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笑顔の君で  作者: 千成
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序章 出会い

はじめまして。千成と申します。読みやすく、をテーマに書いていますが、もしよろしければなんでもいいので、感想、評価を宜しくお願いします。………結構長めになりそうです………(*ゝ∀・*)ノ

〔序章:出会い〕




桜の花びらが、舞っていた。


やっと出会えた君は、花びらの中で桜を見上げていた。



君にとても会いたかったんだ。



会いたくて、ずっと待っていた。



君のその笑顔を見る為に、ここにいるんだ。



笑ってほしい。




笑顔の君で、ずっと隣にいてほしい。












桜が舞う中で、私は正門に立っていた。着慣れない真新しい制服が肌に合わない。以前はセーラー服だったけれど、今回はブレザーだ。そわそわしてしまう。けれど、私以上に隣でそわそわしている(しすぎている)人物が、右手と右足を一緒に出して行進していた。



「伯父さん、伯父さん。右手と右足、一緒にでてる。」



「んあっ!?」




びくっ、と気付いたように立ち止まり、緊張を解きほぐすように彼は深呼吸をしはじめた。




「あのね。転校してきたのは、私。緊張するべきなのも私で、伯父さんが緊張する必要、ないんですけど…。」



「葵、お前緊張してないのか?俺はもうお前がこの学校に今日からお世話になるのかと思うとどう挨拶していいのか…………!」



「意味わかんない。気にしすぎだよ。学校なんて、どこも一緒でしょ。」



「そうか…?」




伯父さんは私の顔を見て、残念そうに俯いた。私と同じく、伯父さんもいつも着ていないスーツを着たものだから尚更かしこまって緊張しているのだろう。灰色のスーツがホントに似合っていない。



転入手続きをするだけなのに、何を緊張することがあるのだろうか。




ちらりと横目で伯父さんを見ながら、行くよ、とだけ呟いて私は校舎へ歩き出した。










「んまあっ!!まぁっまあまあ!!貴女が和泉葵さんね!お待ちしておりましたわ!」


校長室に案内された後、甲高い声が私を待っていた。


(………テンション高い……………)



どうぞ、という声をかけられ、校長室のソファーに伯父さんと並んで座る。ソファーは意外に座り心地がよくて、ふわっとした感触にどこまでも落ちていきそうな感覚にとらわれた。



「私が校長の西野でございます、ハイ。新しい制服似合ってるわぁ〜よかったわ〜!早目に制服準備して、よかったわぁ〜!!」




まさかと思っていたがホントに校長だとは………………………い、いやまぁ仕方ない。




西野校長は昔の中世?にいそうな教師そのものの身なりだった。かくかくさんかく眼鏡に、ロングスカート、後ろで髪を束ねている。






(ロッテンマイヤー…と呼ぼう、心の中で。)







それから簡単な高校案内を受け、書類関係のあれやこれやを済ませ、伯父さんと校長は談笑しはじめた。



話に興味のない私は、ちらっと窓の外を見つめる。


校長室からは広い中庭がよく見えて、桜の花びらが舞っていた。


気持ちよさそう、後で行ってみようかなと思った矢先、校長室をノックする音が聞こえた。




「はい、どうぞ」

「失礼します」



校長室に足を踏み入れたのは、女子生徒だった。すらりと足が長く、スタイルがいい。大きな瞳、長い髪を軽く後ろでまとめている。

彼女は私と伯父さんを交互に見て、慌てたように踵を返した。




「あ、来客中だったんですね。失礼しました!」




「あ、角野先生に頼まれた資料でしょう?すぐ渡せるからお待ちになって!」




ロッテンマイヤーは、踊るように腰を上げて、リズミカルに机に向かった。




「転校生?」

にこやかに彼女が私に向かって話しかけてきた。




「あ、はい」




「川崎さん、彼女来週から貴女のクラスに転入する和泉さんよぅ。仲良くしてあげてね〜」



ロッテンマイヤーが、甲高い声で歌いながら書類を彼女に手渡した。




(仲良くしてあげてね〜って私は小学生か…?)




「そうなんですか!!!すごく嬉しい!!私、川崎渚!仲良くしてね、和泉さんっ!」




喜声を上げながら、彼女は私の手を取りぶんぶんぶんと上下に激しく振った。




(い、いたひ………)




「じゃあ、失礼します」




川崎さん(だったっけ?)は笑顔で出て行った。嵐のような子だ…。




「あの…ロッテン…西野校長、私少し、校内を拝見したいのですが…」




ロッテンマイヤーと呼びそうになりながら、私は尋ねた。




「あ!そうね、そうよね!じゃあさっきの川崎さんに校内の案内をお願いし…」

「いえ、少し見て回るだけですので一人で構いません。お気になさらず。」



ロッテンマイヤーは寂しそうな顔でそーぉ?とだけ首を傾げて呟いた。



一人のほうがいい。




「じゃあ…来週から、よろしくお願いします。伯父さん、後でね。」






校長室を出て、ドアを閉めた後、ドア越しに校長と伯父さんの話し声が聞こえてきた。






「…とてもいいお子さんですね。」



ロッテンマイヤーの、落ち着いた声が聞こえる。


伯父さんが苦笑した。



「はぁ…ホントにしっかりしていて、私達は助かっています。もっと甘えて欲しいというのが本音ですが…。

……校長、例のお話なのですが…」




「はい、少しだけ、お話は伺っております。」




「そうですか…。

…………彼女は、母親を亡くした時から…いや、その少し前くらいから、とても無表情になりました。


この二年間、母親を亡くした土地を離れて、違う土地で住めば変わるのではと思いましたが…二年たっても、笑いませんし、泣きません。もちろん怒りません。


会話は普通にできます。

異常はもちろん見られません。


病院にも通わせたのですが、やはり精神的なことが原因だと。

…こちらの学校で、昔のような笑顔を見せてくれればいいのですが…。」



「………きっと、大丈夫ですよ。」







(何が大丈夫なんだろう?)






