Episode6 拉致
「こんなに若くて可愛い子が私と結婚してくれるなんて、嬉しいです。」
西園寺さんはとても嬉しそうだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、お父さん!
私、結婚なんて考え……」
「うるせぇ! 女の分際で男に逆らってんじゃねぇぞ!!」
まただ。あの日と同じ言葉だ。
この人は何も変わってないんだな。
「……お引き取りいただけますか」
お母さんは、はっきりと力強い声で言った。
「やれやれ、振られてしまったようですね。まぁ、幸奈さんに会えたし、よしとしますか」
大げさに肩をすくめると、西園寺さんはピカピカの革靴を履いて帰って行った。
夏休みは拍子抜けするほど何事もなく終わった。
2学期の始業式が終わった後、私は1人、歩いて帰っていた。護との都合がつかなかったからだ。
歩道を歩いていたその時だった。
車に引きずり込まれた。
マスクとサングラスをしているため、顔はわからない。
「んっ、んーっ!」
声を出そうとするが、口を塞がれているため、声が出せない。
そうこうしている間に、針が刺され、何かが注射された。私は眠気に耐えきれず、眠ってしまった。
「ほら、起きろ!!」
頭を殴られ、衝撃で私は目を覚ました。
「いいか、絶対に俺の顔を潰すんじゃねぇぞ。わかったらさっさと着替えに行け」
「…………はい」
私がそう言うと、お父さんは満足そうに頷いた。
控室に向かう途中、電話が置いてあるのを見つけた。
(もう会えないし、護に電話しとこう)
そう思った私は護の家の番号を押した。
コール音が鳴った後、
「はい、久遠神社です。」という護の声がした。
「もしもし? 私。幸奈」
「おー、幸奈! どうした?」
「……」
「幸奈?」
「…………ごめん。私、もう護に会えない。さよなら」
「お、おい! 幸奈!? 幸奈!!」
これでお別れは済んだ。受話器を置き、私は歩き出した。
「まぁ、その年で西園寺さんと結婚! すごいわねぇ!!」
ヘアメイクのおばさんは上機嫌で私に話しかける。
「あの、西園寺さんってそんなにすごい人なんですか?」
「そうよ〜! 何てったって、あの西園寺財閥の総帥なんだから! 玉の輿よ! 将来安泰じゃないの〜!」
西園寺財閥は日本で知らない人はいないほど有名な財閥だ。そんなにすごい人だとは。
「さ、できたわよ。ドレスも着せるわね」
おばさんは手際よく、ドレスを着せていく。
1時間ほどたつと、ドレスを着た私が鏡の中にいた。
「……ありがとうございました」
お礼だけ言うと、私は控室へ向かった。
控室に入った途端、
「幸奈さん、白い肌にドレスが映えてすごく綺麗ですよ」
西園寺さんに褒められた私は
「……ありがとうございます。西園寺さんも、よくお似合いですよ」
と社交辞令を返した。
「ありがとうございます。でも、表情が暗いですね。美人が台無しですよ。
それから、敬語なんて使わなくていいんですよ。私たちは『夫婦』なんですから」
「……」
それからは下を向いて俯いていた。西園寺さんが何か言っても、相槌しか打たなかった。
それから間もなく、式場へ移動となった。




