コング君と宴の支度
《須佐視点》
唯さんと手を繋ぎながら家まで帰ります。唯さんは商店街に買い物にきてたみたいで荷物は当然僕が持ってます。結構重いんだけど。
「唯さん、何買ったの?」
「今日は、豚肉と鶏肉、あと洗剤があと少しだったから。それから卵、あと鰆かな?」
「それにしては重いんだけど?」
「あぁ、お肉はそれぞれ5パック買ったし卵は2パックだし洗剤は柔軟剤も買ってあるから。」
「なるほど。」
唯さんは、見た目スレンダーですけど、実は結構力持ち。何せつい最近まで唯さんに腕相撲で勝てなかったくらい。
どこにそんな筋肉があるのか全くわからない。初めて唯さんに腕相撲で勝てた時は嬉しかったなぁ。
商店街から程近い所に僕の家があります。敷地の中に母屋と道場、あと蔵があり、ただでかい屋敷です。確か祖父の祖父が建てたと聞いてます。何か御先祖様はこのあたりの領主の武芸の指南役だったらしく、この地に屋敷と道場を下賜されたそうです。永い時間の中で、戦争の被害もなく、区画整理にも引っ掛からず、この令和の時代まで残りました。中は、祖父や父が改装しまくりなので、歴史的価値は皆無ですけど。住んでる身からすれば、ただただ無駄に広い家で、掃除が大変なだけです。
そうそう、僕の家にはさっきも言ったけど道場があるんです。実はうちは代々、古流武術を伝承する家で僕も父から受け継いでいます。父が武者修行とか言ってインドの山の中で虎とかと戦っていた時は、実は唯さんに習っていました。唯さんは元々父のお弟子さんだったので所謂、姉弟子です。えっ?お父さんは虎と闘って死んだのかって?ハハハッ違いますよ。父はフグにあたって死にました。因みに虎は倒して、手懐けて乗り回して遊んできたと父は言ってました。色々破天荒でぶっ飛んだ人でした。
「「ただいま!」」
さぁ!お客さんが今日はたくさんだから、着替えたら料理を始めますか!時刻は4時半、みんながだいたい来るのは6時くらい。よし!作るぞぉ♪作っちゃうぞ♪うふふ、うふふ。
「須佐、気持ち悪い笑い声あげない。嬉しいのはわかったから。」
おっと!いけないいけない。また、やっちゃった。
「はぁ、本当にもう・・・私はお風呂と部屋の準備をするわね。料理はよろしくね?」
「ありがとうございます!唯さん。僕にお任せあれ!」
「フフフ、須佐の料理は美味しいから楽しみだわ。」
そう言葉をかけ唯さんはお風呂場に向かいます。うちのお風呂は祖父が風呂道楽だったから、まるで銭湯か旅館のお風呂かって言うくらい広くて湯船も2つ、しかも1つは露天風呂という、贅沢すぎる感じです。いつもは内風呂だけだけど今日はたくさん来るから露天風呂も用意するみたいです。僕たちにとってはたまの贅沢です。水は地下水を汲み上げているから大丈夫なんですけど、ガス代が・・・あと、使い終わった後の掃除がなかなか大変です。だから、月に1回か2回だけです。収入はどうなってるの?って?まぁ、唯さんと僕で道場の切り盛りと、あとは週に何回か警備会社や警察に指導に行ってます。それと土地を貸しているのでその借地代があるかな?だから、まあまあ裕福な家といえるかもです。御先祖様に感謝、感謝。
「「こんばんは!お邪魔しまーす!」」
おっ!理穂さんと澪さんが来たみたいです。
「いらっしゃいませ。今、唯さんはお風呂の準備してますよ。今日は露天風呂も用意するそうです。」
「おっ!ラッキー♪じゃあ唯を手伝ってくる!ふんふん♪」
澪さん、嬉しそうです。露天風呂は準備も片付けも大変な事を知ってるから、鼻唄をしながらお風呂場の唯さんの所に向かいます。
「それじゃ私は広間の準備するわね。あっ、須佐くん、これお酒♪今日は日本酒の気分だったから色々持ってきたわ♪」
理穂さんは広間というか、既に宴会場となってるところの準備をしてくれるそうです。というか、えーと?何この日本酒の量?一升瓶で6本?あっ、8本?これ、全部呑むの?
