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57.望んでも良いですよね。


「さて」


推理小説の解説のように、私はティモテとマテオを見て切り出した。

小ネタが通じないのが悲しいところ。


ここは、私に与えられた客室のリビングである。

私は一番立派な客室に案内されたのだ。そういうところ、リュカは分かっている。王城の自分の部屋より広くて戸惑っているのは秘密だ。


ティモテとマテオも貴族であるため、私の近くに個室が割り当てられている。

本当にこの城は立派なものだ。田舎だからこうなのか、侯爵だからこうなのか。


……だとしたら、宰相の実家はもっと広い?

いや、ビビる必要はない。私の家、王城なんだから!あの広すぎる敷地、一応我が家だから!つい最近まで外に出たことなかったくらいに広いんだから!


……こほん。


今は15時頃。夕食は出してくれるとのことだったので、それまでに大まかに方向性を決めなければ。


「まず、ご苦労様でした。2人のおかげで、領主の捕縛と次期領主の取り込みが出来たわ」


領主の捕縛は最低限の目標だった。

次期領主をこちら側に引き込めたのは大きい。

ここは国の南端。重要な拠点だ。


「いえ、殿下のお力によるものです」

「……腕力」

「マテオ?」

「失礼しました」


遠慮のないツッコミに笑顔で怒る。

いや、確かにそうなのだけれど。

思い返してみれば、ルイゾンを捕縛したのも、ディディエさんを解放したのも、リュカにバルコニーで宣言させたのも、私の腕力。

……ケントに感謝。


「いやぁ、でも本当にすごかったですよ、殿下。城から出たことがないと聞いていたので驚きました」

「城から出たことがなかったのは本当よ?」


ティモテに反論する。嘘は言っていないのだ。広すぎる敷地を飛び回ってはいたけれど。


「ですが、剣術指南は受けていますよね?」

「受けていなかったら生きていないもの」

「……」


はっ!

なんか重い空気になってしまった。


「まぁ、剣術の先生のおかげね!」

「……興味本位なのですが、殿下の剣術の師匠はどなたなのです?」


そう聞かれて、私はあれ?と思った。私、ケントのことを名前しか知らない。


「……えっと、名前しか知らないのだけれど、ケントっていう男性」

「……よくある名前ですねぇ」


ティモテに苦笑されてしまった。

だよね、よくある名前しかヒントがないって特定しづらいよね!


と、思ったら。


「……まさか、ケント・スカリジェ騎士団長では」

「「え?」」


ティモテと声が重なった。

騎士団長?ケントが?


まだ若いから違うでしょう、と笑い飛ばしたい。

が、確かにいつも忙しそうだし、騎士が慌ててケントに頭を下げて去っていくのを見たことがある。


「そういえば、陛下の剣術指南は騎士団長がされているとか」

「……ケントは元々、お父様の剣術指南役よ」


沈黙が流れた。


え、マジか。マジですか。


「……殿下がお強いはずですね」

「……若くして騎士団長になった人なら、子供の私にも容赦のない練習の鬼でも分かるわ……」

「子供の頃から騎士団長の指南……」

「で、でも最初は飛行の練習だったのよ?」


そう、最初の頃は剣を持たせてはくれなかった。

ひたすら飛ぶ練習だった。

それが、ボール(豪速球)を避ける練習になり、矢を避ける練習になり、矢を剣で受け止める練習、剣と剣を合わせる練習、と変化していったのだ。

まぁ、剣を持ち始めたのは5歳頃だから、子供の頃で間違いはないのか。


「それに10年以上前からだもの。まだ騎士団長にはなっていないわよね?」

「それは確かに……」

「というか、20歳そこそこで陛下の剣術指南をやっていたスカリジェ団長も化け物ですね」


それに関しては大いに頷く。

本当に、あの人は化け物!


