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7.父であるということ

ジョセフは忙しい。

王太子として勉強することは多く、それでいて貴族の接待などの仕事も多い。


だから、彼女の姿を見たのも偶然だった。


「ほら、もっと速く動かしなさい!

そんな速度では落ちます!」


聞き覚えのある声がして、ふと庭園に目を向ける。

そこには、現在もたまに空中での剣の手ほどきをしてもらうケントがいた。


ああ、と思う。

先日自分が剣の手ほどきを受けた際、冗談まじりに言ったのだ。

お前が娘の飛行の練習も見てくれたら面白いかもな、と。


「はい!」


子供の元気な声が聞こえる。

こちらからでは金色の髪と翼しか見えないが、それは自分の娘しかありえない。


娘。

ジョセフは未だに戸惑っていた。

娘が産まれて、早3年。


娘はジョセフが17歳の時に産まれた。

年上の美しい人間に惹かれ、手篭めにしたが、子供が出来たと知った時は動揺した。


子供が出来る。

それは知識としては知っていたが、まだ自分には遠い世界のものだった。


人間との子供とは言え、初めての自分の子供だ。

産まれる前にはそわそわし、直後に見には行った。

だが、自分の子供という実感は湧かなかった。


しかし娘が産まれて、自分の周りが変わった。


ジョセフは金色の翼を持つが、王太子の地位は安泰ではない。

弟妹や甥姪に金色の翼を持つ者が産まれた場合、そちらに王位を奪われる可能性があるからだ。


ジョセフは現国王の三男である。

兄は二人、姉は一人、弟は四人、妹は三人。

皆、早く結婚し、金色の翼を持つ子供を持とうとしていた。

現に甥姪は何人かいる。

50近い父にも未だに縁談が持ち込まれていた。


そんな時、アンヌが産まれた。


金色の翼が二代続いた時、もう親の兄弟の血筋には金色の翼は産まれない。

つまりジョセフは、金色の翼の正統となったのだ。


ジョセフは元から王太子ではあった。

だが、常に暗殺の危機に面していた。

それがパタリと止み、逆に縁談が山のように持ち込まれるようになる。


ジョセフも若い男だ。

美女をあてがわれ、嬉しくないはずがない。

命の危機もなくなった。

あとは王太子としてのプレッシャーだけだ。


そう、人生の充実を感じていたところに、娘を見かけた。


娘は必死に翼をはためかせる。

ああ、そんなに力んでは上手く動かせないだろうとハラハラと見て、そんな自分に驚く。


娘と会ったのは数回しかない。

どうしても親の自覚が持てず、公式な場で見かける程度だった。


現在の自分の好状況は、娘のおかげであることは分かっている。

娘は自分に利益をもたらす。

だが、小さい子供など関わったこともない。

触れ合い方など全く分からない。

自分が娘の親である自覚もない。


そんな自分が、娘の姿から目を離せない。

戸惑いながらも、ジョセフはそんな自分を嫌だとは思わなかった。


娘が必死に翼を動かしながら地を蹴る。

そしてふわりと浮いた。


「よしっ」


ジョセフは思わず呟き、ハッと口元を抑える。

誰にも聞かれていないかと見回すが、すぐ横に側近を発見し、ひどく狼狽した。

側近は生暖かい目でこちらを見る。


「な、なんだ」

「いいえ、良かったですね」

「……う、うるさい!」


ジョセフは顔を赤くし、視線を娘に戻した。

娘は降りられないらしく、ケントが補助している。


ケントが娘の柔らかそうな腰を掴んでいることに、思わずムッとする。

が、次の瞬間、アンヌは飛び降り、見事に着地した。


ジョセフはホッとし、笑みを浮かべた。

が、横からまた視線を感じ、慌てて無表情に戻す。


違う。

断じて、娘の成長を喜んでいるわけではない。


「では、今日はここまで。自主練習は結構ですが、怪我はしないように」

「はい。ありかとーございまちた」


アンヌの舌足らずな明るい声が聞こえる。

思わず口元がにやけた。

これが、可愛いという感情か。


ジョセフは、侍女と手を繋ぐアンヌを見送りながら、娘との接触方法について考えを巡らせた。



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