表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/82

15.幸せを呟きました。


お母様と面会した後、ソラルは私の部屋まで付いて来た。


どうしたのです?と笑い掛けようとして、失敗した。

彼の不安が私に伝わってきてしまったのだ。


今日だけね、と約束して、私はソラルを自分のベッドにいざなった。

ぎゅっとしがみついてくる温もりを、冷えないように包み込む。


何と声を掛けようか、何の絵本を読もうか、なんて考えたけれど、何も口に出せないまま抱き締めていた。

ソラルが眠りについたのを見て、ホッとする。


「ハンスはいる?」


小さく後ろに声を掛けると、気配が近付いた。


「何用でしょう」

「医務室の報告を」

「はっ」


私は数少ない諜報部隊を割いて、医務室の護衛と情報収集を行わせている。

お母様を、少しでも守りたかった。


「こちらです」


しばらくして渡された紙を受け取る。

特記事項なし、の文字に安心した。


お母様はソラルを産んだ後、3回も流産している。

それらは自然なものとは思えなかった。


お父様の寵愛を受けるお母様。

人間なのに金翼を産んだお母様。

二人目こそは人間だと思ったのに有翼族を産んだお母様。

何度も妊娠するお母様。

目を付けられない方がおかしい。


だが、私は彼女を好きだった。


前世の私より年下なのに、彼女はとてもかっこよかった。

辛いことに歯を食いしばって耐え、他人には穏やかな笑顔を向ける。

その姿にどれほど勇気づけられたか。

この世界に産まれたあの時から、彼女は私の心の支えだった。


彼女は私にたくさんの愛もくれた。

不安だった心は、愛されることで落ち着いていった。

普通の子供らしくない私だったが、それでも目一杯の愛と幸せをくれた。


だから、ずっと一緒にいたかった。

私の大切な人の一人だった。



大切な資料に水滴が落ち、滲んでしまった。

もうダメだ、と資料を手放す。


「ハンス……片付けて。おやすみ」

「……おやすみなさいませ」


今日のお母様は、とてもほっそりとしていた。

消えてなくなりそうだった。

お腹だけが、生命力を感じさせていた。


お母様は、お腹の子を優先させるだろう。

そういう人だ。でも私はどちらにも生きていてほしかった。


「……ふっ、う、うええ」


腕の中から泣き声が聞こえた。

私の感情が伝わってしまっただろうか。


「大丈夫よ……大丈夫」


ソラルにも、自分にも言い聞かせるように私は何度も呟いた。

トン、トン、と背中をたたく。


「大丈夫……大丈夫」


ソラルが笑顔でいられますように。

産まれてくる子が幸せでありますように。


「大丈夫。幸せな家族のままよ」


言霊になりますように。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