはフクロウの傍から足早に去りました。
「どうして誰もオレ様を理解しようとしないんだ?」
自分の正体を明かしても動物たちが信じてくれないことが、末っ子アヒルには不思議で仕方ありませんでした。
疑問を抱きつつも、末っ子アヒルは旅を続けます。
そして、ついに洞窟にあるドラゴンの住処を見つけました。
そこには夢にまで見た仲間たちがたくさんいます。「我が血族たちよ!」と言いながら、末っ子アヒルは感動の再会に震えました。
「オレ様は世界で一番美しい種族、ドラゴンの末裔だ! その尾は地を薙ぎ、叫び声は天を割るんだぞ! 闇色の鱗は夜のしじまに溶け込むんだ! 一度火を噴けば、生きとし生けるもの全てが焼き尽くされる! オレ様こそが、地上で最強の生き物なんだ!」
末っ子アヒルはドラゴンたちに向かって言いました。
ドラゴンたちは鼻で笑います。
「お前がドラゴンだって?」
「そのフワフワの尻尾で地を薙ぐのか?」
「可愛らしい鳴き声ねえ。でも、天には届かないわ」
「鱗なんか生えてないだろ」
「火、吹けるの?」
「あんたはアヒルだよ、ア・ヒ・ル!」
言いたい放題言って、ドラゴンたちは洞窟を出て飛んでいきます。末っ子アヒルも後を追おうとしましたが、すぐに引き離され、見失ってしまいました。
「そんな……」
仲間だと思っていたドラゴンから見放され、末っ子アヒルはショックで呆然となります。やがて、重たい体を引きずりながらトボトボと故郷へ帰ることにしました。
しかし、末っ子アヒルを待ち受けていたのは空っぽになった巣でした。どうやら末っ子アヒルが旅をしている間に、一家はどこかに引っ越してしまったらしいのです。
一人になった末っ子アヒルは、ポツリと呟きます。
「オレ様は妄想に取り憑かれていた、みにくいアヒルの子だ……」
その声は無人の巣に虚しく響き渡りました。




