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79.不穏な知らせが届きました。

昨夜も更新しています。


お父様の執務室で、最近固定の3人で仕事をしていたお昼過ぎ。

コンコンと扉が叩かれた。


来た!


顔を上げて扉を見る。

今日は、お昼過ぎに宰相が来ると言っていたのだ。朝にも会ったとは言え、4人揃うことに胸が高鳴る。3人だと、どうしても欠けている気になるのだ。


が、入って来た宰相の顔は険しかった。いつも以上に眉間に皺が寄っている。


「陛下、殿下、お耳に入れたいご報告がございます。リュカも聞きなさい」

「……久しぶりに来て第一声がそれか」

「私だってこんな予定ではなかったのですよ」


1月ぶりとは思えない気安いやり取りを2人は交わす。仲が良いというのか何なのか。


「まぁ良い。聞こう。なんだ」

「……西の、ペリン侯爵より報告がありました」


私も手を止め、耳を傾ける。

ペリン侯爵は、生真面目で優秀な人だ。王位に誰が就こうが自分がすべきことは変わらない、と私を廃そうとしなかった数少ない貴族。積極的に味方はしてくれないが、職務に忠実なので信頼している。

その人が、どうしたというのか。


「……崖の下から、凄まじい音と共に黒い塊が飛んで来たと。自然のものと思えなかったために捕らえたところ、中から人間が出てきたそうです」

「……なんだと」


私とリュカも息を飲む。

これは、歴史的な事件だ。


この国は、高い台地の上にある。昔、人間からの迫害を逃れ、人間が来られない高い土地へ越して来たと伝わっている。途中、奴隷として人間を拐って来た時期はあったが、それ以降人間の国との関わりは全くなかった。断崖絶壁が、この国を守っていたからだ。

ペリン侯爵領には、陸側の崖がある。人間の国に接する領地と言えることに、今回のことで気付かされた。


悠久の平和は、終わりを告げたということか。


「……捕らえた人間は」

「鉄の棒から火を吹かせ、何人か怪我をさせる程に暴れたそうです。尋問にはだんまりで、詳しい情報は得られていません」

「……鉄の棒から、火を吹かせた?」

「私も詳しくは分かりませんが、そのような報告が」


心臓がばくばくと音を立てた。

言えない。だがそれは……銃だろう。そして人間が乗っていた黒い塊は、飛行機。


この国の文化レベルは前世で言うと中世ヨーロッパレベルだ。だが人間の国では、20世紀レベルとなっていたというのか。


飛行機が戦争に使われるようになって、戦争のやり方は大きく変わったという。そして今、飛行機が出てきたのなら、私達有翼族は、大変な危機に面していることになる。空を飛ぶというアドバンテージを失ったことになるのだから。


「空を飛ぶ塊の詳細情報はありますか」

「ええ、ここに。現在分解し、解析中だそうです」


宰相から資料を引ったくる。

イラストが付いていた。真ん中に人が乗るところがあり、前方に平べったい大きな翼が、しっぽ部分に小さな翼が生えている。頭の部分にはプロペラ。……前世の歴史の教科書で見た、第二次世界大戦頃の飛行機だ。


「……小回りが効きそうですね。ただ、有翼族が捕まえられたということは、スピードはあまりないのです?」

「いえ、速かったようです。ロープや網を駆使して、数の利でどうにか捕まえられたとか」

「……では、この乗り物がたくさんあった場合には」

「はい。この国は危険でしょう」


重たい沈黙が訪れる。

この国にも騎士団はある。だが、小競合い程度しかない平和な時期が続いていたのだ。そのレベルは推して知るべし。戦闘用の飛行機で偵察するような国と戦えるかと言うと、答えは否だ。


「……目的を知りたいですね。この地を奪いたいのか、ただの好奇心なのか、偶然なのか」

「……そうか。そういう可能性もあるか」


お父様の肩から少し力が抜けるが、私は首を振る。


「可能性があるというレベルです。警戒は必要です。ですが、対話が出来るのであれば、対話で解決したいところかと。捕らえるまでは攻撃して来なかったのなら、対話ができる可能性があります。宰相、その人間には言葉は通じるのですか」

「その人間は何も話そうとしないようですから、なんとも」


顎に手を当て、考える。

何百年も没交渉だった相手だ。ここまで文化が違うのに言葉が同じということはないだろう。ならば言葉を覚える必要がある。有翼族では警戒されるが、同じ人間ならもしかしたら。


「優秀な人間を派遣しましょう。言葉を覚えてもらい、通訳してもらえるように」


宰相が一瞬目を大きくさせ、すぐに頷く。


「そうですね、それが良い。アンヌ様から、誰か派遣させます?」

「……ええ」


本来、私が抱える裏の人間達は、表に出さない方が良い。罪を犯し、死んだことになっている者ばかりなのだから。

だが今回は、非常事態。人材の出し惜しみをしている場合ではないし、彼らの素性を調べる余裕のない今は彼らを表に戻すチャンスだ。


「私に仕えてくれている者を3名出しましょう。陛下も、優秀な人間を何名か……そうですわね、2名程見繕っていただけますか。宰相は何名出しますか」


お父様をチラリと見ると固まっている。だが今は、概要を詰めることが大事だ。


「私からは人間ではなく、ティモテとその部下3名を出します。人間をなぜ5名も」

「私からは、オールマイティーに優秀ですが脚が悪い者、護衛の役割も果たせる者、機械や道具の作成に明るい者の3名を出します。私側だけでは不安でしょうから、陛下側からも2名かと」

「すぐに行かせられるのなら良いですが、出せますか?」

「私の方は」


しっかりと頷く。

派遣しようと思っているのは、何でも知っていてまとめ役も出来るアドルフ、私と共に幼い頃から勉強していて頭が良いうえ護衛の腕も良いウィロウ、まだ20歳と若いが研究者・発明家として数々の物を作ってくれてきたトリスタンの3名だ。

私の配下は人数が多いし皆優秀なので、3人が抜けても問題ない。


が、問題はお父様だ。


「陛下、優秀な人間2名と騎士団の小隊をすぐ派遣できますか」

「騎士団は問題ないだろうが……優秀……どういう意味でだ?そもそも何故人間限定なのだ……?」


私と宰相は顔を見合わせた。面倒だが、この国のトップを無視するわけにはいかない。


「私がご説明いたしましょう。アンヌ様は人間派遣のご準備を。リュカはティモテに指示をしに行け」

「はい」


私は立ち上がったが、リュカは目を白黒させた。


「お、お待ちください、私にもご説明を……」


宰相が小さくため息を吐く。気持ちは分かるけれど、こら。


「……仕方ない。アンヌ様、申し訳ありませんが」

「ティモテにも伝えて来ますわ。人選はティモテに一任で?」

「ええ」

「分かりました」


私は駆け出した。事は一刻を争う。



そうして、2日後の早朝、人間5名、文官の有翼族4名、騎士団小隊15名による先遣隊が、羽馬車で出発して行ったのだった。


恋愛話を期待していた方、ごめんなさい。

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