「あっ、最初はビールが良いわね♪先週の残りが2ケースくらいあったから冷蔵庫で冷やして置かなきゃ♪」
・・・もう何も言いますまい。明日の朝はしじみの味噌汁かな?最近多いなしじみの味噌汁。
「こんばんは、お邪魔します。」
「こんばんは、お、お邪魔します・・・」
「こんばんわーー!」
紗ゆり先生と桜さんと楓ちゃんも来たみたいです。
「いらっしゃいませ!どうぞ上がって下さい。」
「お、お邪魔します。唯達はどこにいるの?」
「理穂さんは広間の準備を、唯さんと澪さんはお風呂の準備してますよ。」
「じゃ、じゃあ私も手伝ってくるわ。」
「あっ、先輩、私も行きます!」
「桜は、楓ちゃんと居て?ねっ?」
「は、はい、ありがとうございます。」
紗ゆり先生は理穂さんを捕まえて広間の準備に向かいました。お客さんだからのんびりしてくれて良いのに。感謝です。
「ねぇ、すさくん!ごはんできた?かえでもてつだうよ?」
おぉ、楓ちゃんは本当に良い子だなぁ。両親が離婚して、知らない土地に来て不安だろうに。
「ハハハッ、ありがとう楓ちゃん。もう、ほとんど終わってるんだけど・・・あっ、それじゃお皿だすの手伝ってくれる?」
「うん!おてつだいする!」
「あっ、あの、私も手伝います!」
「ありがとうございます。それじゃこちらに、台所に案内します。」
ふたりも手伝ってくれるのか、嬉しいな。桜さんも色々大変で疲れてるだろうに・・・何か癒してあげたいな。
「疲れてるのに、ありがとうございます。桜さん。今日はあんまり気にせず、旅館にでもきたつもりでのんびりくつろいで下さい。」
「あ、あの、ありがとうございます。・・・やっぱり疲れてる様に見えますか?・・・私、あの人に捨てられてから楓を育てなきゃ、しっかりしなきゃって思ってて・・・地元に帰ってきて、実家もあてに出来なくて・・・ハハハ、何やってんだろ?って」
「・・・桜さんはがんばり屋さんですね。でも、お母さんが笑ってないと楓ちゃんが心配しちゃいますよ?桜さん、ちょっと息抜きしましょう?大丈夫です!みんながついてます!これからの事、不安でしょうけど、何とかなります。きっと楽しいことがたくさんです!僕も桜さんの味方ですから。楽しい事いっぱいしましょう?何て・・・高校生の小僧が言ってますので聞いてやってくれませんか♪」
最後にちょっとおどけてみせて、僕は桜さんの方を見ます。
「須佐くん・・・ありがとう・・・ございます。須佐くんは、優しいですね・・・えへへ、ちょっと元気が出ました。そうです・・・ね、笑顔が一番ですね。」
そう言って桜さんは見とれるような優しい笑顔を見せてくれました。ちょっとドキッとしちゃった。
「そうです。桜さん、物凄く可愛くて美人だから笑顔がとってもお似合いです。」
「へっ?あっ、か、かわいい何てそんな・・・あっ、ありがとう・・・」
桜さんは、何か顔を赤くしながらパタパタとお皿を運んで行っちゃいました。かわいい何て言われなれてるだろうに・・・。
「ねぇねぇすさくん!かえでは?かえではかわいい?」
「楓ちゃんは物凄くかわいいよ!将来は美人さんだね!」
「エヘヘヘ♪すさくんはみるめがあるね♪よしよし、いいこいいこ♪」
しゃがんだ僕の頭・・・は届かないからほっぺを撫でてご満悦な楓ちゃん。・・・将来、男泣かせになりそうな気もしないでもないかな。ちょっと不安です。
「エヘヘヘ♪エヘヘヘ♪いいこいいこ♪」
・・・大丈夫かな。
「エヘヘヘ♪エヘヘヘ♪エヘヘヘ♪」
お読みいただきありがとうございます。