【北風と太陽】空の好敵手
北風と太陽は永遠のライバル。今日も今日とて火花を散らし合っていました。
「太陽! 我こそは北より吹き荒ぶ嵐を呼ぶもの! いざ尋常に勝負!」
「よかろう、受けて立つ!」
カチコミにやって来た北風に、太陽は肩をそびやかして返します。北風は道を歩いている旅人を指差しました。
「あれを地獄の底へ落とした方の勝ちだ」
「ほう、そんなものでよいのか? その程度、私にとっては児戯に等しいわ。我が力、とくとご覧じろ!」
太陽は体を伸び縮みさせ、山の端から出たり入ったりしました。その影響で、辺りは昼になったり夜になったりします。
けれど、旅人が地獄に落ちる気配はまったくありませんでした。
「太陽よ、大口を叩いた割にはつまらん結果になったではないか」
北風はニヤリと笑います。
「この勝負もらった! 嵐よ来たれ!」
遠くの木々がざわつき、雨雲がどこからともなく流れてきました。
一雨来そうだと予感した旅人は、近くの居酒屋に避難します。
「何っ!? 逃げるか、卑怯者め!」
「ふん、手こずりおって。次は私の番だ! はああっ!」
太陽が強烈な日差しを放ちます。その熱気で、雨雲はたちまち霧散してしまいました。北風は「ああっ!」と叫びます。
「何するんだよ! このっ! こうしてやる!」
「おい、やめろ! 私を吹き飛ばそうとするんじゃない! くそっ! これでも食らえ!」
「痛っ! よくもやったな、このアンポンタン!」
思わず素が出てしまった北風と太陽はポカポカと殴り合います。外は太陽が遠くに飛んでいったり、風が下から上に吹き付けたりと、めちゃくちゃな天気になっていました。
その様子を店の中から見ながら旅人は不思議がります。
「この辺りは随分と変な気候なんですねぇ」
「ケンカするほど仲が良い、格好つけたがりの二人組がいるんですよ」
店主や店に来ていた地元の人たちが苦笑いします。
「くそー! 覚えてろよー!」
どちらからともなく言い合って、北風と太陽は別れました。似たもの同士の二人だから、きっとこの先も勝負がつくことはないでしょう。