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本上さんは今日も可愛い  作者: スカーレットちゃん
9/21

議会は踊る、されど廻らず

「やるじゃん、お兄ちゃん」


 そう言って優香は、僕の胸を軽く叩いて一眼レフを渡してきた。


「お父さんのカメラじゃん」


「ご褒美だよ」


 優香の言葉に首を傾げながら、デジタル一眼レフのメモリーをめくっていくと、そこにはセンテンスス○リングなスクープ写真が記録されていた。


 本上さんと手を繋ぐ山田君、寝そべる本上さんの髪をなでるタロー君、本上さんを抱き締めるムッツリーニ。


 全部僕なんだけどね。


 最後は僕の肩に頭を載せて微笑む本上さん。


「これ、完全にパパラッチじゃないか! 望遠で撮ってるだろ!?」


「花火を撮ろうと思って、お父さんに借りていったんだけど、思いがけず良い物が撮れたよ」


「優香、凄いな! カメラの大先生だな! 将来はカメラマンだな!」


 あの暗さであの距離からこんな綺麗に撮るとは! 最後のなんか、花火の光に照らされて、ちょっと芸術的だぞ! すげぇ、本当に小三かよ!?


「『好きだー!』」


 優香が不意に抱きついてきて叫んだ。


「なっ、聞こえてたのか!?」


「何二人の劇空間してんの。聞こえるに決まってるでしょ? 黒崎さんがビックリしてたよ? 田中さんは爆笑してたけど」


「や、やめれー」


 恥ずかしすぎて本上さんっぽくなってしまった。


「まさか、田中と黒崎さんが見ていたとは」


 まさか、あいつスクープ返ししてないだろうな! そう言えばスマホを見てなかった。


 スマホを取り出すと、スマホが震えだした。


『山田コロス』


『太郎死すべし』


『ムッツリーニ絞首刑』


『痴漢は犯罪』


『てめえは俺を怒らせた』


 ああ、死んだ。僕死んだよ。今日社会的に死んで、始業式に生物的に死ぬ。


朝倉『やるじゃねぇか!』


坂下『うまくやりやがったな!』


野中『一杯(コーラ)奢るから、今度詳しく聞かせろよ?』


 うううっ、タンクトッパーズが優しい! なんだこの男気は!? 涙で文字が見えない! 僕もタンクトップを着るべきなのか!


華蓮『たたた、タロー!

 何か皆から『やめとけ』『別れなさい』『脅迫されてるの?』『弁護士のご用命は、うちのパパまで』とか、メッセージくるんですけど!』


 本上さんと僕とで受け取るメッセージの格差が凄いんですが。


タロー『田中にパパラッチ仕返された模様。すまぬ』


「やられた。センテン○スプリング砲喰らった。被害甚大」


「まあ良いじゃない。公認になるだけだよ」


「いや、付き合ってない」


「そうなんだ、まあでも…えっ?」


「振られてないけど、付き合ってない。保留」


「えええっ!? 付き合ってないのに、あんなセクハラしてたの!? 本当に訴えられるよ? そして確実に負けるよ? 痴漢は犯罪だよ?」


 優香、死人に鞭打つとはこのことだ。やめて。


「分かってるよ! でも、全然怒ってなかったから! 来年も一緒に行こうって言われたから! ほら、写真、本上さん笑ってるだろ!」


「うーん、無罪を主張するには弱いよ。主観に基づいてるよ」


「お前何歳だよ! 裁判ドラマ観すぎだよ!」


「まあ、親告罪だから被害者が訴えを取り下げれば…」


「本上さんには訴えられてないよ!…まだ」


「事態は非常に深刻です。保護者責任も問われるかもしれないから、お父さん達にも報告した方が良いよ?」


「や、やめて! 大事にしないで!」


「仕方ない、私も犯罪者の妹になるのは嫌だし、もう一つ助言してあげるよ」


「ゆ、優香姉さん!」


 助けて、ゆうかえもん!


「今すぐ本上さんに許しを請うのです。そして同意があった、もしくは不問に付す旨を、クラスのグルチャに流してもらうのです!

 あなたの助かる道はそれしかありません!」


「おおっ、導師グル優香!」


 導師優香の教えに従い、僕は可及的速やかに本上さんに許しを請うた。


華蓮『えええっ!? は、恥ずかしいよぅ。しらばっくれようよぅ』


タロー『死ぬ! 社会的生物的に死んでしまう! 助けると思って、お代官様何卒!』


華蓮『ええ? 大袈裟だよ』


タロー『お願い! 殺害予告が続々と届いてるんだ!』


華蓮『ええっ!? でも、ど、同意はしてなかったよ?』


 ひぃぃー! このログを見られたら僕の人生は終わる!


