23.悩んでいました。
15歳になりました。
今日は、日差しの温かい日だった。
思わず目を閉じ、日の温かさを感じる。
「おねえさま!はやくはやく!」
「ちょ、引っ張らないでマノン。姉上、お早く!」
すでに空にいる弟妹に呼ばれ、私は笑顔で地を蹴った。
ソラルと繋いでいるのと逆のマノンの手を握る。
「ごめんなさい、良いお天気だなと思って。どちらに行きたいの?」
「ひがしのおおもん!」
「はいはい」
マノンは6歳になり、空を飛び回るお転婆さんになった。
お花などより建物や軍隊に興味を持つ男まさりな子だ。
将来、姫将軍とかになってしまうのだろうか……。
マノンの金髪が日の光に当たって煌めいた。
3人の中で彼女だけがお母様譲りのストレートヘアだ。
さわり心地が良く、いつでも綺麗にまとまっていて羨ましい。
マノンの手をぎゅっと握ってハラハラしているのはソラルだ。
金髪天使だったソラルは、そのまま美形王子になった。
10歳だが、もうそろそろ背も抜かされてしまいそうだ。成長が早い。
「ソラルも何だかんだマノンに付き合ってあげて、良いお兄様よねぇ」
「……まぁ、可愛い妹ですから」
苦笑はとても大人びていて美しい。
が、次の瞬間。
「マノンが姉上にべったりなので、姉上と一緒にいようと思うと必然的に、とも言います」
黒い笑みに、思わず背筋がゾクッとした。
……育て方を間違えたのかしら。
でも敵を作らず上手く対処しているソラルを見ると安心する。
多少の腹黒さは、生きてさえいるなら許容範囲だ。
今日はマノンのリクエストで、兄妹水入らずの空中散歩をするのだ。
二人とも空を飛ぶのが上手になっていて、私も鼻が高い。
「きゃ!とり!」
ぐいぐいと私達を引っ張っていたマノンの目の前を、鳩のような鳥が急に通過した。
可愛らしい悲鳴をあげたマノンだが。
「おにいさま、やきとりにしてー」
「そんな無茶な」
マノンもしっかり腹黒の片鱗を見せ付けてきます。しくしく。
ふと、何かが飛んで来る音がした。
がしっ
私に向けて飛んできた矢を左手で掴む。
マノンの手を離し、差していた木刀を抜いた。
カッ カッ
さらに2本矢が飛んできたので、こちらは剣で叩き落とした。
こちらはソラルとマノンに対するものか。
地上からだ。
見下ろせば逃げる人影。
逃がしませんよ?
私は掴んだ矢をダーツの要領で思い切り投げた。
当たらないが、驚くのが分かる。
「先に行っててー」
ソラルとマノンに告げると急降下。
今度は違うところから矢が放たれる。
まったく、何人いるのか。
全て叩き落としながら近付き、最初に矢を射た者の肩を体重を乗せて打った。
「うがあっ」
大声で倒れる彼を見て、逃げる二人。遅い。
私は横から振り抜き、一人の脇腹に木刀を入れる。
吹っ飛んだ彼は、近くにいたもう一人に激突した。
「ぐふっ」
「うわ!」
そうこうするうちに駆け寄って来たのはウィロウだ。
「ウィロウ、縛り上げるの頼むわ」
「はい」
ウィロウも長身イケメンへと成長した。
160センチ程ある私より20センチは高いのではないかしら。
15歳なので、まだ伸びているらしい。
どれだけ大きくなるのか……。
「ハンスは?」
「……休憩中です」
「そう。対処はハンスに頼んでおいて」
「……はい」
手は動かしながらも、だんだん歯切れの悪くなるウィロウ。
首を傾げた。
「どうしたの?」
「……まだ頼りないですか、私では」
「え」
そんなことはない。
こうしてすぐ駆け寄って来てくれたし、剣や弓の腕も良いことを知っている。
ハンスを呼んでと言うのは、諜報部隊のことをウィロウに伝えていないからだ。
ウィロウは表の騎士で、ハンスは表に見せかけた裏の騎士、というところか。
「頼りにしているわよ?」
「……二言目にはハンスさん呼ぶじゃないですか」
そう言って顔を背ける。
う、うわー!可愛い!耳が真っ赤!
「頼っていることが違うだけよ」
「……全部頼ってほしいんです」
「……ありがとう」
その気持ちは嬉しいが、戸惑いの方が大きかった。
ウィロウに伝えるのであれば、マグノリアも巻き込もうと思っている。
どちらも信頼に値するからだ。
だが、なかなか勇気を出せなかった。
これだけ私のためを思ってくれていて、絶対に裏切らないと思っている二人に、秘密を持ち続けるのか?
教えたとして、秘密を守るということがプレッシャーになってしまわないか?
「ウィロウにも頼むようにするわね」
私はズルい。
そう言って目を合わせずにソラル達の元へと逃げた。
ただ問題を先送りにしているだけと、分かっていながら。