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13.少しずつ関係構築していました。

私はパラパラと資料を読んでいた。


「マグノリア、手紙を書くから用意してくれない?可愛らしい便箋が良いわ」

「かしこまりました」


資料は、私の婚約者についての報告書だ。

マグノリアは難しい仕事の資料だと思ってくれているが、実際はくだらない。母親に怒られたとか、姉をうっとおしがっているとか、そんな内容だ。

だがそれは、チャンスだと私に伝える資料。


「お待たせいたしました」


便箋とペン、墨壷を机の上に置いてくれた。

が、勢いが良すぎたのか便箋が数枚飛んでいく。


「も、申し訳ありません……!」


掴もうとするが、空振り。そして地面へ。


「あ、新しいものを持ってまいります」

「良いわよ、まだあるのだし」


マグノリアは不器用だ。正確には手先が不器用。仕事は早く、段取りも良いのに。


「ありがとうございます……」


赤くなるマグノリアは可愛い。


私はマグノリアに背を向け、手紙に向かった。

彼は、あまり長い文章を読むことを好まない。難しい言葉や遠回しな表現も苦手だ。シンプルに分かりやすく、でもいつもと同じにならないよう考える。


私は便箋1枚に書き綴った手紙を可愛い封筒へ仕舞い、マグノリアへ渡した。


「スタンスラスさんへ届けて」

「は、はい」


マグノリアは手紙を受け取ったが、納得のいっていない顔だ。


「何?」

「……あんな方にアンヌ様が気を使う必要なんて」

「マグノリア」


言いたいことは分かる。

私だって、普通であれば近付こうと思わない人種だ。

ただ、有翼族に味方のいない私はそんなことを言ってはいられない。


「そんなこと言ってはダメよ。笑顔でスタンスラスさんの使用人に渡して来てね」


私がそう言えば、マグノリアはしぶしぶ届けに向かってくれた。

手紙に書いたのは、3日後に会いたいということ。スケジュールも空けておいてもらおう。





私は薄いピンク色のドレスに身を包んでいた。

いかにも女の子、という服装だ。私の趣味ではないが、我慢だ。


私は扉をノックした。


「スタンスラスさん、ごきげんよう。アンヌです」


中からドタドタという音が聞こえ、部屋の主が自ら扉を開けてくれた。


「あ、アンヌ!ま、ま、待ってた!」


彼はスタンスラス。私の婚約者だ。

身長は私と同じくらいだが、横幅が私の倍はある。

元のパーツは綺麗なのだろうが、丸顔とキョドキョド動く目のせいで美形に見えない。顔色も不健康な白さだ。


おそらく発達障害の一種だと思う。吃音持ちで、急に大声を上げるし、物覚えも良くなく勉強は出来ない。

だが純粋で優しいので、彼の姉はスタンスラスをとても可愛がっていた。


「今日はチューリップが咲いていたので持ってまいりました。飾っていただけますか?」

「う、うん!チューリップ好き!」


そうだろう。私の優秀な諜報部隊が調べてくれた情報を元に用意したのだから。


彼の使用人が近付いて来たのでチューリップを渡す。


「最近はお花が色鮮やかですね」

「うん!うん!でもお外行っちゃダメって言われる……」

「そうなのです?」


私は心配そうに顔を覗き込む。

知っている素振りはおくびにも出さない。


「母上が、部屋にいなさいって……」


彼の母親は、公爵の娘でありプライドが高い。

王女ばかり3人産み、やっと授かった王子が彼のような吃音持ちであったため、世間に出すのが恥ずかしいと感じているのだ。

それでスタンスラスが私の婚約者となった経緯がある。恥ずかしい子供の相手が恥ずかしくても、もうどうでも良いのだろう。


「ニネットさんはどうおっしゃっているのです?」

「お、同じこと言う……」

「スタンスラスさんがご心配なだけでは?」

「う、う、うん……。そう、い、言ってはいる、けど……」


彼のストレスはこれに尽きる。

母親は恥ずかしいから外に出したくない。

姉、特に一番彼を可愛がっている3歳年上のニネットは、彼が外に出て後ろ指を指されることを心配している。

結果として、彼は部屋から出られない軟禁状態となっているのだった。


ただ、彼の部屋の外は、人のあまり通らない街路樹だ。

ちょっと木に腰掛けるくらいなら誰にも会わない。3階から空を飛べば、だが。


バターン!


