僕には高すぎるんじゃ⋯⋯
――思い切って、一眼レフを買った。
厳密に言えば本体とレンズが一緒になっているセットを買った。
今はミラーレス一眼の時代だとか言われているが、僕は一眼レフの黒くゴツゴツとした見た目がとても好きだ。
僕が買ったカメラは、機能面でオールマイティな活躍ができ、写真は言わずもが、動画まで綺麗に撮れるという優れもの。しかもタッチパネルを押すだけでオートフォーカスしてくれるらしい。
新品ならなんと十万円もするものだが、フリマアプリで探した結果、四万七千円で手に入れることができた。
とは言っても、高い。高いよ。家庭用ゲーム機とソフト二個くらい買えちゃうよ。
⋯⋯高校一年生のガキンチョである僕が買っていいものなのか。
これまでこんなに高い買い物をしたことがない僕は、
「うぅ、指が震える! って、あぁ! 押しちゃった!」
購入ボタンを押すまでに三日を要した。しかも押したのは指の震えが酷いから⋯⋯。
購入ボタンを押してしまってどうしようと思う気持ちと、届くのが待ち遠しい気持ちが押し寄せる。
「いやでもいいんだ。バイトの初給料二万円と、この時のためにとっておいたお年玉がある! それに結構いいものなんだし、中古だとしてもこの値段で買えるのは破格⋯⋯そうだ大丈夫、大丈夫⋯⋯」
そう自分に言い聞かせ、届く日を待った。
「今日こそ届くかな。家に帰るのが楽しみだなぁ!」
学校から帰るときはいつもそう思いながら家のドアを開けていた。
そして購入から五日後――。
「とっ、届いてる!」
机の上に僕宛てのダンボールがドンと置いてあった。
僕は背中が蒸れて仕方がないリュックを下ろし、まるでクリスマスプレゼントを開ける子どものようにダンボールを開けた。
「おぉおお! じいちゃん! 凄いよ!」
リビングからちょっと遠い部屋に居るじいちゃんに大声で興奮を伝える。
すると「どうした?」と聞いてくるじいちゃんの声が小さく聞こえた。
この凄さを共有するべく、ダンボールごとじいちゃんの部屋に持っていく。
じいちゃんの部屋は和室になっていて、畳の匂いがとても落ち着く。
壁には僕がとった賞の賞状や、『龍の写真を本物のように書いた絵』が飾ってあって、モダンなタンスの上には僕が撮った写真が飾られている。
「あぁそういえば『龍希』宛になんか届いとったわい。それを大声で知らせてくれたのか?」
「そうだよじいちゃん! 僕、一眼レフ買ったんだ!」
「一眼レフぅ!? そんな金、どこにあったんじゃ?」
「バイト代とお年玉。それにフリマアプリで買ったんだよ! 中古っていえばわかる?」
「ワシに言えば新品を買ってやったのに⋯⋯」
「十万円もじいちゃんに払わせられないよ〜」
雑談も早々、ダンボールからメーカーの箱を取り出す。
恐る恐る箱を開けると、待ちに待った一眼レフが!
「「おぉ」」
二人して謎にハモってしまった。
じいちゃんはまじまじと見て、「⋯⋯立派なもん買ったなぁ」と言う。
僕はなんだか実物を見て恐縮してしまった。
「じいちゃん、これ僕が触っていいのかな」
「龍希が買ったもんだ。壊すも使うも自由じゃろ」
そうか、確かに。もうお金は払ったんだし、僕のものなんだ。
恐る恐るカメラを手に取る。
あ、意外と軽い。しかも手にフィットする。
レンズを装着して再度持ってみると重くなった。レンズって意外と重いんだな。
よし、念願のファインダーを覗いてみるぞ。
「あ、あれ? なにも見えない」
もしかして電源を入れないと見れないのか? もしかして故障品買っちゃったとか⋯⋯いやそれはないと信じたい。買うときにやりとりしたし、優しそうな人だったし。でもどうして真っ暗なんだろう。
悩んで首を傾げていると、いきなりじいちゃんが笑い出して、笑いながらレンズを指差した。
「まったく龍希はうっかり屋じゃなぁ。レンズのカバーも外さず覗くなんて」
「あっ、これかぁ!」
知らなかった、レンズってカバーが付いてるのか!
すごく初歩的なミスをしてる気がして恥ずかしいな⋯⋯。顔が熱く赤くなってる気がする、あー暑い暑い。
よし、気を取り直してカバーを外してっと。
「お、おぉ! じいちゃんが見える! 電源入れてないのに見えるんだね!」
「おや? 龍希は一眼レフの『レフ』の意味を知らんのかのぅ?」
「考えたこともなかった⋯⋯レフ板とかのレフ?」
レフ板は写真を撮る時に光を当てるためのものだけど、そういうものが中に入ってるってことなのかな?
じいちゃんは「ちょっと違うのぅ」と言って、意味を教えてくれた。
「レンズから光が入って、本体の鏡で反射して、ファインダーから見えるようになっとるんじゃ。この鏡が一眼レフの『レフ』の部分なんじゃよ」
「なるほど、だから電源が入ってなくても見えるのか!」
今までデジカメしか触ってなかったから一眼レフの知識が乏しいな。このままじゃ宝の持ち腐れになっちゃいそうだ。
どうやってカメラの勉強をしようか悩んでいる僕に、じいちゃんが恥ずかしそうに「実はなぁ⋯⋯」と言って――。
「こう見えてもじいちゃん、『龍』を撮ってたんじゃよ」
という、とんでもない事実を言ってきた。
「り、りありー?」
「リアリーじゃよ」