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17.代行しています。


私は以前にもまして忙しくなった。


「ふにゃあふにゃあ」

「はいはい、良い子良い子」


私はマノンを抱き上げ、上下にゆっくり揺らした。

この動きが好きなようで、泣き声が弱まる。寝るかな?


コンコン


「アンヌ様、休憩をいただきありがとうございました」


入って来たのは乳母だ。

お母様が育てられなさそうであったため早くから手配していたのが良かった。産まれてすぐにお乳を飲ませてくれた。


「ふにゃあふにゃあ」

「ふぇっふぇっふえーーん」

「ああっ!申し訳ございません。うるさかったですね」


乳母が入って来た音に反応したのか、乳母の子と二人でダブル泣きだ。

思わずため息が出そうになる。


「大丈夫ですよ。はい、トントン」


そう言いながら乳母の子を抱いて背を叩くのはエデだ。

双子を育てたエデは本当に頼もしすぎた。

乳母も一人目の子供で慣れていないから、とても助かる。


エデの見よう見まねで、私もマノンの背中をトントンしてみた。

少し泣き声がおさまってきたかな?


しばらくして眠った二人。

寝顔は天使だ。

乳母も王族の血を引く人で、子供の父親もそうらしいから、乳母の子は金髪でどことなく私達に似ている。

マノンと並ぶと双子みたいだ。


「ごめんなさい、お勉強しに行きたいのだけど、お願いして良い?」


小声で言うと、乳母がアカベコ人形のように首を振った。


「もちろんでございます。それが私の仕事ですから。むしろこんなに手伝わせてしまって申し訳ございません」

「妹だもの」


微笑み、マノンを乳母へ手渡した。

そーっとバトンタッチしたはずだったのだが。


「ふぇっふぇっ」

「ああー………」


振り出しに戻ってしまった。




私は自室に戻った。

本当はずっとマノンの面倒を見ていたいが、やることは多いのだ。

マノンが産まれたばかりの今だからこそ、気を引き締める必要がある。


「ハンス、マノンの周りで動きは?」

「何もありませんね。白翼でいらっしゃいますし」

「なら良いのだけど……ソラルの方は?」

「変わりありません。ただ昨日、アンヌ様がいない時にマノン様の元へ行かれたとか」

「そう」


嬉しいことだ。

私はほぼマノンに付きっきりでソラルに構ってあげられず、赤ちゃん返りしないか心配していたのだが、兄の自覚を持っているのだろうか。

とは言え、まだ4歳。二人で会う時間も作らなければ。


「今日の夕ごはんはソラルと二人で食べたいわ。手配してもらえる?」

「かしこまりました」


近くにいた侍女が紅茶を入れながら頷いた。

私はそれを横目に教科書を読む。

明日から新しい授業が始まるのだ。

歴史はもう大丈夫だろうということで、今度は政治について。将来に直結するので気が引き締まる。


ただ、眠い。

最近は夜もマノンの世話をしていて寝不足なのだ。

本来、それを解消するために乳母や侍女がいるのだろうが、私は少しでも関わりたかった。

乳母や侍女が疲れ果てているのに優雅に生活するのは気がひけるし、母親のいないマノンに家族の愛を与えたいと思うのだ。


お母様がいないのなら、私が代役をしなければ。

せっかく精神年齢が異様に高いのだ。母親代わりくらいこなしてみせる。


だいぶ冷めてきた紅茶を一口飲む。

ああ、美味しい。


教科書を10ページ程読みすすめたところで、声が掛かった。


「30分後に数学の授業ですが、そちらの準備はよろしいので?」

「…………ありがとう」


すっかり忘れていた。

やはり疲れているのだろうか。


私は数学の予習に取り掛かった。

ああもう、本当に忙しい!




夕ごはんの時間に、ソラルは私の部屋を訪れた。


「おねえたま、およびいただきありがとうございましゅ」


が、なんだがよそよそしい。

今までニコニコと走り寄って来てくれていたのに。


「どうしたのです?ソラル。ほら、いらっしゃい」


しゃがんで腕を広げ、私は待った。

ソラルは動かない。

こうなったら根競べだ。


ソラルはその場で、ポロポロと大粒の涙をこぼした。


「お、おねえたまが、ち、ちがうひとみたい、で」

「え?」


変わった覚えのない私は驚いてしまった。

見た目は変わっていないはず。

ならば、母親代行モードがいけないのか?


「おかあしゃまも、いない、し、でもやくそく、した、から、マノンやさしく、しなきゃ、で」


ああ、やはり二人の時間を作って良かった。


「ソラル。私は変わらないわ。いらっしゃい」


私は腕を広げたまま笑みを深めた。


ソラルはおずおずと近くに来た。

触れるほど近くなったところで、ソラルを引き寄せる。


「ソラル。大好きよ。寂しかったわよね。ごめんね。でも今は二人きりよ。一緒に美味しいご飯食べましょう?」

「ふ、う、うわぁああん」


しがみつくソラルをぎゅっと抱き締めた。

まだ4歳。賢い子ではあるけれど、甘えたいお年頃だ。

もうお母様はいない。私が支えてあげなくてどうする。


「よしよし。マノンのことも気に掛けて偉かったよ」

「……おにいたまに、なるから」

「そうね。立派なお兄様だわ」

「マノン、おにいたまって、よんでくれる?」

「お話しできるくらい大きくなったら、呼んでくれるわ。それまでいっぱい、ソラルが名前を呼んであげて」

「……うん!」


腕を緩め、ソラルと目を合わせた。

まだ顔はぐちゃぐちゃだが、良い笑顔だ。


「さぁ、ご飯にしましょう。ソラルの好きなシチューよ」

「やったー!」


姉弟水入らずのご飯は、とても美味しかった。






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