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【王様の耳はロバの耳】王様の耳は麒麟の耳

「むむむ……。どうしたものか……」


 理髪師は道を歩きながら唸っていました。


「まさか私があのような秘め事に触れる日が来ようとは……。これも選ばれし者への試練なのだろうか……」


 理髪師は先ほどの出来事を思い出し、悶々としていました。理髪師の店にやって来た国王。彼は髪を切る際に、王の耳がロバと同じ形だと知ってしまったのです。


――この件は他言無用で頼む。


 理髪師は王からそう命じられました。


 しかし、禁止されたらやってしまいたくなるのが人情というもの。理髪師はこのことを誰かに話したくて仕方ありませんでした。


「だが、これは私と王との血の盟約によって定められた事柄。反故ほごにすれば大いなる災いが……」


 困り果てる理髪師は、ぼんやりと歩いている内に森まで来てしまいました。ふと足元を見れば、手頃な大きさの穴が空いています。


「これは……まさか我が苦境を見かねた神の慈悲なのか……?」


 理髪師は早速穴に顔を突っ込みました。大きく息を吸い込み、声の限りに叫びます。


「王様の耳は全ての獣の王にして瑞兆ずいちょうの証、麒麟きりんの耳!」


 やっと言いたいことが言えて、理髪師はすっきりとしました。そのまま弾む足取りで帰宅します。


 しかし、彼が帰った後で穴の中の声は風に流され、辺りに広がってしまいます。


「聞いたか? 王様の耳は麒麟の耳なんだって」

「おめでたい獣の王らしいよ」


 森の動物たちが噂をします。


 次にそれを聞きつけたのは、森へ仕事にやって来た木こりでした。


「王様の耳は麒麟の耳って本当かな?」

「オレも聞いたぜ。間違いねぇよ」

「何の話~? オイラも混ぜて~」


 木こりの次は農民、その次は商人と、話は人から人へ伝わっていきました。やがて、城に仕える騎士や大臣たちまでもが王様の耳について囁きを交わすようになります。


 ついには、噂は当の本人の知るところとなりました。


 王様は、自分がずっと隠していた恥ずかしい秘密がすっかり広まってしまったと分かって衝撃を受けます。


「さてはあの理髪師の仕業だな……。このワシとの約束を破るなど言語道断だ!」


 王様は憤りましたが、皆の話をよく聞いている内にあることに気付きます。


「王様が麒麟の耳を持っているなんてすごいわ!」

「格好いいね!」

「俺にも生えてこないかなー?」

「我らの偉大な国王陛下、バンザイ!」


 なんと、皆王様の秘密に対して好意的な反応を示していたのです。


 それを知った王様はすっかり機嫌を良くし、その後は耳を隠すのをやめました。


 そして、最初にこのことを皆に教えた理髪師にたくさんの褒美を取らせたそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  自分にとってのコンプレックスが、他人にとっての羨望の対象であることもある。きっと、逆もまた、然り。  ないものねだりと、あるものうとみ。  そんなものかもしれませんね。  あれ? …
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