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龍撮りへの道のりは遠い

 ――草木をかき分け、荒れ狂う山をどれだけ登ってきただろう。


 この一眼を買ってから、ちょうど三年が経った。


 龍撮りになるために両親を説得し、今までトレーニングを重ねてきた。


 龍を追うには最低限山登りが出来なければいけない。

 基礎体力つくりを欠かさず、週末はありとあらゆる山を登り、高地トレーニングができる施設に通い続けた。


 じいちゃんが知る龍の情報は全て教えてもらい、台風の日は進んで外に出た。


 両親は本当に心配しているし、じいちゃんも⋯⋯本当は行かせたくないって思ってることはわかってる。


 でも一度決めたからには揺げない。絶対に成し遂げるんだ。



 ――そうして今、僕は来宝山の山頂へと歩みを進めている。



「――――ッ!!!」


 龍の咆哮が聞こえる。一度目の咆哮だ。

 資料で聞いたことはあるけれど、やっぱりおぞましい。


 標高的にも山頂はもうすぐ、龍は近くまで降りてきている。なんて運がいいんだ! 山頂キャンプをしなくて済むなんて!


 逸る気持ちで脚を動かし、前へ前へと進んでいく。


 山頂の看板、じいちゃんが建てた看板が見えてくる。

 やっぱりじいちゃんは偉大だ。こんな山奥に何度も来て、何度も生きて帰ってきてるんだから。


 僕は正直、何度も死ぬんじゃないかと思ったよ。


 雷に打たれて死ぬんじゃないかとか、木がいきなり倒れてきて動けなくなって助けが来なくなって死ぬんじゃないかとか。


 それにこの山はこの世の終わりのような雰囲気に包まれていて、強風が叫び声に聞こえるんだ。


 それが⋯⋯とても怖い。


 ここで死んでしまった者たちの叫び声じゃないかって思ってしまうから。⋯⋯正直こんなところでキャンプをしたら、精神が病んで自殺してしまいそうだ。


 でも僕にはじいちゃんがついてる。ここに居なくとも、絶対に僕を応援してくれていると思うんだ。


 だから僕は、じいちゃんがくれたたくさんの知識を胸に、この目で、このカメラで、龍の姿をとらえる。


 絶対に、だ。


「――――ッ!!!」


 二度目の咆哮が聞こえる。


 そのとき既に、僕はじいちゃんの看板に手をついていた。


「来宝山登頂! 来いよ龍!」


 今出せる最大の声量で天に叫ぶ。


 僕の他に登山者はいなかった。今回の龍は僕一人が撮ることになる。


 三回目(さいご)の咆哮備え、カメラを取り出しレンズカバーを外す。



 ――今回の目標は龍を綺麗に、丁寧に撮ること。



 連写し続けることはなく、数枚に命をかけて撮ることをじいちゃんと約束した。


 レンズは広角レンズ。魚眼レンズも考えたけど、じいちゃんが最初は広角レンズがいいっていうからこれにした。


 シャッタースピードとか露出とか。色々設定することもできるけど、もうすぐ龍が現れるという今、そんなことはできない。


 だから今回はフルオートでカメラに任せてみようと思う。


 最低限設定をしなければいけないISO感度はじいちゃんに教わった通り3200にして、ストラップを首にかける。


 ⋯⋯電源はもう入れた。


 次の咆哮をおさえるために動画は回しておこう。


 どこから来るかわからない龍を、カメラ越しに探す。


「――――ッ!!!!!」


 三回目の咆哮! ついに奴が来る。念願叶って対面だ!

 即座にしゃがみ、初撃の暴風に備えて重心を下に。どこだ、どこから――


「っ、!」


 咆哮が空の彼方へ消えたあと。



 すぐに龍は現れた。



 二時方向。距離はざっと二十五メートル。


 暗い雲の中、金色に光る髭と背びれ、紅く鋭い眼球。藍色の胴体が蛇のようなしなやかな動きをする。


 どうして浮いていられるか分からないその全貌が、今――。






「――あぁ、やっぱりじいちゃんは凄いや」



 ――おぞましい姿が目に焼き付き、震えてしまった指で、僕は、シャッターを押した。

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