タロー『その発言は僕の死を確定させるから、絶対言わないでくれ! リンゴ飴奢るから!』


華蓮『お祭り終わったらリンゴ飴なんて売ってないよ。じゃあ、不問に付すってメッセしたら良いんだね?」


タロー『おねしゃっす! 何なら、タロー大好きと付けてもらえれば!」


華蓮『あ、厚かましい! 厚かましいぞ、タロー! タロー、ハウス! ステイ!』


タロー『わんわん、バウバウ! 早く早く!』


グルチャ華蓮『えー、今回の報道に関してですが』


 た、溜めるな! スパッと言ってくれ!


グルチャ華蓮『推定無罪!』


タロー『違うだろ!』


華蓮『えへへ、焦っちゃった?』


タロー『やってるけど証拠が出揃ってないだけ、みたいじゃないか!』


華蓮『でも無罪っていうのもなー』


 くそう、散々虐めたから虐め返されてる! 全国の皆! 虐め絶対ダメ!


タロー『助けて、カレンエモン! 宝物あげるから!』


華蓮『仕方ないなー、タロー、ステイ!』


 その間にグルチャは荒れている。『コロス』『サイテー』『犯罪者』とかボロカスだ。


グルチャ華蓮『えー、静粛に! 被害者は訴えを出しておりません! 故に、不問! 今回は不問に付します!

 皆、タロー、虐めちゃダメだからね!』


 やったー! 助かっ…てない!


『えっ、タロー呼び?』


『呼び捨て?』


『タロー死すべし!』


『えー、被害者は事件発生前、被告をタロー君と呼称しておりました。これは夏休み中も同じであることを、私、黒崎夏穂が証言いたします』


 く、黒崎ー! 要らんことを言うなー!


グルチャタロー『ぷるぷる、ぼく、悪いタローじゃないよ、ぷるぷる』


『しね』『ころす』『悪くないタローなど存在しない』


 ひぃぃー! 魔女裁判だ!


グルチャ華蓮『皆、虐めちゃダメ! めっ!』


『むぅ』『むむむっ』『だ、ダメなのか!』


 か、華蓮様!


グルチャ夏穂『えー、被告は一学期『本上さん』と呼称しておりましたが、被害者とプールで遭遇し調子に乗って『華蓮ちゃん』と呼んでいたことを、新たに証言します』


 やややや、やめろ! 黒崎さん、あんたあの時聞いてなかったんじゃないのか!

 やばい、お母さんからノワールにスクープが流れたのを根に持たれている!


グルチャ健『そう言や、タローって『ファーストネームで呼ぶのは妹と彼女だけだ』とか思春期炸裂してたよな』


 このカップルは! なんの恨みがあって僕を追い詰めるのか!


『有罪』『有罪』『ギルティ』『ギルティ』


グルチャ華蓮『告白されたけど、付き合ってないよ?』


『まあ、何か悪かったよ』『こんどコーラ奢るわ』『頑張ったな』


 た、助かったか!?


グルチャ夏穂『付き合ってないのに抱き付いたら痴漢じゃない!』


『ギルティ』『ギルティ』『ギルティ』


 く、黒崎ー!


グルチャ華蓮『あははっ、皆ふざけ過ぎだよ? タローが恐がってるからやめてあげて?

 それにあの時は足を挫いてたから、立ち上がろうとして倒れそうになったのを支えてくれただけだよ』


『うーん』『む?』『ひそひそ』『どうなんだ?』


グルチャ夏穂『推定無罪! 被害者が被告を擁護しているため、罪が確定しません! 新たな物証が出るまで休廷!』


『命拾いしやがったな』『納得いかん』『休み明けを楽しみにしてろ』


 び、微妙ー! 助かったとも言い難い!


グルチャ華蓮『タロー、宝物って何くれるのー?』


タロー『ばか、それグルチャだぞ!』


『なに?』『話が変わった』『裁判長! 被告に買収の容疑が!』


グルチャ夏穂『法廷を再開します!』


グルチャ優香『やめて! お兄ちゃんのライフは残りゼロよ!』


『誰だ?』『誰?』『お兄ちゃん?』


グルチャ優香『ふっ、いつから山田太郎が加害者だと錯覚していた?』


 画像読み込み中 …


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