表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

終章   一、事件の後


 三日後に西嶋修一の告別式が厳かに(おごそかに)行われた。


 家族の意向で慎ましく行いたい、とのことだったが、警察関係者ならびに報道各社などが集まり、弔問客が大挙してやってきたのである。


 喪主は妻の幸子(さちこ)が立派に務めた。


 最後の挨拶では亡き夫がどのように生きたかをとうとつと話し、周りの涙を誘った。そして、いよいよ最後の言葉で、声を詰まらせ、等々夫人は泣き崩れてしまった。


 夫は趣味の絵を描くこと。よく一人でふらふらと何処かへ出かけ、景色をスケッチすることがあったらしい。

 ゆくゆくは個展を出したいな、と冗談交じりにいっていたことを思い出す、ということを涙ながらに言っていた。


 その横で、娘の麗娜が啜り泣きつつも、必死で母親を支えていた。そんな二人を見ていると、森川陸もなんともいえない想いに駆られた。


 死ぬには若すぎた。まだ人生いくらでも、自分がしたいことがあっただろう。まだ五十二歳だ。娘の卒業も、就職も、それから結婚も見ることができなかったのだ。


 もっと生きたかったはずだ。


 それなのに、あの銃弾で命を落してしまった。西嶋の言っていた言葉、刑事は危険だ。その言葉を、まさか自分で実戦することになるとは・・・・・・。


「陸、」

 後ろから声が聞こえた。


 森川は振り返った。


 後ろから弔問客の隙間を縫いながら、喪服に身を纏った麗娜の姿を確認した。


 たった数日で大人になったような気がした。それがいつもと違い、カジュアルな服ではなく、喪服を着ているからなのか、あるいは、親を亡くした娘からくるものなのかは分からなかった。


「陸もまだ居てくれるんでしょ?」


「うん。最後までね、一緒に」

 

 自然と涙が出てきた。


「陸もパパの骨を拾ってくれる?」


「うん」


 すると、麗娜が森川の手を握り絞めてきた。


「私、今、精神がとても不安定なのよ」

 麗娜が泣きながら言った。


「だって、三日前の朝まで元気で、会話だって普通にしてたんだから・・・・・・。

 それが、急に・・・・・・。わかるでしょ? だから、陸、しばらくは私の傍にいて。あなたが傍にいてくれないと、私・・・・・・どうにか、なってしまいそうなのよ」


「分かってるよ。ちゃんと火葬から、収骨までずっと一緒にいるよ」


 森川は手を握り返した。


 しばらくすると麗娜は手を放し、ハンカチで目元を拭い、それから、


「有難う」

 

 と言って、火葬場に向かって歩き出していた。


 森川はしばらくその彼女の背中を見ていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