篝火
ずっと、導のない道を歩いてきた。
そこには、目指すべきものも、道を型どる輪郭さえもあやふやでおぼつかない。 それでも私は歩き続けてきた。
それが私がここに残された理由なのだと、そう信じてきたから。
しかし、この道ももうすぐ終わらせることができる。
そう、もう少し、もう少しとずっと歩いてきた道のりを、私はもう終わらせたいのだ。
「お金がない」
「貸さないよ」
大学の講義室の片隅で、私の幼馴染は手にした文庫本から視線を動す事もせず私の訴えを一瞥した。
「違うもん!そんなつもりじゃないもん!って言うかまずは何かあったの?とか心配が先じゃない?ほらほ
ら、いいんだよ?この親友を心配する言葉を贈りたまえよこのツンデレ」
指先でツンツンと頬に触れるコミュニケーションが効いたのか、それとも煩わしさが勝ったのか、彼女は読んでいた本にしおりを挟み、傍らに置くと大きく息を吐いてこちらを見つめると小さな声でこういった。
「バルス」
「目がぁっ!目があっ!!」
滅びの呪文を受け転がりまわる私を蔑むような目で見降ろし、彼女の口撃はなおも止まらない。
「あのね、千尋。あなたには黙っていたけど、修君から私にしょっちゅうメッセージが来るの」
「お父さんから?葵ちゃんに?なんで?」
呪文のダメージが抜けないまま、よろよろと机を支えに立ち上がった私の眼前にまばゆいスマホの画面が突き付けられた。
『From:秋川 修 To:相生 葵 件名 うちの娘がご迷惑おかけしてないでしょうか?』
『From:秋川 修 To:相生 葵 件名 バカな娘で申し訳ありません』
『From:秋川 修 To:相生 葵 件名 娘チェンジ』
「……呪文のせいで何も見えない」
ありがとう滅びの呪文。どうしよう。知らないところで実の父が私と幼馴染をチェンジしようとしている……
「そろそろ修君フォルダが私のメールボックス容量の半分を占める勢いなんだけど」
「全く、誰に似たんだか」
「……卵が先か鶏が先か知らないけど、お互いに似たんじゃないの?」
私は閉じた本の栞に指をかけ、また自分の世界に入り込もうとする彼女に再び呼びかけた。
「お金がない」




