58.明るい未来を生きましょう。
「……では、援助については以上でよろしいでしょうか」
進行役のティモテが参加者を見回した。
騒動が終わって、早3日。
私、ティモテ、マテオとリュカ、ディディエさんは、連日会議を行っていた。
とは言え、ラシーヌ侯爵家の立場は弱い。
ほとんどが私達3人の打ち合わせで決まっていた通りに進んだ。
私はしっかりと頷く。
これで、中央からの援助と控除だけでなく、ラシーヌ侯爵家から村への援助や控除も決定した。
何度も細かく打ち合わせたのだ。漏れはない。
リュカとディディエさんも頷く。
こちらの言う通りに進んだはずだが、その顔はすっきりしている。
配慮したつもりではいたが、問題なかったようだ。
「謀反を起こした家へここまでご配慮いただき、まことにありがとうございます」
リュカが改めて立ち上がる。
私は頭を振った。
「村人に罪はないでしょう」
「……はい」
リュカも微笑む。
彼は本当に立派だ。自分には罪があり、処罰が下ると分かっていながら、村人のためにこんなに優しい顔を出来る。
だからこそ、欲しい。
「……全然関係のないことを聞いても良いかしら」
「なんでしょう?」
リュカの不思議そうな顔に、私は緊張した。
頑張れ自分、求婚するわけじゃないんだから!
「リュカは……お嫁さんを迎える予定はないの?ほら、すぐに正式な領主になるだろう、から」
私は気恥ずかしさを消すように言い訳を並べたのだが、途中で失速した。
リュカとディディエさんの顔が、悲痛なものだったから。
……これは、聞いてはいけないことだったか。
「ごめんなさい。言わなくて良いわ」
「いえ、大丈夫です」
そう言うリュカの瞳は、けれど傷付いた色をしていた。
「……婚約者がいたんです。叔父上の娘の、サーラという子が」
私は首肯で続きを促した。
空気を壊しそうで、声を出すことが出来ない。
「……叔父上の隣の牢に、入れられていました。そして殿下がいらっしゃる3日前に……」
拳を握りしめすぎて、爪が手の平に食い込んだ。
私がラシーヌ領に着いたのは、城に着く四日前だった。
その時には、まだ生きていたということ。
何か言おうと口を開くが、カラカラで声が出なかった。
目に浮かぶ水は落ちないよう、手の平の痛みを意識する。
私はゆっくりと深呼吸した。
「……お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます」
リュカは悲しげながら、微笑んでくれた。
ディディエさんの顔も優しい。
彼らは強く優しい。だからこそ、痛い。
「……私がラシーヌ領に入ったのは、サーラ嬢が亡くなられる前日です。お助けできず、申し訳ございませんでした」
私は立ち上がり頭を下げた。
ティモテとマテオも立ち上がった気配がする。
彼らも同じことを感じている。だから王太子の私が頭を下げることを咎めない。
村を回らなければ、助けられたかもしれなかったのだから。
「……頭を上げてください」
真っ先に言葉を発したのはディディエさんだった。
私は少し悩んだ後、顔を上げる。
「遊んでいたのでしたら怒ります。ですが、殿下は村人達を救ってくださったと聞いております」
ディディエさんが同意を得るようにリュカに顔を向けると、彼も頷く。
リュカは、ディディエさんに色々と報告したのか。
「……娘が亡くなる前に殿下がお越しくださっていたら、代わりに多くの村人が亡くなっていたでしょう。それで助かっても、娘は喜びません」
涙が浮かんでいるのに、ディディエさんの微笑みは穏やかだ。
……本当に、優しい人格者だ。
「殿下。殿下が私におっしゃったのですよ。感謝している人がいることは、受け止めても良いって」
リュカに言われて思い出す。
……そう言えば、リュカも助けられなかった命を悔やんでいた。そう考えると、同じか。
「……ありがとう。でも、後で祈りは捧げさせてください」
「ありがとうございます」
やってしまった感じはあるけれど、知れて良かった。
ディディエさんとリュカも、少しずつ吹っ切れているように見える。
願わくは、未来が明るいことを。




