6.翼を使えるようになりました。
マグノリアとウィロウが私の元へ通うようになって数日。
二人とは一緒に勉強したり遊んだり。楽しくやっている。
今日は母が絵本を読んでくれていた。
「~そうして皆、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし!」
にっこりと私達を見回す。
ああ可愛い。本当に笑顔の素敵な人だ。
「マリアしゃま、これもよんで!」
マグノリアが母にねだる。
使用人の娘が主人の母に読み聞かせをねだることは、普通ならばありえない。
だが母は元使用人の人間。そのあたりは寛容で、優しい笑みで首肯した。
が、その時エデが入ってきた。
「アンヌ様、これから飛行の授業とのことです。行けますか?」
「あ、はい!」
そうだ。今日から私は飛行の授業を受けるのだ。
今まで私の周りにいたのは人間ばかりだった。
だが、ここは有翼族の国で、私はその有翼族。
飛べるようにならなければならない。
そしてもちろん、指導者は有翼族だ。
緊張する。
私は生い立ちから、人間には好かれ、有翼族からは嫌われている。
どうなることか。
私の緊張が伝わったのか、母が髪を撫でてくれた。
「大丈夫よ。エデも近くにいてくれるわ。よろしくね、エデ」
「もちろんでございます、マリア様」
母の笑みは優しい。応援してくれていることが分かる。
私は同じく優しい笑顔を向けるエデの手を握った。
エデはぎゅっと握り返してくれる。彼女の決意が伝わる。私を守ろうという決意。
私もしっかりしないといけない。
私だって、母やエデ、マグノリアにウィロウを守りたい。
その前に、一番危険な自分の身は自分で守らなければ。
立ちあがり、母に向かってにっこりと笑った。
「いってまいりましゅ、おかあしゃま。
マグノリアとウィロウも、またあとで!」
私はエデと二人で部屋を出た。
場所は庭園だった。
芝生がふさふさと生えており、ここなら落ちてもあまり痛くはなさそうだ。
そこに、引き締まった体の若い男性がいた。
こちらに気が付くと頭を垂れる。
私はエデの手を離し近付いた。
「ごちげんよう。わたちはアンヌ。あなたがしぇんしぇい?」
男性はすっとしゃがみ、私と目線を合わせてくれた。
そして無表情のまま口を開く。
「はい。ケントです。よろしくどうぞアンヌ姫」
私は右手を出す。
ケントはその手を取り、握手をした。
あくまで対等な立場として接するらしい。
部下であれば手に口付けるが、指導者だから問題ないか。
「よろちく」
「ええ、私は厳しいですよ」
切れ長の目がキラリと光る。
負けるもんか!
「のじょむところでしゅ!」
「ほら、もっと速く動かしなさい!
そんな速度では落ちます!」
「はい!」
私は地面に立ったまま、ひたすら翼を動かしていた。
今までも動かしていないわけではなかったが、宙に浮かべるほど速く動かしたことはない。
それを分かってケントは、私の体を押さえ、足が地面に着いた状態で、まず翼を動かす練習をさせた。
が、厳しい。
鳥とかこんなに速く動かしてないでしょ?!と思うスピードで動かさせられている。
「はい、ではやめて」
やっと終わった。
私はゼーゼーと息をする。
厳しい。覚悟はしていたがキツい。
「じゃ、これから飛びましょうか」
「え?!」
「なにか?」
目が、まさかこれごときでギブアップですか?と言っている。
私はキッと睨んだ。上等だ。
「いえ!おねがいちまちゅ!」
ケントはふっと笑った。
練習を始めて一時間。初めての笑顔だった。
「その意気です。では、私の真似をして飛んでみてください」
そう言ってケントは3メートル程上まで飛び、旋回し始めた。
私はぽかーんだ。
何のアドバイスもなしにいきなり飛べとは。
とりあえず翼をパタパタさせる。
先ほど練習した通りに高速で。
あ、なんだかいけそう。
私は地面を蹴った。翼は動かし続ける。
う、浮いた!
ケントが近くまで降りてくる。
「そうです。とにかく風に乗るまでは翼を動かして」
「はい…!」
息が上がる。
だが、気持ちいい。
私はくるっと旋回した。
地面から1メートル程しか離れていないが、それでも私の背丈より高いところを飛んでいる。
思わず笑顔でケントを見た。
ケントは黙って頷く。
これは、褒めてくれているのかな?
「さて、では少しずつ動かす速度を遅くし、降り立ちましょう」
「は、はい!」
これが難しい。地面に激突すると思うと怖くて降りられない。
すると。
「仕方ないですね」
ケントが近付き、私を持ち上げた。
「ここから飛び降りなさい。翼を使ってゆっくりと」
足をケントの太ももに乗せさせられる。
靴のままで良いの?と思ったが、問答無用で乗せさせられたので良いらしい。
確かに、安定した状態から飛び降りる方が楽だ。
私は頷き、ケントの太ももを蹴った。
何度か翼をはためかせ、ゆっくりと降りた。
足が着いた直後に両手は着いてしまったが、まあまあ成功だ!
「まあ良いでしょう。ただ、もっと優雅に降りられるように」
「はい!」
私の顔は明るい顔だったと思う。
自分で空を飛ぶのが、こんなに楽しいと思わなかった。今ならライト兄弟の気持ちが分かる。
もっと上手く、もっと自由に空を飛びたい。
「では、今日はここまで。自主練習は結構ですが、怪我はしないように」
「はい。ありかとーございまちた」
私は笑顔で礼をした。
そして近くで待っていたエデの元へ走る。
エデはニコニコしながら手を握ってくれた。
私は上機嫌で部屋へ戻る。
浮かれていた私は気付かなかった。
その様子を見るもう一人の存在に。
彼はアンヌが見えなくなると、飛んで一瞬でケントの元へ近付いた。
その翼は、金色。
「ケント、どうだアンヌは」
「筋が良いですね。普通は初めてで、それも3歳で1メートルの高さまでいけません」
ケントは膝まづいて返答する。
「さすがあなた様のご息女です。ジョセフ殿下」




