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12.暗殺に対処しました。

玉座の間から、一度部屋に戻る時間があった。

私はソラルと手を繋ぐ。


「ソラル、今日もニコニコしていて偉かったわ。飛ぶのも上手になったわねぇ」

「ありがとうございましゅおねえたま!」


私がそう言えば、ソラルも眩い笑顔を返してくれる。

ああもう可愛い!


もう周りに人は少ないし、良いよね?と思い、ぎゅっと抱き締める。

温かくて良い匂いがした。

ぷにぷにの腕も、柔らかな金髪も本当に好き。大好き。可愛い!


視界に、迎えに来たエデと、護衛のハンスの呆れた顔が入ってきた。

でも、知らない。

私はこの可愛い生き物を目一杯愛さなくてはならないのだ!!


が、背後から何かが飛んで来る音がし、ソラルを抱きながら飛び上がった。

足元を弓矢が通過する。

それをハンスが剣で叩き落とした。


振り向くと誰かが走って廊下の角を曲がった。人間か。


「エデ!ソラルをお願い。ハンスは追い掛けて来て!」

「はい!」

「はっ!」


ソラルを下に下ろすと全速力で飛んで追い掛けた。

私も成長した。速さには自信がある。走っている人間に負けはしない。


すぐに追い付き、組強いた。


「ぐあっ」


昔のように、突撃して終わりではない。動けないよう、両手を後ろに回させ、頭を押さえる。

ハンスが縄と布を取り出しながら追い付いた。

私がこくりと頷くと、器用に腕を後ろ手に縛り上げる。これでもう動かせない。

私は犯人の背中から退くと、足を押さえに掛かった。

心得ているハンスが、布を犯人の口に突っ込む。


「うぐ、んーー?!」


これで舌を噛みきることは出来ない。私は彼にも死んでほしくはないのだ。


足にも縄を巻くと、ハンスは犯人を抱えて立ち上がった。


「連れて行けば良いですね?」

「ええ、よろしく」


笑みを浮かべた。

もしかすると犯人にはエデ並に怖い笑顔になっているかもしれない。

青ざめた顔を見送った。


私は急いでエデとソラルの元へ戻る。

エデもそこそこ腕に覚えのある人ではあるのだが、私には及ばない。

無事な姿を見てホッとした。


「おねえたま、だいじょうぶ?!」


心配してくれたソラルに微笑む。


「ええ、大丈夫よ。ソラルは?」

「なにもありましぇん」


今回は全員無傷で守れた。良かった。


3歳の時、犯人と自分の護衛を殺してしまったことが思い出される。

もうあんな思いはしたくない。

彼らのためにも、犠牲者は増やさない。





式典も記念パーティー終わり、部屋で休んでいると、ハンスが戻って来た。


「おかえりなさい。ご苦労様」

「はっ。……代わろう」


ハンスは私の部屋にいた護衛に声を掛ける。

女性の部屋に護衛の男性って、とは思うのだが、お父様が中にも外にも護衛を置かないと許してくれないのだ。

違う心配はしないのだろうか……。


中の護衛がハンスに代わると、私は気が楽になる。


「ハンス、吐いた?」


それだけで察してくれる優秀な護衛は首を振った。


「味方には出来そう?」

「可能性はあります。

ただ、見つかったら殺される程度の奴です。使うとしても諜報か狩猟くらいにしか」

「良いじゃない、足りていないわ」


私はニヤッとすると、飛び上がって高い位置にある窓を開けた。これはカモフラージュ。


ハンスが、やれやれとため息を吐きながらソファーをずらした。

ソファーで隠れていた壁には切れ込みがある。

その切れ込みをゆっくり押すと、暗闇が見える。

大人はよつん這いでないと入れないその穴に潜っていく。


私に続き、ハンスも穴に入ると、腕を伸ばしてソファーを元に戻した。

暗闇になったところで、扉を閉める。


狭い空間だが、その扉の真向かいにはもう一つ、今度は両開きの扉がある。

私はそれを内側から押し開いた。


バンッ


良い音がして、空間に明かりがさした。

同時にガタッと、誰かが椅子をずらす音がする。


私は明るい部屋に出た。

ハンスも出てきて、そのタンスの両開き扉を閉める。

どこから見ても、ただのタンスだ。


音がした方に目を向けると、私はにっこり笑った。


「さっきぶりね。私はアンヌ。あなたは?」


先程私を襲った犯人は、驚愕の目で私を凝視した。




この部屋は、私の護衛が使う部屋の続き部屋だ。

とは言え、普通の護衛には、私の部屋に続くので緊急時以外は入らないよう伝えてある。


本当は、表立って雇えない者が住む部屋だ。


「いらっしゃいませ、アンヌ様」


スラッとして品の良い、theダンディな男性が微笑んだ。

彼がこの狭い部屋の主だ。


「お邪魔するわ、アドルフ」


私がそう言えば、ハンスが後ろで頭を下げる。


「申し訳ありません師匠。アンヌ様をお止めできず」


失礼な護衛である。


「仕方ありません、アンヌ様はそういう方です」


アドルフもひどい言い種だ。

この師弟は私に対して遠慮がない。


「もう!

