廃線と蜃気楼
僕は廃線が好きだ。
誰も知らない田舎の隅っこなのに、確実な列車の残響がある。確実な誰かの記憶がある。
こんなにも純粋な思いがあるのに、マニアックという言葉を知ってからは、よほど仲のいい人でないと僕のこの趣味について話せなくなった。君も例外ではない。いつか一緒に廃線を歩きたかったな。
今日も廃線に来てしまった。
3年前に廃線になったそうだ。理由は事故が相次いだからだとか。廃線は好きだけど少し怖いな。なんでもこの辺では蜃気楼がよく見えるそうで、それを知らずに駅を作ってしまったため、線路に飛び込む人が多かったそうだ。廃線にして良かったのかも。
駅に着くと、月並みな表現だけどどこか懐かしい匂いがした。青春の匂いって感じだ。僕に青春はなかったけれど、何か忘れてるものを取り戻せそう。そんな明るい気持ちになるとは思っても見なかった。
「結構いい駅じゃん。」
無意識に呟いていた。すると、
「そりゃそうよ。」
と誰かが答える。
"誰か"なんて言ってみたけど、声の主は君で間違いなかった。どうして君がここに?嬉しいはずなのに何故かやましい気持ちになって焦ってしまった。
「待って、」
という脈絡のなさすぎる言葉がでてきた。
「えー、待てなーい」
「てか待ってってどういうこと?」
顔は見れなかったけど声が笑っている。
「いや、なんかびっくりしちゃって」
「君も廃線が好きなの?」
「廃線って?」
「この路線のことだよ。線路に入れたりするから綺麗な写真が撮れるんだ。」
「廃線なのを知らないのにここまで来たの?」
「毎日来てるけど廃線だって知らなかったー」
「じゃあさ、飛び込んでも大丈夫ってこと?」
「そりゃそうだよ」
「じゃあさ、飛び込んでみない?」
「え、いいけど、、」
「けど、なに?」
「ううん、なんでもない。」
「じゃー、せーのでとぼ!」
「おっけー」
「せーの!」
思いっきりジャンプした。楽しい。楽しいぞ。
ん?悲鳴が聞こえる。警笛が聞こえる。なんだかスローモーションみたいだ。嫌な予感がする。背筋が凍る。まずい。まずい気がする。
無意識に目をつぶった。
鈍い痛みがあごと太ももにあった。大きく息を吐いて目を開けると、雑草と錆び付いたレール。急いで立ち上がったが、君の姿はなかった。
そういや、今日は君の命日だっけ。