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72.ようやく言えました。


「マグノリア、ちょっと良い?」


結婚式の前日、私はマグノリアを呼び止めた。今、この部屋にはマグノリアと護衛のウィロウしかいない。そう仕組んだからだ。


「はい?」

「話したいことがあるの。マグノリアと、ウィロウに」

「……俺も、ですか」


私の後ろにいたウィロウが身動ぎするのを背中で感じる。まだ、私とウィロウは目を合わせられていない。


「2人にはね、私が結婚してどの部屋に行っても、一緒に来てほしいの。そういう話はいってるかと思うのだけれど、……良いかしら」


尻すぼみになってしまった。だって、自信がない。2人には2人の人生がある。ずっと私に仕えてくれていたからって、勝手に決めて良いとは思えない。なにせ1人の部屋にいる時も、スタンスラスの部屋にいる時も、宰相の部屋にいる時も、ずっと来てほしいと言っているのだ。

それは、私にしか仕えられない諜報部隊と同じ。


「もちろんですわ!」


マグノリアは笑顔で言ってくれた。可愛いし嬉しい。でも、と思う。


「ありがとう。でもね、ずっと一緒にいてくれるなら、今後は、私の疚しい部分も全部面倒を見てもらうことになる。その覚悟は、ある?」

「そういうことなら、ぜひ」


返事が来たのがウィロウで驚く。ウィロウは私の正面に回り、じっと目を見てくれた。久しぶりに見たウィロウの目は、決意の籠った、良い目だ。


「アンヌ様が、何かを隠していらっしゃるのは気付いていました。そしてそれを、ハンスは知っているのでしょう?俺は、彼以上にアンヌ様の力になりたい」


ウィロウは、何かとハンスを敵視しているなと思っていた。でもそうか。ハンスは裏のことを知っているから、ハンスにしか任せられないことも多かった。それが、悔しかったのだろう。


私はしっかりと頷いた。ウィロウはずっと、裏の部分に関わる覚悟をしていたのだと感じたからだ。これ以上覚悟を問うのは失礼だ。


マグノリアを見れば、神妙な顔をしている。

どうするか悩んでいるのかと思ったら、彼女の口から出てきたのは予想外の言葉だった。


「……エミリーも、ですか?」


素直に驚いてしまった。

確かにエミリーも、表のふりをした裏の人間だ。彼女が、裏の人間達に食事を作ってくれている。だが、ハンスと違って極力関わりが強いことを悟らせないようにしていたのに。


マグノリアの目は、ウィロウと同じだった。さすが双子。そっくりだ。


「そうよ。それで、マグノリアはどうする?」


答えは分かっているけれど、ちゃんと言質は取らせてもらおう。


マグノリアは晴れやかに笑った。


「アンヌ様にずっと付いて参りますわ」


顔が綻んでしまったのは、許してほしい。






私はソファーを動かした。まだ、この裏道は使っている。まずは、ここから。


マグノリアとウィロウは息を飲んだ。切り込みと蝶番から、そこが扉であることが分かったのだろう。

押すと現れるのは相変わらずの暗闇だ。私は先陣を切る。中に入り、古くなったタンスの扉をさっさと開けた。さすがに成人3人が入っていられるほど広くないし丈夫でもない。


タンス扉の向こうにいたのは、ハンスとエミリー。2人と同じ役割をマグノリアとウィロウには担ってもらうつもりであるため、待機してもらっていた。

目配せすると、心得たように2人は頷く。


私はタンスから退いた。マグノリアとウィロウを促す。殿のウィロウにはソファーを元の位置に戻しておくこともお願いすると、綺麗に光は見えなくなった。姉と違って器用で助かる。マグノリアには別の良さがあるのだけどね。


マグノリアとウィロウは恐る恐るタンスから出てきた。キョロキョロと見回し、先客を見て息を飲む。

2人の目が怖い。この姉弟は何故ここまでハンスとエミリーを敵視するのか。

でもライバルとして切磋琢磨してくれるのなら、願ってもない。


固くなるマグノリアとウィロウに、私は笑顔を向けた。


「マグノリア、ウィロウ、裏の世界へようこそ」


3歳からずっと仕えてくれている2人のことはとても信用していた。

2人が私を好いてくれているのは見れば分かる。絶対に裏切らないでいてくれる人だと思っていた。


でも、彼らとは表の世界で出会っている。


襲撃される場面には何度も立ち会わせてしまっていたけれど、それでも自分自身もこそこそしていることを、生きるために必要だったとは言え、後ろめたくて言えなかった。被害者面をしていながら、実はそれを利用しているなんて。


年齢のこともある。精神年齢がおかしい私と違って、マグノリアとウィロウは普通の子供だ。裏のことなんて、教育に良くないと思っていた。


でも、2人なのだ。

他の大人の使用人ではなく、母親のエデでもなく、マグノリアとウィロウが良かった。小さい頃から見ている、可愛くて大切で頼りになる、何があっても裏切らないと信じられる2人だから。


「私のことを、裏から支えてくれている者は、そこそこ人数がいるわ。でも、表から裏に来たのは、2人が初めてなの。だから、言うのが遅くなってしまったわ。決心が付かなくて。ごめんなさい」


マグノリアとウィロウは静かに聞いてくれている。

だが、あまりに静かで困ってしまった。どうしよう。あと何を伝えよう。


沈黙の中、ポツリとウィロウが呟いた。


「……では、2人は元々裏の人間だった、と?」


ハンスとエミリーは身動ぎ1つしない。

それがむしろ、答えだった。


マグノリアとウィロウは同時にため息を吐いた。二卵性なのに双子のシンクロ率すごい。


「アンヌ様、私達をとても信用してくださっているというのは分かりましたわ。でもそもそも、裏とは何なのです?」

「説明するわ」


私は慎重に言葉を選んだ。

裏の者は、全員元暗殺者であること。そのスキルを生かして、諜報部隊として情報を集めてきてもらったり、裏工作をしてもらっていること。エミリーは裏の者の食事は作ってくれていること。ハンスは捕まえた暗殺者を裏に連れて行く仕事をしていること。他にも表と裏を繋ぐ仕事はあり、マグノリアとウィロウにも手伝ってほしいこと。


アドルフとハンスは私の暗殺をしに来たわけではなかったが割愛したところ、鋭い視線を受けたハンスから私が鋭い視線を受けた。ごめんて。でも話の端を折らないで。


話は長くなったが、マグノリアとウィロウは一言も発さず聞いてくれた。


「……質問は?」


最後に聞けば、マグノリアが首を振る。


「聞きたいことは多々ありますが、ハンスとエミリーに聞きますわ。アンヌ様、もうすぐ結婚の儀式のリハーサルでしょう」


……頭が上がらない。


「ありがとう。本当に頼りになるわ。では一度、戻りましょうか。

ハンス、エミリー。マグノリアとウィロウが通常業務を終えたら、地下を案内してあげて。今後の業務分担もアドルフと5人で話し合ってちょうだい」

「はっ」

「かしこまりました」


指示を終え、私、マグノリア、ウィロウの3人は私の部屋に戻った。しばらくするとマグノリアとウィロウの交替時間だ。

目配せすると、2人は笑ってくれた。すっきりした顔に見える。話して良かったのだなと、安堵した。


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