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笑顔の君で  作者: 千成
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第二章 混乱 (1)

短いですが、第二章をアップしました!よろしければ感想、アドバイスよろしくお願いします。

第二章 混乱







この数日間で、気付いたことがある。







転入してきて一週間が過ぎた。


相変わらず斎藤匠は、何日たってもただの

「隣の席のクラスメイト」であり、初めて出会った桜の木の下でのことを口にするわけでもなかった。


もちろん葵も口にはしなかった。



あんな風に他人のフリをされると、逆に聞きづらくなる。



それでもやはり気になるもので、二人きりになる時間があれば話してくるのかと思えば、そうでもない。



ここ数日は、斎藤匠という人物を記憶の中から探し出してみたり、誰か知り合いの知り合いとか…という可能性も考えてみたものの、相変わらずわからずじまいであった。



隣の席の彼は、渚の言うとおり

「何でもソツなくこなす嫌な奴」そのもので、運動神経抜群、成績優秀、異性を問わず友達が多く、先輩後輩関係なく慕われている。




何でもできる人って、ホントに存在するんだ、と何の気無しに思う。




「和泉さん、教科書忘れたから見せて」




何度か、そんな風に言われて机をくっつけて、共に一つの教科書を見たりもするのだが、あの日の話をすることもない。




(何だったのかな…。)




何か、弄ばれているのだろうか。



感情を封印して、他人に関わりたくないと思っているのに、この斎藤匠に振り回されている気がする。







別に、ただ名前を知られていただけかもしれない。




それこそ校長に聞いただとかそんなものかもしれないのだ。




考えすぎていた可能性が高い。




なんでもいい、二年前までの自分を知っていなければ、それでいいのだ。






そう思いながら、葵は帰り道、散り終わりそうな桜を遠目に見つめた。













「あははは〜あははは〜」



笑っているのは、渚だ。何故か楽しそうにストレッチをしている。二人一組で、葵は渚の誘いで組むことになった。




何の変哲もない体育の授業なのに、渚はずっと笑っている。葵は全く関心がなかったので聞くことはなかったが、渚は一人で昨日の夕飯が大好きなハンバーグだったこと、朝から天気がよくて回り道をして登校していたら百円拾ったこと等をべらべらと喋りだした。




「でも今1番嬉しいのは、こうやって葵ちゃんと体操できてることだよ〜」




笑って彼女は言った。







たかが一緒に体操してるだけなのに何が嬉しいのかさっぱりわからなかったが、基本放置なのでそのまま放置することにする。




グラウンドの反対側では、男子が野球のチームの振り分けをしていた。斎藤匠は、バットを持って地面に何やら書いて、友達大勢と談笑している。




「匠のこと、気になる?」



考えていたことが読まれたようで、不意を突かれたように葵は渚を見た。




渚は優しく微笑みながら葵を見ていた。




「葵ちゃん、結構匠を見てるよね。あいつモテるからな〜。何か、力になれたら、渚頑張るよ?」


満面の笑みで腕に力こぶを作ってまで応援されたが、当然、恋とかそういう問題ではない。



「違うの。そういうのじゃ、ないから。」




無表情で答える。

好きとかじゃない。

真実がただ知りたいだけ。







グラウンドの反対側で、男子生徒達は女子生徒の体操をわいわいと見つめていた。


「匠、また和泉さんがお前のこと見てるぜ?」

「お前…もう手塩にかけたわけ?マジ許せねぇんだけど」

「隣の席って有利だよな〜あんなこんなできるしさぁ」

「隣の席じゃなくてもこいつはやらかす男だぜ」

「充分モテてんだから和泉さんくらいいいじゃんか」



「あのな、勝手に話を進めないでくれるか………?」


げんなりと匠が答える。

「和泉にも失礼だろ、推測で勝手に話進めんなよ」


ノリのいい友達達は、ほーい、と言いながら自分のポジションに移動していった。

基本いい奴らで、厭味で言っているわけではないことを匠は充分理解している。




自分が葵に見つめられている?


(疑問の目で見つめてるんだろうな)




そりゃそうだ、と匠は思う。



自分は演技をしているのだから。

ただのクラスメイトとして。




遠くで、渚と話している葵を見つめる。


その顔も、声も、何も変わってはいなかった。

変わったのは、笑わなくなった。怒らなくなった。泣かなくなった。




(あんなに泣いていたのにな。)






まだ、その時ではないから、話せない。




「試合始めるぞ匠ー!」


自分の名を呼ばれて、匠は笑顔で走り出した。








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