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四、中には待っている人間がいる


 外に出ると光もなく、真っ暗であった。渡された懐中電灯を点け、その灯りを頼りに歩いた。


 口の中がざらついていた。鉄が錆びたような味がして、唾を吐いた。真っ赤だった。

 ジャリッジャリッ、というスニーカが砂利を踏む音が、暗闇の世界で木霊した。


 外は、自分の足音しか存在していないし、誰の気配も感じなかった。少しほっとするような、それでいてがっかりした、というのが正直な気持ちだ。


 もしかしたら刑事がいて、廃墟から出てきた自分を保護してくれる、という淡い気持ちもあったので、少しがっかりしたのが本音だ。

 

 こんな暗闇の中、一人だけで歩くことに気落ちする。踏みつけた足の裏。柔らかい物体を踏みつけたようだが、一体何なのかも確認することもなく、先を急いだ。

 何か得体の知れぬものを踏みつけたようで恐ろしかったからだ。だが、構っている暇はない。


 駅から出て、橋を渡ると、車が何台か走っていた。その車の誰かに助けを呼んでもらおうとしたが、彩加の顔、明君の顔が脳裏に浮かび、それで思い止まる。


 交差点を過ぎ、山の入れ口辺りを見て廻ったが、人気はなかった。パトカー、乗用車さえも停まっているのを見かけない。溜息をついた。


 もうそろそろ戻らないといけない、と思い、来た道を引き返すことにした。


 そんな時だ。来る時には目にしなかったが、土岐川周辺に鬱蒼とした木の生い茂った所に、一台の白いクラウンが停まっているのを発見した。それは、何だか申し訳なさそうに、ひっそりと、そこに佇んでいるようでもあった。 


 こんな時間に、こんな所に停めているのが不思議だ。


 近くに行き、中を見るが無人だ。盗難車か何かかもいれない、な。そんなことを思った。


「あ、時間が・・・・・・。こんな所で油を売ってなどいられない」


 坂戸は、独り言を呟きながら、歩き出していた。


 まだそれ程古くもなく、乗り捨てにも思えない。運転手は何処にいったんだろうと思ってはみたが、疲れもあり、歩くうちに坂戸の思考からいつの間にか、それは消えていった。


 坂戸は頭を振ってから、引き返した。


 いつの間にか速足で戻っていた。昔からそうだった。行きは、何かと寄り道をしたりして、ゆっくりと向かっていくのだが、目的を済ませた帰り道は、何をそんなに急いでいるのか分からなかったが、早く帰ろうとする。


 それは、きっと誰かが待っているからなのかもしれない。


 だから・・・・・。


 急いで帰る。


 でも、今は、そんな状況や今までとってきたケースなんかではないのかもしれない。これは特別なことなのだ。


 今は、とにかく、他のことを考える余裕など何処にもない。薮押から、外を見てこい、と言われたが、そんなことはどうでもいい、いなかった答えればいいのだから。


 早く戻らないと・・・・・・。彩加と明くんの顔を見ないことには落ち着かない。俺がこうしている間にも、薮押に何かされていないか、不安が募り、もはや理性が破壊されそうなくらいに坂戸は、苦しかった。







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