41.状況を知りました。
案内されたのは村長の家だった。
ハリケーンでやられたのか、ひび割れが目立つ。
だがとても立派なレンガ造りの建物だ。
「まずはお礼を。あなた方を襲ったというのに、許すどころか施しまでしていただきましたこと、まことにありがとうございました」
村長が頭を下げる。
そのすぐ後ろには私を最初に襲った男性がおり、そのまた後ろにいる大勢の襲撃犯達と一緒に頭を下げている。
「いいえ、皆様が食べる物に困っているのは私達の政策の失敗を意味します。少しでもお役に立てたのでしたら幸いです」
村長が頭を上げ、こちらを見た。
というより、私の翼を、か。
彼がごくりと喉を鳴らすのが分かった。
「……私は、村長のジェルマンと申します。こちらは息子のマルタンです。……お名前を、うかがっても?」
やはり親子だったのか。だからリーダーぽかったのね、彼。
さて。
私が誰なのか、ジェルマンは分かっている様子。
マルタンはちんぷんかんぷんね。
私は神々しく見えるよう、微笑みを浮かべた。
「私は、アンヌ・ゴルデン。この国の王太子です」
分かっていたであろうジェルマンはゆっくり片膝を地に付けた。
他の者は驚愕すると、頭を地に擦り付けた。
「ご、ご無礼を……!」
私は苦笑する。
そもそも私は身分を見せびらかして歩いているようなものなのに、なぜ気付かなかったのか。
「バカもん!黄金の翼でいらっしゃるであろう!なぜ気付かない!」
ジェルマンが怒ってくれた。
ですよねぇ。
私の後ろも苦笑しているのが分かる。
「して、なぜこのようなところにいらっしゃるのですか?」
「ハリケーン被害の慰問と、現状を確認しに参りました」
私はロールプレイングを思い出す。大丈夫だ。
「過去に二度、南部へ食料や木材を送らせています。ですが上手く届いているように思えなかったのです」
「な、なんと……。そのようなことをしてくださっていたとは、まるで存じ上げませんでした」
やはり、村にまでは届いていないのだ。
「こちらの領主は、ラシーヌ侯爵ですよね?」
「ええ……」
ため息と共に頷かれる。
……問題があるな、これは。
「ラシーヌ侯爵から、援助は?」
「ありません。どころか、通常と同じだけの税を納めよと食料を根こそぎ持って行かれました」
「……そうですか」
後ろでマテオがメモをしているのが見える。
「その時の証文などはありますか?」
「ああ、確かありました。マルタン、探して来なさい」
「はい!」
これで証拠を出せれば検挙できる。
「村の女性達も何人も連れて行かれまして……」
「だが、女性には飯を食わせてくれているのだろう」
「あいつらが持って帰ってきた飯でここまで生き永らえたじゃないか」
「あ?ということは、あれは領主からの援助なのか?」
んん?
なんだか不思議な話だ。
村の女性達を強制的に連れて行ったのに、食料を持たせて帰らせてくれたとは。
通常通りの税を要求した非道な領主の姿と一致しない。
「失礼。その女性達にお会いすることはできますか?」
黙っていたティモテが口を挟んだ。
いつもの間延びした喋りでないので少し動揺する。
そっか、そりゃあ公私は分けるよね。
あれ、私と話す時ってプライベート?
……悲しくなってきたのでやめよう。
「それが、皆すぐに戻って行くので、今は誰もいないのです。またすぐお休みをいただけるから、と」
「他には何か言っていましたか?」
「いえ……何も言ってはいけないようでした」
村の女性が村の人に秘密を作るとは、かなり怪しい。
領主の愛人にでもなった?
でも、1人だけではないのよね。
うーん……。
「それは、この村だけなのですか?」
私が聞くと、後ろにいた男の1人が、あ、と声を発した。
「隣村でも同じだって言ってたな!」
「食料に困っているのも同じですか?」
「へい!そうです!」
領主の女性への愛によるお情け?
でも何かおかしい。
「アンヌ王女、他の村にも寄れるだけ寄りましょう」
「そうね」
マテオが耳打ちするのに頷く。
ちょうどマルタンが帳簿と証文を持ってきてくれた。
帳簿まで持ってきてくれるとは気が利く。
これで、ここでやるべきことは以上だ。
そろそろお暇しよう。
「情報をありがとうございました。
お礼と言ってはなんなのですが、飢饉に強い芋類と、すぐに収穫できる野菜、家を直すのに使う木材とレンガを置いていきますわ」
「な、なんと!恐れ多いことです!すでに美味しいご飯をご馳走になったというのに……!ありがとうございます……!」
今度はジェルマンまで頭を地に付けてしまった。
そこまで感動されると忍びない。
「顔を上げてください。
そんなに量が多くないのでそこまで感謝されてしまうと申し訳ないですわ」
「いえ!今まで上の方からの援助などなかったのです。感動しかございません。本当に、本当にありがとうございます。見捨てられていないと分かっただけで、どれだけ嬉しいか……っ!」
思わず言葉に詰まってしまった。
そうか。彼は、村長として村人を守りたいのに守れず、誰にも頼れず、苦しんでいたのだ。
私はしゃがんで同じ目線になった。
「では、素直にその感謝は受けましょう。復興を祈っています」
「はっ!この身を賭して村を復興させていただきます」
またしばらくしたら、ここに来よう。どれだけ復興しているか、楽しみだ。
「楽しみにしています」
私はにっこり笑った。
そして私達は、次の村へ向かう。




