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第四章  薮押大和  一、再び


 西嶋は一人、黒川の交差点を捜査していた。


 いまだ道路は混み合い、車が動く気配はない。


 鑑識が終わった藪押の車はレッカーで、署の方へと移動され、この後、鑑定へと廻されることになる。


 鑑識が戻っても、西嶋は黒川の交差点に残り、周辺を隈なく捜査した。


「被疑者は、一体、何の目的があって、こんな道路のど真ん中に車を放置し、行方をくらましたのかー。

 発作的な病気なのか。精神疾患、あるいは薬物・・・・・・からくる凶行だったのか」


 北署は、すぐ黒川周辺、交通機関に警戒線を張って、警官を向かわせた。


 西嶋はやや気もちに余裕を持ちながら、捜査を続ける。


 被疑者が捕まるのも時間の問題に思えた。


 そんな風に思った時に、一報が入った。

  

「勝川のコンビニに向かってくれ」

 西嶋はすぐに、森川に連絡をした。


「え? 何かあったのですか?」


 西嶋の緊迫した声に背筋がピーンと張った。何かがあったようだ。事件? 


「たった今、一報が入ったんだ。勝川のコンビニで傷害事件が起きたらしい。被害者は大場誠二十二歳引っ越し業に勤める男だ。

 一本背負いで、床に叩き付けられて、ナイフで襲われたとのことだ」


「一本背負い? ナイフで刺された?」

 車放置よりも、事件だな、そう思った。


「ああ。右肩を、かすり傷程度にだがな。しかし、床に後頭部を打ち付けた時に意識を無くしている」

 西嶋は言った。

「殺すつもりはなかったのだろう。現場からの報告によると、致命傷を与えるようなものではない、とのことだ。

 それに病院に運ばれると、意識も回復したらしい」


「そうですか。脅すつもりだったのでしょうか?」


「分からない。現時点では何とも言えない」


「それでは、犯人は?」


「逃亡したよ。行方は、まだはっきりとはつかめていない。それで、今、目撃者からの調書をとっているところだ。

 二十歳の女性店員と、襲われた男の友人。二人共十七歳で、引っ越し業の後輩にあたるそうだ」


「そうですか」


「事件の概要はお前が現地に到着してから言う。急いでくれ」

 西嶋は言った。

「陸。ところで、大曽根の交差点で車を放置した藪押大和の訊き込みはどうだったんだ? 一体、どんな男だ?」


「大方の情報はとれましたが」

 森川は少し誇らしげに答えた。 

「それがどうかしましたか?」


「どうも、目撃情報から、その大曽根の交差点で、車を放置した人物と容姿が似ているということなんだよ。

 まだ防犯カメラの解析がなされていないため、何とも言えんのだが」


「わかりました。とにかく、今から向かいます。そこで落ち合いましょう」


 森川はそう言って電話を切った。


 コンビニの事件も気になったが、それよりも早く西嶋と合流し、自分が掴んできた藪押の情報を報告したい、そう思った。

 

 褒めてもらいたいのは山々だが、それよりも少しでも認めてもらいたいのが本音だった。


 彼女とのことを。




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