扉が勢いよく開き、スタンスラスが大袈裟な程飛び上がった。


噂をすれば影が差すとは、よく言ったものだ。

入って来たのは金髪を一つに結んだ気の強そうな若い美女。ニネットだ。

彼女の予定が終わるか終わらないかの時間を狙ったのは私であるが。


「あああ、ごめんねスタンスラス。びっくりさせちゃったわね。この魔女が来ていると聞いたから」


ビシッと私を指差し睨んで来る。

私は微笑でお返しした。想定内だ。


「ごきげんよう、ニネットさん。ご相談があるのです」

「私にはあなたと話す時間なんてないわ!」


ぷいっと顔を背け、スタンスラスの腕を取る。

だが私もスタンスラスの手を握った。彼が言えばニネットは話を聞いてくれるはずだ。


「あ、あ、姉上。アンヌは来たばかりなのです」

「それは好都合だわ!混ざりものと一緒にいたらあなたが汚れてしまうもの!」


彼女はずっとこの調子だ。

大事な弟が評判の悪い女と結婚させられそうになっているのだから、同じ姉としては分からなくもない。

だが、私としては困るのだ。


「ニネットさん、スタンスラスさんはやりたいことがあるそうですよ」


ニネットはピタッと固まった。

彼女はブラコンだ。スタンスラスのやりたいことは聞いてあげたいのだ。


「スタンスラスさんは、部屋の外に行きたいそうなのです」

「だ、ダメよそれはスタンスラス!」


心底、彼女は心配して彼の顔を覗きこんだ。


「あなたは私の自慢の弟だけれど、こんな女と婚約させられたから、あなたを指差して笑う人がいるわ」

「人に会わなければ良いのですよね?」


私に対する暴言はスルーだ。もう耳タコなので。


ニネットはじろりと私を見る。


「少なくとも人通りの多い廊下を歩かなければならないじゃない」

「いいえ」


私は首を振った。


「窓から出れば良いのです」


スタンスラスは困惑し、ニネットは眉間の皺を深めた。

あ、爆発しそう。


「そんな危ないことさせられるわけないでしょう!」

「私が抱えます」

「そんな細腕で、しかも混ざりものが、私のスタンスラスを抱えて飛べるわけ」


ニネットが騒ぐなか、私はスタンスラスをお姫様抱っこした。

そのまま宙に浮く。


「大丈夫でしょう?」


ニネットが歯を食い縛る。

悔しくて仕方ないと見た。


「そ、外だって人は来るわ」

「そこの木の上であれば見えないと思いますよ」


2階の窓からは見えるだろうが、厨房であるため年中カーテンは閉まっている。


「あ、姉上、僕行きたい!」


その言葉が後押しとなり、ニネットは折れた。


「……10分!私の見ているところでなら!良いわ!」

「ありがとう姉上!!」


スタンスラスは満面の笑みだ。


「では、このまま参りますね。よろしいですか?」

「うん!」


スタンスラスが私の首に手を回す。

私は窓に向かうと、足で窓を開けて外へ出た。


「うわぁ……!」


スタンスラスは子供のようにはしゃいでいる。まだ9歳ではあるのだが。


スタンスラスの体重でも折れない枝を見つけ、降り立った。

諜報部隊が下調べして教えてくれた枝なので大丈夫だろう。


枝に降ろすと、彼はおっかなびっくり幹にしがみついた。


「この木は、松ですね」

「うん!丈夫な枝してる」

「そうですね」


ニコニコするスタンスラスにホッとする。

枝じゃなくて幹、とは突っ込まない。機嫌を悪くしてはいけないのだ。


見上げれば、窓から身を乗り出しているニネットが見えた。

自分の方が落ちそうじゃないか、と不安になる。


10分経ち、木の上で外を堪能したスタンスラスを部屋に返した。

大袈裟にニネットが心配する。


「スタンスラス、怪我はない?!ああ、お尻が汚れてしまっているわ着替えないと!」

「姉上、大丈夫!」


スタンスラスはご機嫌だ。吃音もなくなるくらいに。


「楽しんでいただけたなら良かったです」

「あ、う、うん。あああアンヌ、ま、また外連れてって、く、くれる?」


私は笑った。


「喜んで」


そうしてスタンスラスに見送られて部屋を出ると、ハンスが近付いて来た。


「どうでした?」

「スタンスラスは私を庇ってくれたわ。ニネットもスタンスラスの頼みだと譲歩する」

「では上々ですね。このままいきましょうか」

「ええ」


小声で会話をすると、私は部屋へ入り普段着に着替えた。

スタンスラスの好みでなければ着たくないのだ、ピンクのフリフリなんて。


私に有翼族の味方は少ない。

だからこそ、一人でも庇ってくれる人、言動を誘導できる人を作る必要がある。


私は次の手を考えるよう、ハンス経由でアドルフへ伝えるのだった。




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