私自身が、笑いたくない、泣きたくない、怒りたくないと思っているんだから、それでいいじゃない。






人形のように、生きていく。



これは誓いだから。




祈りにも似た、誓いだから。



私を、心配しないで。

構わないで。



(中庭に、行こう…。)



あの桜が、私を呼んでいる気がした。










中庭にでると、春の風が、髪の毛を泳がせた。



気持ちがいい。




並んでいる桜並木の中で、一つだけ特に大きい桜の木が、自身の花びらを空中に泳がせている。


その木の下に腰を降ろした。




人気のない中庭。



休み時間らしく、校舎はとてもざわついてはいるけれど、中庭には誰もいない。



(外で休む人とかいないのかしら?)







木に背を預けながら、先程貰った資料を取り出す。中には校内資料、授業内容、内申書について等等等……………




ぼーっと一枚ずつめくる。桜の花びらが、一枚手元に舞い降りた。






(…………桜はね、葵。)




(お父さんが大好きな花だったのよ。)




懐かしい声。




もうその声の主はいないけれど。






私の心にはいつもいる。




(だからね、葵も桜って名前にしようって話してたのよ。)




幼い自分と、優しい笑顔の母。




繋いだ手。温かいぬくもり。




(じゃあどうして、あおいはあおいって名前なの?)




見上げて尋ねる。




お父さんの好きな、桜って名前でよかったのにぃ。


小さな自分が口を尖らせる。




それをみて母は頭を撫でてくれた。




(それはね、葵。桜って名前にせずに、葵って名前にしたのは………………………………)







「あっ!!!」






思いふけっていたら、いつの間にか手元の書類が風にさらわれて、辺りに散らばっていた。




あーもう、何してんだろ…と溜息をついて、重い腰を上げて、一枚一枚拾っていく。




プリントを拾おうとした途端、目の前に靴が見えた。


はっ、と気付くと、男子生徒が一人、足元のプリントを拾って差し出してくれた。




「これも、だろ?」



見上げるほどの高い身長、薄茶の髪。ブレザーの中のシャツを着崩している。長い前髪の中から、優しい瞳が見えた。



「あ、ありがとう…。」




いつの間にいたんだろ?ちょっとびっくりしてしまった。


すべてのプリントを拾い集め、一息つく。もう一度木の下に座ろうとすると、先程の男子生徒がこちらを見ていた。




「転校生?」



優しい顔で、尋ねてきた。



「はぁ………そうですけど…」



少し面倒くさいと思いつつ、答える。




「…可愛いね。」




(…………。)




「どうも…」


あぁナンパなのか、なんだ、と自己完結し、腰を降ろす。相手にしていられない。




「すごいね、否定しないんだ?自分の事可愛いと思ってるんだ。」




(何コイツ)


見上げると、変わらず優しい笑顔を浮かべている。モテるだろうに、言葉が悪いと台なしだなーとひそかに思う。



「別に自分のこと可愛いと思ってないですけど、ついさっき会った人にどう思われようが興味まっったく無いので。」




「結構怖いんだね。」


クスクス、と笑いながら彼は言った。はにかんだような笑顔。騙される女は多いだろう。



「あの…何か用があるなら……」


溜息をつきながら、そろそろ一人にしてほしい旨を伝えようと口を開いたが、言葉は遮られた。



「会いたかったんだ。」




真剣な眼差しで、しかし笑顔は崩さぬまま、彼は答えた。




「君に。とても会いたかった。」




「わたし…?」




「そうだよ。和泉葵ちゃん。」




「待っていたって………」




花びらが、一層舞った。風に乗って、辺り一面はピンクだ。




「じゃあ、また来週ね。」



彼はそう言って、校舎のほうへ歩き出す。


あんな知り合い、いた?

ううん、見たことない人だった。綺麗な顔してた。一度見たら忘れられない顔だろう。




「あたし…名前……教えたっけ?」







…………………。







スッ………。



「葵!」

「ストーカーだ………」



そう呟いたのと、伯父さんが後ろから私の肩を叩くのとが同時だった。その後伯父さんは、青ざめておおおお伯父さんはストーカーなんかじゃないぞっ!と手をひっこめた。










「たーくみ!」

中庭から校舎に入ってすぐの廊下で、名前を呼ばれたので立ち止まる。



「司?」

「匠、頭のうえになんかついてんぞ!」


司が頭のうえに乗ったものをつまみ取り、凝視した。


「…………さくら?」



「あぁ、今中庭にいたから。」

「中庭ぁ?一人で?何しに?」


「うーん…………感動の再会………とまではいかないけど………会いたい人に、会って来たんだ」


はぁ?と司が花びらを口に入れながら答えた。食うなよ、と突っ込む暇もなく、彼の喉元は大きく動いた。



「誰に会って来たんだ?」

「内緒だよ」




そう、君に会いたかった。



君が笑うその日まで、俺はここにいる。








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