終章 一、事件の後
三日後に西嶋修一の告別式が厳かに行われた。
家族の意向で慎ましく行いたい、とのことだったが、警察関係者ならびに報道各社などが集まり、弔問客が大挙してやってきたのである。
喪主は妻の幸子が立派に務めた。
最後の挨拶では亡き夫がどのように生きたかをとうとつと話し、周りの涙を誘った。そして、いよいよ最後の言葉で、声を詰まらせ、等々夫人は泣き崩れてしまった。
夫は趣味の絵を描くこと。よく一人でふらふらと何処かへ出かけ、景色をスケッチすることがあったらしい。
ゆくゆくは個展を出したいな、と冗談交じりにいっていたことを思い出す、ということを涙ながらに言っていた。
その横で、娘の麗娜が啜り泣きつつも、必死で母親を支えていた。そんな二人を見ていると、森川陸もなんともいえない想いに駆られた。
死ぬには若すぎた。まだ人生いくらでも、自分がしたいことがあっただろう。まだ五十二歳だ。娘の卒業も、就職も、それから結婚も見ることができなかったのだ。
もっと生きたかったはずだ。
それなのに、あの銃弾で命を落してしまった。西嶋の言っていた言葉、刑事は危険だ。その言葉を、まさか自分で実戦することになるとは・・・・・・。
「陸、」
後ろから声が聞こえた。
森川は振り返った。
後ろから弔問客の隙間を縫いながら、喪服に身を纏った麗娜の姿を確認した。
たった数日で大人になったような気がした。それがいつもと違い、カジュアルな服ではなく、喪服を着ているからなのか、あるいは、親を亡くした娘からくるものなのかは分からなかった。
「陸もまだ居てくれるんでしょ?」
「うん。最後までね、一緒に」
自然と涙が出てきた。
「陸もパパの骨を拾ってくれる?」
「うん」
すると、麗娜が森川の手を握り絞めてきた。
「私、今、精神がとても不安定なのよ」
麗娜が泣きながら言った。
「だって、三日前の朝まで元気で、会話だって普通にしてたんだから・・・・・・。
それが、急に・・・・・・。わかるでしょ? だから、陸、しばらくは私の傍にいて。あなたが傍にいてくれないと、私・・・・・・どうにか、なってしまいそうなのよ」
「分かってるよ。ちゃんと火葬から、収骨までずっと一緒にいるよ」
森川は手を握り返した。
しばらくすると麗娜は手を放し、ハンカチで目元を拭い、それから、
「有難う」
と言って、火葬場に向かって歩き出していた。
森川はしばらくその彼女の背中を見ていた。




