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55.晴れました。


私達は鐘を元のようにくくりつけると、ゆっくりとその部屋を後にした。


鐘が鳴ったらバルコニーに皆が集まるとは言え、すぐに来るわけではない。

それに、鐘の場所とバルコニーはかなり近い。


ただし今は宣言前だ。

警戒は怠ってはならない。

剣に手を掛けながら進んで行く。


が。


「……いないわね、人」


全く人に出会わない。

稀に遠くでバタバタと音がする程度だ。


「私達にとって、鐘はそれだけ大事なものなのですよ」


ディディエさんの言葉に首を傾げる。


「鐘が鳴ったら何があっても集まれ、ということ?」

「はい。身分の貴賎を問わず、何を放り出しても行け、と代々伝わっております。私も何度か行きました」


私はゾクッとした。

それはすなわち、戦のために集まれと言ったら、すぐさま軍団が組織されるということではないのか?


「……それは、いつから?」

「たしか……100年程前からだったかと」


紐付いた。

94年前の、南部の内乱。

南部の領主が時の王に反感を持ち、決起したというものだ。

実際、どうしようもない王だったらしく、全国的な騒動となったという。

最終的には立派な王太子が王に立ったことで終息し、内乱の主犯格もお咎めなしだったとか。


その、決起した領主は、ラシーヌ侯爵であろう。

この国の歴史は敵方の名を出さない配慮がされているため、確実ではないが、細長い半島のようになっている南部のほとんどがラシーヌ領なのだから。


2人がどこまで知っているかは知らない。

だが、今協力しあっている。

それで十分だろう。

この2人を敵に回さなければ問題ないのだ。


「とても伝統があるのね。素敵だわ」


私は軽やかに笑った。




「!殿下!ご無事で!」


バルコニーまであと少しというところで、マテオと再会した。

元気そうな様子にホッとする。


「ええ、マテオも怪我はない?」

「はい。牢番達も息災です。リュカ殿、ディディエ殿もお怪我は?」

「殿下のおかげで全くの無傷です。それに……本番はこれからですから」


リュカが頷く。

ずっと静かだったのは、内容を考えているからだろうか。



「牢番の2人は?」

「バルコニーにて番をしてもらっています。

マティス殿の言うことは本当でしたね。彼を見て、騎士がざわめいていました」

「……牢番長?」


知らない名前に、当たりを付けて聞くと頷かれた。


「ええ、本当に騎士団長の座を争っていたのだなと」

「ふふっ、彼は亡霊のようなものですからね。では、もう1人の亡霊も姿を現しますか」


ディディエさんはそう言って、さっさとバルコニーの外に出た。

……て、え?リハーサルもなし?!


「……リュカ、あなたは何を言おうとしている?」

「は、はい。私が領主代行となったことと、決意表明のつもりで……」

「分かったわ」


ざわざわ


室内にいる私達にも、どよめきが聞こえる。ディディエさんのせいだ。

そして彼は、さらにやらかしてくれた。


「私はディディエ・ラシーヌ。我が身は兄、ルイゾンの悪政を咎めた罪により拘束されていた」


静かに語り出すディディエさん。

て、待って待って!こちらの心の準備が!


「しかし、我が身は解放された!ルイゾンが王太子殿下を害そうとし、はね除けた王太子殿下が救ってくださったからだ!」


ほらもう、私にも出ろってことですよね?!

でも私も王太子だから、人前が嫌だとか言っていられない。

女は度胸!よし!


私はバーン!とバルコニーの扉を開いた。

ディディエさんがにこやかに私を迎え入れてくれる。


バルコニーの下には、ものすごい数の人、人、人。

少し飛んでいる人もいる。

たくさんの瞳が、私を突き刺す。

深く息を吸い、私は笑顔を浮かべて前に出た。


「私は、アンヌ・ゴルデン。先日この国の王太子となり、この度はハリケーン被害の慰問とラシーヌ侯爵家の監査のため、王の名代として参りました」


静かな空間に、私の声が響く。

緊張で震えそうな声をどうにか振り絞った。


「私は全てのラシーヌ領の村を見て回りました。ルイゾン・ラシーヌの圧政に、ハリケーン被害と合わさって苦しんでいらっしゃるのを目の当たりにいたしました。そんな中、ルイゾンに隠れ、民のために活動している者の存在を知ったのです」


脳裏に浮かぶは、ロックとして釣りをしていた少年。

しかし今は、頼もしい領主代行。


私はディディエさんをチラリと見た。リュカについて、ディディエさんからも紹介したいだろう。


ディディエさんは私の意図を理解し、1つ頷くと前に出た。


「次の領主は、ルイゾンとは違い、私利私欲に走らない者でなければならない!自分の食事も評判も減らし、私を含む大勢の民を生かしてくれた彼こそが、ふさわしい!」


後ろに控えていた牢番の2人が、扉に手を掛けた。


「我が甥、リュカ・ラシーヌ」


扉が開いた。

背筋を伸ばしたリュカがいた。

私とディディエさんは横にずれる。


リュカはバルコニーの下を見回した。

ゆっくり、全ての民と目を合わせるかのように。


そして彼は、口を開いた。


「先ほど、領主代行に任命していただいた、リュカ・ラシーヌである!」


彼の声は、空気を震わした。

ああ、やはり、彼は領主の器だ。


「まず、ルイゾンを早くに止められなかったことを、謝罪する」


小さなざわめきが起きた。

領主、特にルイゾンは、謝るなんてしなかっただろう。


「これから、私は出来る限りのことをしていく。領民の生活を今より良くすると約束しよう!そのために、皆の協力が必要だ!」


うおおお


領民達から、雄叫びが上がった。

私は安堵の笑みを浮かべる。


リュカの隣に、私は並んだ。これで、終わりにしよう。


「王の名代として、リュカ・ラシーヌを領主代行に任命することを宣言いたします!」


わあああ

リュカ様万歳!

王太子万歳!



見上げれば、先ほどまで雲のあった空は、雲1つない青空になっていた。


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