それより、あなた。体調はいかが?」


私は驚きで固まったままの襲撃犯に向き合う。


彼は足こそ紐で縛られたままだが、手は自由だ。

普通の椅子に座らせ、目の前の机にはお茶を用意されている。食事も取ったのか、食べ滓の残るお皿が乗っていた。

服は暗器を警戒してポケットのないものに着替えさせているが、変な格好でもない。


これが、私流、情報を聞く方法だ。


「……まず聞く。なぜ牢ではなくこんなところに連れてきた」

「ここが、牢屋なのよ」


私は微笑した。

舌を噛んで自殺する可能性を考えていたのだが、さすがアドルフ。

もうそんな素振りはない。警戒だけだ。


「ここの住人は、私に繋がれるの」


今は実際に繋がれているが。


沈黙した襲撃犯に、アドルフが話し掛けた。


「私達も、元はアンヌ様とは敵だったのですよ」


アドルフの声は優しい。

襲撃犯もアドルフの声は素直に聞く。


「人間というだけで、この国では生きづらいでしょう。アンヌ様の元ではそれがない」


断言されて、苦笑してしまった。

私にはまだ力がない。

この部屋で人を匿うくらいしか出来ない。


でも、未来は分からない。


「あなたは、どのような未来を見たい?」

「……そんなもの、望んだところでどうなる」


目付きが険しい。でも、仕方ないとも言える。この国で人間は、良くて休みのない使用人、普通で奴隷。希望なんて、持てない。

豪奢な部屋で豪華なご飯を食べられる人間なんて、私の母くらいなのではないかしら。


「ご飯、食べたのよね。美味しかった?」

「……」


後悔が顔に見える。別に何かを請求するわけではないのに。


「違うの。食べたから何かしろとは言わないわ。

ただ、毎日3食、今くらいのご飯であれば出せるわ。そんな未来はどう?」


私は、自分の部屋に台所を持っている。

人間の血を引くんだから自分で用意しろ、ということらしい。

だがおかげで融通がきくし、使用人達にも美味しいご飯を振る舞える。


彼は、ごくりと喉を鳴らした。

もう一息か。


「壁に、ベッドがたくさんあるでしょう。ふかふかのお布団を用意しているわ」


天井が高いため、壁にそって3段ベッドが設置されているのだ。

出入口タンスの横に、3列。

横幅の狭い部屋とは言え、縦の長さは私の部屋と同じなので、かなりの縦長なのだ。


襲撃犯は上を見上げて呆然としていた。

一番下の段も床から2メートルの高さにあるため、天井だと思ったようだ。

落ちないよう、一つのベッドは3メートル×2メートル。キングサイズより広い。むしろ小さめの部屋だ。


「今までより、良い暮らしが出来そうでしょう?」


アドルフがニコニコと語りかける。

襲撃犯は、固い動きで私に向き直った。


「……やることは、多そうだな?」


口角が上がりそうになるのを慌てて抑えた。

釣れた!


「そうね。働かざる者食うべからず。やることはあるわ」


私はビシッと、窓枠を指した。

疑問符を浮かべる彼を手招きすると、アドルフが椅子ごと彼を運んでくれる。


窓の向こうはベランダだ。

そしてそのベランダには。


「んな?!」


目を見開く彼に、私達3人は得意気に笑った。


ベランダの天井部分には、干された兎や鳥。

床部分にはプランターで栽培されたたくさんの野菜と穀物。

私の部屋の前から使用人の部屋の前まで続いている、一大食料庫だ。

使用人部屋からも私の部屋からも、ベランダには立ち入れない。

協力者の侍女がこっそり世話をしているので、普通の侍女達は知らない。

外からはプランターは見えるが、天井から50センチ程は壁と同色に染めた板で隠されており、干し肉を見えなくしていた。

そもそも、ベランダは森に面しておりほとんど誰も来ない。

木の枝がベランダ近くまで来ているので、人間でも2階から外に降りやすいのも利点だ。


「食べ物が多くて困ることはないわ。弓が得意なら、狩猟をして来てほしいの」


ふっ、と襲撃犯は皮肉げに笑った。


「逃げるかもしれないぞ?」

「そうしたら、ふかふかのベッドと美味しい料理にありつけないわ」

「……」


協力者の侍女は、本当に料理上手だ。

私も前世の知識を彼女に伝え、美味しさを追い求めてもらっている。

はっきり言って、この世界に彼女のご飯より美味しいものはない。


そして、逃げてもふかふかのベッドに人間がありつける可能性は、極めて低い。


私はニッコリと笑った。


「ね、私に繋がれているでしょう」


襲撃犯は大きく息を吐いた。


「……分かった。協力しよう。どうせ戻ったところで殺されるだけだ」


私は微笑んで手を差し出した。


「ありがとう。これからよろしくお願い」

「仰せのままに」



こうして彼は私の勢力に入った。

しばらくお互いに様子を見ていたが、裏切らないことが分かってからは、諜報部隊として活躍することになる。


人間を虐げる有翼族から人間を奪うことで、私は力を付けていっていたのだった。




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