ニ、西嶋を慕う理由
森川が西嶋を慕う理由には、必ずしも昭和の匂いを感じさせる義理人情の男だけでもない。
そりゃ現代人とは違う、昔ながらの刑事を愛する男ではある。人情味があり、涙もろく、それでいて厳しい。
森川は、そんな男に一度、ビンタを張られたことがあった。
森川は、現代的な考えの持ち主で、ITを駆使した捜査に信頼を置くが、西嶋はその逆で、捜査は靴の底を減らしてするものだ、という考えの持ち主だ。
だから、一緒に捜査をしていると、彼を見ていて、そのどうにも要領の悪い西嶋に業を煮やし、森川は、言ってしまったことがあった。
「何で西嶋さんは、便利な道具を使わないんですか、科捜研みたいに、もっと科学的に捜査を行う方が絶対にいいはずです。
もっと電子機器を信用しましょうよ。それに言っちゃ悪いですが、どうも時間のかけ方が無駄なような気がしてるんですよね。
西嶋さんを見ていて僕は思うんです。何でこの人は、むやみに歩いてばかりいるのか、と。
だって他にもやることがいっぱいあるじゃないですか。それなのに、無駄な所にばかり、足を運んでいる」
言った後、しまった、と思ったが遅かった。
それにこうなってしまえば、止まらない。
「もっと効率的に動きましょうよ。それでは疲れるだけです。機械を使えば、それだけ時間の短縮がなされ、余裕も生まれ、他の仕事もできるわけですよ。違いますか」
「お前な、いつから俺に、そんな口の訊き方が出来るようになったんだ」
西嶋がギロリ、と睨んできた。
「ったく、俺には、俺のやり方があるんだ。無理にとは言わん。付いてきたくなければ、来なくていい。
俺一人でいく。機械にばかり頼っているから、お前には見落としが多いんだ」
そう言って西嶋は背中を見せ、歩き出した。
西嶋のこの形相を初めて見た。あまりの圧で、少し後ずさった。
「待って下さい。西嶋さん、僕の言っている意味が分からないのですか?」
それでも森川は、西嶋の肩を掴んでいた。
なゼ、あの時、あんなにもムキになってしまったのか・・・・・・。
「もう、捜査は二人一組ですよ。これはルールで、決まりなんです。だから勝手に・・・」
バチーン!
話しの途中で、右頬に痛みを感じた。
今でも分からない。
「うるせえ野郎だ。黙って見てろ。俺には俺のやり方があるんだから」
そう言って西嶋は、ルールを破り、一人だけで、もくもくと歩きながら捜査を始め、こつこつと続け、誰もが見落としていた事件のほんの小さな証拠を、見つけ出してきたのだった。
それが、事件の解決に大きく繋がった。
その事件は長い間停滞し、誰もが苛立ちを隠せず、ピリピリとした雰囲気があったことを否定できない。
だから皆がピリピリと嫌な空気が漂っていたのだ。
だが、それを打ち破ったのが多くを語らぬこの男だった。
その事件の後、森川は、徐々にではあったが、西嶋に接する態度が変わっていった。
言葉使いや態度もそうだが、いつしか尊敬できる男にもなっていたのだ。
西嶋は、いつもそうだった。誰もが見もしない所を見、誰もが行かない所に出向き、そうやって証拠を掴んできたのだ。
そんな西嶋は、決して驕ることなく、前と変わらずに森川に接してくれた。
手を上げられたことは、それ一度だけだったが、何度も怒鳴られた。
最初こそ驚いたが、そうやって何度も体験すると、こういう男なんだと認識することもできた。
長くコンビを組んでいると、武骨だが温かく、面倒見のいい男であることを知った。一緒にいると、いつも安心できた。
どんな危険な現場でも西嶋がいれば、安心して動くことができた。
だから、森川は信頼して、西嶋に付いていくのだ。