「本当よ。お父様と2人で相手してもらっても、勝てるイメージが持てないもの」

「……陛下もかなりお強いんじゃ」

「ええ。本気でやってくださらないから、お父様の本当の実力を私は知らないのだけれど……」


そもそもお父様との模擬戦は12歳頃を境になくなってしまった。

今はケント相手に行う模擬戦くらい。

その時でも、私に気を使っているのか実力を見せたくないのか、力を抜いている感じがある。

おそらくかなり強い。


「……本気でやらなくても殿下に勝てるのか、本気でやって殿下と負けたくないから手を抜いて負けているか、どっちだ……」

「殿下もこの旅で本気出していないよな……」

「え、何?」


なんだか2人でこそこそしているので聞くと、2人はぶんぶんと首を振った。


「なんでもありませんよー」

「ええ、それで、今後どうしましょう」


わざとらしい。

じとっと見つめるも、目を合わせてくれない。

まぁ、良いか。


「まず、このあと陛下に手紙を書くわ。リュカを領主代行に任命したことを報告して、正式に領主にしていただかなければ」

「ええ、良いと思います」


ティモテとマテオは真面目な顔に戻って頷いた。

どこの世界でも大事よね、報連相。


「2人も推薦文を書いてくれるかしら。私だけの意見で判断は出来ないでしょうから」

「かしこまりました」

「……あ゛」


ティモテがすごい声を出した。そしてものすごい冷や汗。

え、何?


「……男を近付けさせるなって厳命が出ていたんです。親バカな陛下が怒り狂われるから」


私は苦笑するしかなかった。

確かに。

同い年の男性と仲良くなったとか、お父様が怒りそう。

でもまさか、わざわざ2人にそんなことを言っているとは。


「お父様、わざわざそんなことを2人に?」

「いえ、言ったのは宰相殿です」


沈黙した。

そして顔が火照り始める。

慌ててうつむいた。


……宰相、それって、嫉妬しちゃうからってこと?

そうなら少し、嬉しい。


「殿下?」

「いえ、何でもありません。でもそうよね、困ったわ」


リュカについては、正式に領主にしてもらうだけではなく、もう1つお願いしたかったのだ。


「リュカへの処罰に、私の側近として連れて帰りたかったのに」


2人の微妙な顔が、全てを物語っていた。




「だってね、同年代で位が高くて頭が良くて信用できる人って少ないのよ?囲っておきたいじゃない」

「それは分かりますよ。今の宰相も、王太子時代の陛下の側近だったのでしょう?」

「リュカ殿が未来の宰相。悪くないですね」

「でしょう?」


まだ、甘いところはある。でも今から政治を勉強すればかなり遣り手の政治家になれるはずだ。それまではヴィクトー宰相が支えてくれるだろう。


問題は、親バカなお父様と、夫になる宰相が、私の近くに付く同年代の男性を認めるか。


「……リュカって、婚約者とかいるのかしら」


ふと思って口にした。

婚約者がいる、嫁がいる、となれば許してもらえるんじゃない?ティモテとマテオだって、それで同行が認められたのだし!


「なるほど、殿下に手を出す余裕はないというアピールになりますね」

「ティモテとマテオが今回同行を認められたのも、愛妻家だからだもの」

「そ、そうですか」

「……恐妻家の間違いかなー」

「違いない」


なんだか可哀想な会話をしている。

どんな奥方なのかしら……。


「ではリュカ殿を側近にする話は、最初は書かないでおきましょう」


マテオの言葉に頷いた。


「リュカに話を聞いてから、お父様達には再度手紙を出す形ね」

「嫌がりそうですけれどね、中央に行くの」

「謙遜して断るのが目に見えるわ」

「それを見越して、処罰なのでしょう?」

「ええ。お願いしても来てくれなさそうだから」


実際のところ、リュカの立場は微妙なのだ。

私に不敬を働いてはいないし、協力もしてくれている。

それでも、ずっと表向きルイゾンに従っていた、実の息子なのだ。

親の罪は、子にも降りかかる。

処罰なしとは出来ないのだ。


「一番、私達に実益のある処罰なのよね。ディディエさんを領主代行にすれば、領主が中央勤めも可能でしょう?」

「はい。普通より覚えることや仕事は多いでしょうが、ディディエ殿が領主代行として補佐するならば問題ないでしょう」


現領主のマテオが言うならば間違いない。


「なら、方向性はこれで良いわね?」

「後は、陛下対策ですね。殿下に悪い男が付いたと文句を言われなければ問題ありません」

「……リュカに婚約者がいなければ、婚活パーティーを主催するわ」

「そこまですると、逆に陛下の不興を買うのでは」

「は!」


もう本当に、お父様と宰相面倒くさい!

愛してくれるのは嬉しいけれど!


こうして、会議のほとんどがリュカを守るための会議に終わったのだった。

ああもう!


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