28.覚悟を持ちました。
ついにこの日が来た。
私の立太子式!
嬉しい反面、元来人前に出ることが得意ではない私はバクバクだ。
1対1ならまだ大丈夫なのだが、大勢に見つめられると緊張してしまう。
だが、慣れないといけない。
王太子になれば、人前に出ることが多くなるのだから。
今日は珍しくたくさんの侍女が部屋にいた。
盛り盛りっと着飾られる。
衣装は黒のドレスだ。
だが所々に刺繍やビジューが付いていてとても豪華。
胸元はそこまで開いているわけではないが、首が長く見えるよう計算された作りだ。
式典では飛ぶので、スカートの中が見えないよう、モフモフとしたズボンを何重にも履いていて暑い。おかげでふわりと広がっている。
反面、ウエストラインはかなり絞られており、苦しい。普段はワンピースタイプしか着ない私は慣れていないから余計キツい。うう。
「……ここまで絞らないといけない?」
「はい!」
「せっかく細いウエストを見せつけましょう!」
「お胸もあらせられるから、メリハリがあってスタイルがより良く見えますわ」
「……ワカリマシタ」
口々に言われてしまい、私は口をつぐんだ。
もう何も言うまい。
髪はアップにされている。
横髪が巻かれて揺れているのがおしゃれだ。
こちらも、崩れないよう、ぎゅっと縛られ押さえられているため頭が痛い。
小さな花やパールが散らされているのを鏡越しに確認し、テンションが上がった。
耳には大きめのダイヤの付いたイヤリング。
胸元にはパールのネックレス。
……私は今、総額いくらなのだろう。
贅沢だとは思うが、これらは支度金として国から支給されたお金で用意されている。
使いきるのが正なのだそうだ。
マグノリアに会計を任し、エデにコーディネートを頼んだら、こんなことになった。
おしゃれで綺麗だから良いのだけれど。
すっぴんのことが多い私も、今日はお化粧隊に遊ばれ派手になっている。
お化粧隊はなんだか楽しそうだ。
「チークはピンクがお似合いかしら。それともオレンジ?」
「大人っぽさを出すためにピンクの方が良いのではない?」
「そうね!」
「眉はもう少し太く書いた方が良いかしら」
「太さはそのくらいで、長さをもう少し出して~」
私も化粧は好きだったが、こうも大勢に自分の化粧について語られると、もうどうにでもなれ!という心境になる。
そうして、侍女達の努力により、私は完成した。
うん。いつもの3割増し!
仕上げにヒールを履き、脱げないようバンドを付ける。
よしよし!
しばらくして、迎えが来た。
迎えに付いて、謁見の間へ向かう。
式典自体は少人数で行われるのだ。
衛士が扉を開く。
中へゆっくりと足を踏み出した。
皆が私に注目する。
バクバクする心臓を無視して、背筋を伸ばし王の前へ進み出た。
お父様が優しい笑みを浮かべて私を見る。
それを見て何だか、涙腺が緩みそうだった。
ああ、やっとここまで来た。
何度思ったか分からないが、再度実感する。
「アンヌ・ゴルデン」
「はい」
ここにいるのは宰相と大臣達のみ。
とは言え人はいるのに、誰も物音を発しない。
お父様の通る良い声が、広くない部屋に響き渡る。
「汝を、王太子に任命する」
「謹んでお受けいたします」
王太子の証のマントが授与された。
翼を通せるようになっている、赤いマントだ。
近付いて来た人間の使用人が私に着せてくれる。
……これは、いくら器用な私でも手伝ってもらわないと難しそうだ。
マントは重たかった。
責任の重さというものだろうか。
私は平和に生きるために王を目指し、王太子になった。
だが、それだけではいけないと、唐突に感じた。
身分差に、嫌だなと感じたこと。
災害のあった地域に胸を痛めたこと。
全て覚えておかないといけない。
出来る限りの解決を図らなければならない。
それが王太子の役目だと、やっと理解した。
飾りではないのだ、この国の王太子は。
パフォーマンスのための勉強ではいけないのだ。
お父様を見上げる。
最初は天然で可愛い人という印象だったが、今は立派な王だ。
責任を負う覚悟が出来ている。
今改めて見て、カッコいいと思った。
私も、同じ覚悟を持とう。
カッコいい王になろう。
私は王に最敬礼をすると、臣下達の方を向いた。
一礼して、飛び上がる。
次いでお父様が後ろで飛ぶ気配がする。
最後に臣下達が飛んだ。
皆が私のために空に浮かぶ。
なんて圧巻なのか。
ピーピーと口笛が鳴る。
歓声が上がる。
腹の中に一物持っている人はいるだろうが、これで私は認められたことになる。
私は、この国の、王太子だ。




